ジェイソン・モモアが主演するアクションエンタテインメント『アクアマン/失われた王国』(公開中)。海底王国アトランティスの王、アクアマンの活躍を描く本作は、『ワイルド・スピード SKY MISSION』(15)のジェームズ・ワン監督作だ。前作『アクアマン』(18)は、全ワーナー映画史上歴代世界興収3位のスーパーヒットを記録。『ワイルド・スピード SKY MISSION』も「ワイスピ」シリーズ歴代世界興収のぶっちぎりの1位をキープ中と、ハリウッドを代表するヒットメーカーとして知られるワン。『アクアマン/失われた王国』もひと足先に公開されたアメリカをはじめ西欧にメキシコ、ブラジル、オーストラリアインドネシアなどで週末興行収入初登場1位となり、543億円超を記録。日本でも1月12日の公開から3日間で興行収入2億3912万円超、観客動員14万8350人超という、週末興行収入洋画1位の好スタートを切った。そんなワンが本作の舞台裏や映画に込めた思いを語った。

【写真を見る】「死霊館」シリーズでも組んでいるパトリック・ウィルソンとジェームズ・ワン監督

海底人と地上人の間に生まれたアクアマンことアーサーの前に、世界を滅亡させる力を持った古代兵器ブラック・トライデントを手にしたブラックマンタ(ヤヒヤ・アブドゥル=マティーンII)が出現。太古に封印されていた海底王国の邪悪な王国を甦らせようとする。アーサーは宿敵である弟オーム(パトリックウィルソン)に協力を仰ぎ、ブラックマンタに戦いを挑む。

■「今回アクションやチェイスシーンで多用したのはスパイダーカム」

圧倒的スピードやパワーが持ち味のワン監督作品。本作も多彩なカメラワークを駆使して「ワイスピ」を彷彿とさせるライド感あふれる見せ場が満載だ。「僕はカメラを動かすのが好きなんです。カメラを操るスキルは映画作りに必須で、巨匠と呼ばれる監督たちもカメラの動き一つで様々な物語を描いてきました。特に『アクアマン』のような作品は、ダイナミックなカメラワークは欠かせないツールだと思います」と語り、本作の製作中も新しい撮影スタイルを常に模索していた。「今回アクションやチェイスシーンで特に多用したのは、セットの上に張リ巡らせたワイヤーにカメラを吊ったスパイダーカム。おかげで縦横無尽なカメラワークで撮れました」。

海、陸、空中とアクアマンが縦横無尽に暴れまわる今作。なかでもアトランティスの王であるアクアマンを象徴するのが海中アクションシーンとも言えるのだ。体感的な水中アクションの撮影に、ワンは新たなメソッドで臨んだと説明する。「1作目では水中で泳ぐシーンは、役者をリグ(固定器具)で吊るして撮って水中の映像に合成しました。ただしリグでの撮影は不安定で、役者にとってつらくて不快なものでした。そこで今作の水中アクションは、100台を超えるカメラを仕掛けたブース内の俳優をあらゆる角度から撮影し、そのデータでCGキャラクターを作るパフォーマンスキャプチャーを使ったんです」。自由自在に動かせるバーチャル映像を使うことで、俳優の負担が減り、自由なアングルやアクションが可能。ワンが得意とする超絶アクションを可能にした。

■「男兄弟って、兄が弟に茶々を入れるのは定番(笑)」

アクションのほかにワンが重視したのは、前作で激しいバトルを繰り広げた弟オームとの関係性だった。「2人は互いを嫌っていますが、世界を救うため相容れないところには目をつぶって手を組むんです。今回はそんな2人の関係性も見どころです。男兄弟って、兄が弟に茶々を入れるのは定番(笑)。アーサーが弟をいじりまくる、ユーモラスな2人の関係性も楽しんでもらえると思います」とワン。

「ワイスピ」シリーズなどアクション超大作から『死霊館』(13)などのホラー作品まで守備範囲の広いワンだが、どの作品にも共通しているのがリアルなキャラクター造形だ。「どんなジャンルの作品も、観客が共感できるキャラクターを作ることは重要だと思っています。アクションからSF、ファンタジー、ホラーまでどんなジャンルでも感情を持ったキャラクターがいれば、観客は宇宙でも海底でも一緒に体験できるんです。もちろん悪魔を憑依させることも(笑)」。

■「ジェイソンと撮影している時は、彼のレベルまでテンションを引き上げなければなりません」

前作『アクアマン』でトップスターの座に上り詰め、それ以降『DUNE/デューン 砂の惑星』(20)や『ワイルド・スピードファイヤーブースト』(23)など次々に話題作に出演しているジェイソン・モモア。前作に続いてのタッグとなるモモアについて、ワンは「見たままの、圧倒的な存在感」と感心。「ジェイソンと撮影している時は、彼のレベルまでテンションを引き上げなければなりません。僕もエネルギーはあるほうですが、撮影中ずっとジェイソンと同じ状態を保つのは大変です」と笑う。モモアが自身のキャラクターを愛し、大切にしているところも魅力で、「情熱的でユーモアがあり、なにごとも楽しむタイプなので一緒に仕事をしていても楽しくなってくるんです。特に本作のようなエンタメ作にはぴったりですね」と絶賛する。

アーサーの弟オームは、ワン作品の常連で演技派として知られるパトリックウィルソンが演じている。「パトリックは高い演技力の持ち主で、プロフェッショナルとして姿勢もすばらしい。しかも映画オタクだから、彼との仕事はまるで映画学校時代の仲間といる気分になるので、これまで何度も組んでいます。映画作りは難しくチャレンジでもあるので、お互いにリスペクトし合える仲間の存在は大切です」というワンは、モモアとの化学反応もすばらしかったと回想する。「2人の共演シーンはどれも楽しいものでした。僕が『カット』と言っても演技をやめずに本当の兄弟のように張り合ったり、近くにあるものでお互いを突き合ったりと現場は爆笑の連続でした。彼らが作り出す楽しいバディ感は映画を通して感じてもらえると思います」。

■「デビュー当時までさかのぼっても、僕はずっと家族を描いてきました」

兄弟や家族の絆は、ワン作品に共通するテーマでもある。「ワイスピ」シリーズは固い絆で結ばれた仲間=ファミリーの活躍が、「死霊館」シリーズでも心霊研究者の夫婦が力を合わせ悪魔と戦う姿が描かれた。「デビュー当時までさかのぼっても、僕はずっと家族を描いてきました。文化や背景、形式に関係なく、みんななにらかしら“家族”の一員です。家族の絆の物語は誰もが共感できるものだと思います」。本作ではアーサーとオームだけでなく、ヴィランであるブラックマンタにも家族のドラマがある。彼は目の前で父親を見捨てたアクアマンへの復讐に燃えている。「ブラックマンタの原動力は世界を支配することではなく、アーサーへの憎しみです。彼は愛する父の死の責任はアーサーにあると思っています。自分の苦しみを味わわせるため、アーサーとその家族を滅ぼそうとするんです。いい奴も悪い奴も、すべてのキャラクターを突き動かしているのは家族への愛。本作の物語は常に家族の関係性というテーマに立ち戻るのです」。

■「観客を共感させ、自分がその状況に置かれたら同じことをするだろうなと思わせるのは、映画の大切な要素」

ワンが絆や家族のつながりを描き続ける理由を聞くと、やはり「共感」というワードが帰ってきた。「僕らが映画やキャラクターのどこに共感するかを突き詰めると、人間性に尽きると思います。『ワイルド・スピード SKY MISSION』で、ビルからビルへとジャンプする車自体に共感はしませんよね?でも車の中で『車は飛もんじゃないって!』と叫んでいるキャラクターには、感情を添わせることができるんです(笑)。観客を共感させ、自分がその状況に置かれたら同じことをするだろうなと思わせるのは、映画の大切な要素だと思います。そんな共感ポイントを見つけることができれば、どんなクレイジーなシチュエーションも成り立たせることができるんです」とワンが考える。それは世界中にソリッドシチュエーションスリラー旋風を巻き起こした長編監督デビュー作『ソウ』(04)から学んだそうだ。「あの映画を観てくれたたくさんの人たちが、もし自分が連続殺人犯の死のゲームに巻き込まれたらどう行動したか?を僕に話してくれたんです。あの経験は僕にとって大きな学びでした。観客をキャラクターの気持ちにさせることがいかに重要か実感したんです」と振り返った。

最後に2本の『アクアマン』を撮り終えた感想を聞いてみた。「僕にとって、アクアマンというキャラクターを原作コミックスとはまた違った形で新たに描くことができたことはすごく大きいです。何年後かに振り返ってみると、たぶん僕の手掛けた2本の映画はやがて作られるであろう『アクアマン』シリーズのテンプレートになっていると思います。僕にとってそれはすごく光栄なことですね」。

取材・文/神武団四郎

アクアマン像を作り上げたジェイソン・モモアとジェームズ・ワン監督/[C]2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. TM & [C] DC