平成の大ヒット作『機動戦士ガンダムSEED』が完全新作の劇場作品『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』として2024年1月26日(金)より全国の劇場にて上映を開始する。11月19日にはイベント「機動戦士ガンダムSEED FESTIVAL ~CONNECT あの時代(とき)を超えて~」が実施され、保志総一朗はじめ出演者が勢ぞろい、西川貴教玉置成実のライブも披露され、ファンは約20年ぶりの劇場版への期待に大いに盛り上がった。「SEEDシリーズ」が巻き起こした当時の熱狂は大きなものだったが、ヒットの要因の1つには、目まぐるしく変化していく「恋愛劇」にあったと思う。作中恋模様は様々に動いていく。ピュアな純愛だけでなく昼ドラのような愛憎劇もあり、当時のアニメとしてはかなり新鮮。多くの女性ファンの心をつかんだのも頷ける。そこで今回は『SEED』のメインキャラクター、キラとアスランの「恋愛劇」にスポットを当てた『SEED』解説をお届けする。少女漫画以上、レディースコミック未満とも言える中々にディープで過激な要素もあるだけに、多くの人に刺さるはずだ。

【写真】フレイがちらりと見せた悪魔の笑み 。機動戦士ガンダムSEED』PHASE-14より

■『SEED』の小悪魔系 、フレイ・アルスター

『SEED』の主人公は、キラ・ヤマト(CV.保志総一朗)と幼馴染みアスラン・ザラ(CV.石田彰)の2人。感情豊かで涙の多いキラは、どこか放っておけない守りたくなる系男子だ。一方のアスランは、クールで大人びた雰囲気はあるものの、その内面はとても繊細で、やっぱり放っておけない。どちらもビジュアルは抜群だが、恋愛にはそこまでで、デート経験もさほどなさそうだ。とは言え、そんな彼らも年ごろの男の子なわけで、劇中では複数のヒロインと恋愛ドラマを繰り広げる。

キラを射止めたヒロインは2人いる。1人目は学校の同級生フレイ・アルスター(CV.桑島法子)。彼女のポジションは乙女ゲームで言うところの「悪役令嬢」で、人間関係をかきまぜるキャラクターとして描かれる。父は政治家で、“いいところのお嬢様”であるフレイは、物語開始時点ですでにキラから想いを寄せられていて、キラにとっては「高嶺の花」的な存在。しかもフレイは、キラの友人であるサイ・アーガイルとすでにいい雰囲気になっているという、キラにとってはなかなかに切ない状況だった。奥手で心優しいキラは、サイを裏切ってまでフレイを振り向かせるつもりはなく、このまま2人の距離は縮まらないかに思えた。ところが、フレイの父親が戦闘に巻き込まれて亡くなったことをきっかけに、2人のドラマは大きく動き出す。

ショックに耐えきれないフレイは、父の死は守ると約束したのに守れなかったキラの責任だと考え、精神が大きく歪んでいく。フレイはそれ以降、サイから離れてキラへと近付いていく。その目的はキラを戦場に駆り立てて、彼に苦しみを与えることだった。要は逆恨みからの復讐である。キラはそんなフレイの思惑には気付かず、憧れの存在から優しい言葉をかけられたことで少なからず喜んでしまう。傍から見れば少しは疑う場面だが、好きな人から頼りにされたら浮かれてしまうのは無理からぬことなのかもしれない。

そして、キラの優しさにつけ込むフレイの毒牙は、徐々にキラをも蝕んでいく。突然自分から離れていったフレイを説得しようとするサイに、「やめてよね、本気でケンカしたら 君が僕に敵うはずないだろ」と言い放つなど、サイにとっても、もうワケの分からない状況だっただろう。作中イチともいえる常識人だっただけに、サイには視聴者の同情が集まる気の毒すぎる展開だった。とにかくそんな感じで、死を望むからこそキラを励まし続けるフレイと、それに応えようと戦場へと出向いていくキラという関係は続く。しかし、そのうちにフレイの心にも少しずつ変化が生じていき…。

復讐から始まるなんとも恐ろしく切ない恋愛劇が「フレイ編」の真骨頂。放送当時、若い視聴者の多くはフレイのことを「悪女」と断じたが、大人層からは擁護の声も多かった。たしかにフレイは人間臭い。目的を果たすために、生き延びるためにいちばん体を張っているのはフレイなのかもしれない。観る者の年齢や経験によって見え方が変わってくるあたり、フレイはいかにも“『ガンダム』らしい”キャラクターだと言える。そして、そんな2人がたどり着く結末は、涙なくしては観られない名シーンとなっている。

アスランの婚約者ラクスとキラが急接近

キラにまつわるもう1人のヒロインは、「聖女」ポジションのラクス・クライン(CV.田中理恵)。キラにとって、ラクスは最初こそ「敵国の姫」だったが、物語の中盤以降、瀕死のキラをラクスが看病したことがきっかけで、急速に心を通わせていく。ラクスはとにかくカリスマ性にあふれたキャラクターで、のちに地球連合軍でもザフトでもない第三の勢力を立ち上げるなど、かわいらしいふわっとしたビジュアルからは想像もできない、強い側面も持っている。

彼女はまた、恋愛観も少し変わっている気がする。そもそもラクスはアスランの婚約者だったが、彼に恋愛感情を抱いるようにはあまり見えず、キラに対する感情も、あくまで「好意」の延長線上にあるように思う。燃えるような恋ではなく、包み込むような愛とでも言うべきか。とにかく、その可憐な容姿と成熟したキャラクター像は多くの視聴者の心をつかんだのだが、このカップリングはキラ中心で考えると危険な関係にもなるといえるだろう。文字にすれば「親友アスランの婚約者を奪ってしまったキラ」となってしまうからだ。実際のところキラとラクスの仲はプラトニックラブと呼べるものだが、こんな移り行く男女の恋も、女性ファンを大いに釘付けにしたポイントだった。

■“鉄壁のガード”を誇るアスランを2度崩したカガリ・ユラ・アスハ

一方アスランの恋愛は、キラよりもドラマチックかもしれない。なにしろ敵として戦った相手と結ばれることになるのだから。相手とは、カガリ・ユラ・アスハ(CV.進藤尚美)。オーブ連合首長国の王女でありながら男勝りな性格のカガリは、とある事情からレジスタンス「明けの砂漠」の一員として活動していた。成り行きからキラたち地球連合軍に同行してザフトと戦ったカガリは、漂着した無人島アスランと出会う。敵同士のため、当然のように戦闘となる2人だが、アスランカガリのことを殺さず、焚き火を囲んで一晩を過ごす。この状況は接近する男女の定番シチュエーションだが、アスランカガリもじつにエモーショナルに描かれる。

なぜ人間同士が殺し合わねばならないのかと、お互いの想いをぶつけ合う一連のくだりは、シリーズを象徴する名シーンとして記憶に残っている人も多いだろう。そもそもアスランは口数の少ない男で、自分の想いをストレートに他者にぶつけること自体が珍しい。これは誰にでも真正面からグイグイと体当たりしていくカガリだからこそ引き出せたアスランの素顔であり、このことはアスランにとっても劇的な出来事だったはず。2人はほどなくして再会を果たすのだが、これがまた屈指の名シーン幼馴染みのキラを殺したと思い込んでいるアスランと、負傷した彼を救護したカガリ。彼女にとって大切な存在であったキラの死を受け入れられず、アスラン問い詰める。人前では涙を見せないアスランが、カガリの前では泣きながら心中を吐露する。

もはや勝負ありだ。ある意味“鉄壁のガード”を誇るアスランを、二度にもわたって崩したカガリの攻撃力の勝利だった。こうしてカガリは、アスランの中で特別な存在となっていく。もちろんカガリは意図的にアスランを落とそうとしていたわけではないが、結果的に「恋はいつでも体当たり」を体現してくれたヒロインだった。

アスランを取り巻く女性続々

アスランに絡むもう女性キャラクターと言えば、『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』で登場するルナマリア・ホーク(CV.坂本真綾)や、ルナの妹のメイリン・ホーク(CV.折笠富美子)、ミーア・キャンベル(CV.田中理恵)も忘れられない。中でもアスランと行動を共にすることが多かったメイリンは、最初はザフトの戦艦ミネルバオペレーターとして序盤から登場するものの、姉のルナマリア・ホークの影に隠れた存在だった。アスランに対して興味を抱いてはいたものの、最初に彼と親しくなったのは姉のルナマリアで、彼女のアスランへの好感度パラメーターもかなりの上昇具合だった。しかし、物語が後半に入ると状況は一変する。

アスランスパイ容疑をかけられた際、メイリンはとっさの機転で彼を助ける。なぜ自分を助けたのかを問われたメイリンは「分からない」と言いつつも、その後もアスランのために尽力。成り行きからアスランと逃避行を始めるメイリンは、その後もアスランと行動を共にすることとなる。

そんなメイリンは、2年後が舞台の『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』でも共にいるようだ。アスランと2人のヒロインとの関係はどのようになっているのだろうか。また、キラとラクスの仲に進展はあるのか。メインストーリー以外にも『SEED FREEDOM』は気になることだらけだ。

恋のドラマもヒットの要因『機動戦士ガンダムSEED』 (C)創通・サンライズ