ガストン・ルルーの小説『オペラ座の怪人』のミュージカル版と言えば、日本でもアンドリュー・ロイド=ウェバー作曲・脚本(共同)の同名作品、またモーリー・イェストン作詞・作曲の『ファントム』が愛されている。2024年1月17日(水)に東急シアターオーブで公演が始まった『オペラ座の怪人』ケン・ヒル版は、イギリスのケン・ヒルが脚本・作詞を手がけた1976年初演の作品(今回の上演は1984年の改訂版に基づく。ちなみにこの1984年の舞台を観たロイド=ウェバーはケン・ヒルとの共同制作を考えていたというエピソードもある)。初日に先駆けて公開されたゲネプロを観た。

撮影:ヒダキトモコ

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客席上空にシャンデリアがきらめく中、「パリ・オペラ座へようこそ」のアナウンスが響き、開演。ケン・ヒル版の特徴は、物語的には原作小説にかなり忠実に、ヴェルディの『シモン・ボッカネグラ』『イル・トロヴァトーレ』やモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』、オッフェンバックの『ホフマン物語』といったオペラオペレッタからの楽曲でつづっていく構成。パリ・オペラ座には“幽霊”、すなわちファントムがいて、歌姫クリスティーン・ダーエや彼女に心ひかれるラウルラウルの父である新任支配人リシャードらを翻弄していく——。

撮影:ヒダキトモコ

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今回ファントムに扮するのは、アンドリュー・ロイド=ウェバー版『オペラ座の怪人』のロンドンウエストエンド30周年公演でタイトルロールを演じた経験をもつベン・フォスター。そのキャリアが、ケン・ヒル版におけるファントムの造形においても大いに活かされている。姿を現さないまま歌う最初のソロ「高いところから」(原曲はビゼー『真珠採り』の「耳に残るは君の歌声」)から、観る者を異界へと大いにいざない、異なるメロディを歌っていながらもロイド=ウェバー版をどこか思い起こさせるところがある。その姿に、『オペラ座の怪人』の物語のどこが、なぜ、クリエイターや観客、読者をこんなにも引きつけるのか、考えさせられると同時に、音楽もストーリーテリングも異なるさまざまなバージョンの舞台によってこの物語を楽しめるおもしろさを感じる。そして、ファントムを探して登場人物たちがオペラ座のあちこちを探索していく様は、原作者ルルーをそもそも引きつけたパリ・オペラ座ガルニエ宮の壮麗な建物の魅力を伝えてくれる。

撮影:ヒダキトモコ

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「安心してください、はいてますよ」のネタで昨年、とにかく明るい安村イギリスのオーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」の日本人初の決勝進出者となり、大きな話題を呼んだが、その「ブリテンズ・ゴット・タレント」の初代チャンピオンであるテノール歌手ポール・ポッツが今回のファウスト役で初めて本格的にミュージカルに挑戦。劇中劇グノーの『ファウスト』からの楽曲を歌う他、レオンカヴァッロの『道化師』のアリアをアカペラで披露するシーンも。ファントムを追いつめる上で大きな役割を果たす謎のペルシャ人(原作にも登場するキャラクター)を演じたラッセル・ディクソンは、「怪物の容貌で生まれ」(原曲はヴェルディアッティラ』の「ローマの前で私の魂が」)で、オペラの楽曲でつづっていくこの作品の醍醐味を伝える歌唱を聴かせた。効果音など大いに不気味でありながら、どこかコミカルさを終始忘れないこの作品(一番のクライマックスでさえ!)。バレエ教師ではなく顧客責任者であるマダム・ギリー(原作では客席案内係)にもちょっぴり楽しいエピソードがあったりする。客席降りで生声が聴けたり、さまざまな楽しみどころのある作品である。

撮影:ヒダキトモコ

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取材・文=藤本真由(舞台評論家)

ミュージカル『オペラ座の怪人』 ~ケン・ヒル版~ 舞台写真