アメリカで、前期ペルム紀にあたる2億8800万年前を生きた爬形類(爬虫形類)の皮膚の化石が発見された。皮膚の化石としては世界最古のものとなる。
この極めて珍しい皮膚の化石は、オクラホマ州リチャーズ・スパーの洞窟から発掘された。皮膚はウロコ状をしており、初期の「有羊膜類(爬形類に属する脊椎動物)」が陸上に適応していくプロセスを今に伝えている。
中でも初期の爬虫類である「カプトリヌス」の皮膚は、見た目だけでなく現代のワニと同じ構造をしており、陸上の乾燥から守っていただろうことも明らかになっている。
普通ならすぐに腐るか、食べられるかしてしまう皮膚が、貴重な化石になったのは、リチャーズ・スパー洞窟の特殊な環境がまるで魔法のような効果を発揮したからだという。
『Current Biology』(2024年1月11日付)で紹介された皮膚の化石は、最初期の「有羊膜類(ゆうようまくるい)」の体をおおっていたものだ。
有羊膜類は水辺から離れて乾燥した土地で生きるようになった最初期の動物で、爬虫類に似た姿はウロコ状の皮膚でおおわれていた。
今回発見された化石は、これまでではもっとも古い皮膚の化石で、以前の記録よりも1億3000万年も古い時代のものだ。
ほとんどの場合、生き物が死ねば皮膚はすぐに腐ったり、食べられたりしてしまい、化石として残ることはない。
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ところが、リチャーズ・スパーの洞窟に埋もれていた有羊膜類の遺体には、魔法のような出来事が起きた。
この化石の産地が特別なのは、堆積物に粘土が多く、酸素が少なく、しかも洞窟の岩から石油が染み出してくるという特殊な環境にあることだ。
皮膚の持ち主の遺体は、おそらく酸素が乏しく、比較的乾燥した場所に放置されていただろうと考えられる。それが細かい堆積物で埋まってしまうと、周囲から石油が染み出してきた。
それは3億3000万年前の海に生息していた、有羊膜類の化石よりもっと古い生物が変化したものだ。
これが動物の皮膚や骨と作用することで、ついには皮膚の立体的な構造を現代に伝える化石が出来上がったのだ。
洞窟に残されていた初期の爬虫類カプトリヌスの皮膚の化石 / image credit:Current Biology Mooney et al
カプトリヌスの内部構造は現代のワニと同じだった
皮膚の化石はいくつの種か見つかっているが、どれも同じ時代に生きた動物のものだ。
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中には現代のワニを思わせるウロコ模様のものもあったが、とびきり印象的だったのは「カプトリヌス(Captorhinus aguti)」という動物の皮膚だ。
カプトリヌスは前期ペルム期に生息した爬虫類の仲間だ。その化石には、頭蓋骨の後ろに並んだ24本の帯状の皮膚が残されており、生きていた当時の姿を現代にもっともよく伝えてくれている。
それはまた、彼らの生前の姿以上のものも教えてくれた。CTで化石を詳細に調べてみたところ、その内部構造が現代のワニと同じであることがわかったのだ。
さらに研究者の予想通り、左右に揺れるようなトカゲならではの歩き方に適していたことも明らかになった。
初期の爬虫類「カプトリヌス」のイメージ図 / Michael deBraga
水棲から陸生へ適応していくプロセスを垣間見られる
ウロコのようなカプトリヌスの皮膚は、初期の有羊膜類が、陸上生活に適応していくプロセスも物語っている。
両生類のように薄い皮膚から、丈夫なウロコを備えた陸上生活にぴったりな皮膚へ変化する様子が見てとれるのだ。
皮膚の化石の拡大写真 / image credit:Mooney et al.
そうした皮膚の恩恵は大きく、カプトリヌスのような初期の有羊膜類は、水辺から離れたところで卵を産めただけなく、乾燥にも強かった。
卵の水分が殻によって守られるように、分厚いウロコが体内から水分が失われることを防いでくれるからだ。おかげで、さらに内陸へと進出することができた。
なお今回発見された皮膚の化石は、知られているものとしては最古のものだが、ウロコ状の進化は、もっと前から起きていたと考えられている。
ウロコ状の皮膚への進化は、動物にとってとても重要な一里塚だ。それはやがて、毛むくじゃらの哺乳類や、羽毛を生やした恐竜といったユニークな形状への進化へとつながっていくこととなる。
References:This 288-Million-Year-Old Fossilized Scrap of Skin Is the World's Oldest | Science| Smithsonian Magazine / written by hiroching / edited by / parumo
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