大会6日目を終えたアジアカップ2023は、グループAが2試合目を消化。地元カタールが2連勝で決勝トーナメント進出1番乗りを決めた。2位は2引分けの中国だが、最終戦の相手はカタール。連敗中のレバノンタジキスタンでどちらかが勝利すれば2位の可能性があるだけに、どのチームにも決勝トーナメント進出の可能性が残されている。

さて前日は、石井正忠監督率いるタイ対キルギス戦を取材した。FIFAランクではキルギスの方が上だが、攻守にこれといった特徴のないキルギスに対し、タイはFWスパチャイとスパチョークの単独ドリブルによるカウンターや、両サイドからのアーリークロスといった具合に攻撃の狙いがはっきりしていた。

2点を決めたエースストライカースパチャイは元日の日本戦に出場していなかったものの、190センチの巨漢CBドラーがピッチにいたが、日本は地上戦から3点を奪うなど彼が脅威となることはなかった。むしろ、キルギス戦のタイを見ていると「親善試合はしょせん親善試合」で、「真剣勝負は別物」という当り前のことだった。

そしてイラク戦である。初戦でインドネシアを3-1で下したが、先制点を決めた182センチのFWモハナド・アリ(10番)はスピード豊かなドリブルと冷静なフィニッシュが持ち味のエレガントなストライカーだ。イラク黄金時代の80年代にアーメド・ラディという、これまたエレガントなストライカーがいて、メキシコW杯初出場の原動力となっただけでなくベルギー戦ではゴールも決めた。「イラク史上最高のサッカー選手」と言われたが、モハナド・アリはアーメド・ラディを彷彿させるプレーヤーでもある。

そして彼だけでなく、交代出場から3点目を決めたFWエイメン・フセイン(18番)も警戒が必要だ。189センチの大型FWながら、3点目は右クロスをマーカーと競りながらジャンプして胸トラップからバウンドボールを鮮やかなボレーシュートで決めるテクニックを見せた。

イラクの戦い方としては、リトリートした守備からのカウンターになるだろう。その際はモハナド・アリを複数人でケアする必要がある。インドネシア戦でも単独ドリブルで3人がかりのマークを突破しようと試みていたからだ。このため遠藤航守田英正のダブルボランチは常に声を掛け合って早めにドリブル突破を阻止したいところ。そのためにはファーストアタックの精度が重要になる。

そしてCBの板倉滉や谷口彰悟、あるいは冨安健洋にはセカンドアタックにいける距離でカバーリングするか、リトリートしてドリブルを遅らせるか状況に応じた的確な判断が必要になる。ここらあたりは経験も豊富なだけに、そう心配する必要はないだろう。ベトナム戦での2失点もプラス材料にすることを期待したい。

攻撃に関しては、引いてスペースを消してくる相手をどうこじ開けるかだが、これらに関してはこれまでの戦い方と同様に、焦らず執拗な攻撃を繰り返すことが最後はゴールにつながるはずだ。焦点は、1トップにベトナム戦と同じく細谷真大を送り出すか、それとも上田綺世をスタメン起用するか。初戦のパフォーマンスを見る限り、後者の可能性が高いのではないだろうか。



【文・六川亨】