ほぼ空きテナントになっている辰野駅
ほぼ空きテナントになっている辰野駅

2024年、辰年がスタートした。竜や龍という文字の入った駅は意外とあるが、辰は東京メトロ有楽町線の辰巳駅(東京)とJR中央本線飯田線辰野駅(長野)のふたつだけ。辰巳は埋立地で団地や倉庫、大きな公園がある。では辰野には何があるのだろうか? 行ってみることにした。

【画像】辰野新名物? ど真ん中ラーメン

辰野は新宿から特急「あずさ」に乗り、岡谷で各駅停車に乗り換えて3時間弱。中央本線飯田線の境界にある駅で、かつては新宿から乗換なしで行けたが、1983年昭和58年)に岡谷から塩尻までをショートカットするトンネルが開通。特急はすべて新線経由となり、辰野には1時間に1本程度走る各駅停車でしか行けなくなってしまった。

駅構内は広く、かつては貨物列車もあったのだろう、線路の数が多い。だが今は駅員ひとり、みどりの窓口は閉鎖されている。駅舎は2階建てで、「リュシオール」というちょっとした駅ビルのようになっているが、テナントは農産物の集積所のみ。そんな状況ではあるが、駅前にタクシーの営業所があり、数台のタクシーが停まっている。

さあ、辰野はどんな場所なのか? 観光地なら駅に案内所があるけど、ここはなさそうだ。そういう時に役立つのが広告の入った地図。どうやら近くにほたるの名所があるらしい。ほたるといえば初夏だけど、行けば何かあるだろう。まずはそこを目指して歩き出す。

程よい大きさの駅によくある案内マップ
程よい大きさの駅によくある案内マップ

駅周辺にまったく人はいないが、住宅は意外と多い。15分ほど歩いて「辰野ほたる童謡公園」に到着。水路や池はきれいに整備され、ほたるが暮らしやすい環境になっているのだろう。ここにたくさんのほたるが飛び交ったら、さぞ壮観だろう。ただ、今は冬。ほたるはいないし、人もいない。水の中に幼虫がいるらしいが、まったく見つからない。(幼虫も捕獲すると条例により罰せられるので注意されたい)

ゴミなどはなくきれいに整備されたほたる公園
ゴミなどはなくきれいに整備されたほたる公園

ちょっとしたほたるの展示施設でもあるとうれしいが、子供広場とトイレしかなく、この時期はただただ寒い......。昼も近くなってきたので、昼食を探したい。ネットを調べると辰野名物「ほたる丼」なるものが出てくる。地鶏に玉子、野菜でほたるの生息場所を見立てたどんぶりらしい。

店を探すもネットの情報が古く、食レポは10年以上前のもの。いったいどうなっているのか? 観光協会に電話すると、現在はあまり聞かないとのこと。以前にほたる丼を出していた店を数件教えてもらい電話すると、今はやっていないとの答え。

B級グルメによくある、あまり売れないとか、代替わりして辞めちゃったケースか......。ただ当時はマップを作るほど多くの店がやっていたらしいので、なんとか食べてみたい。ネットをさらに掘ると、「テンホウ」という長野県で有名なラーメンチェーンの辰野店にほたる丼があるらしい。店のホームページにもほたる丼の文字。これは間違いない! 食べれるぞ! 駅に戻って商店街を抜け歩くこと30分弱、お店に到着した。

長野県が誇るラーメンチェーン「テンホウ」
長野県が誇るラーメンチェーン「テンホウ」

人気店らしく昼前なのにほぼ満席。ひとつだけ空いていたテーブル席に案内してもらいメニュー表を見る。ラーメンを中心に餃子、揚げ物など盛りだくさん。そしてほたる丼は......。ない!! 6月のほたる祭り期間限定メニューとのこと! なんてこったい!! そのためにここへ来たのに。
 まぼろしのほたる丼
まぼろしのほたる丼

まあしょうがない。代わりのメニューを探していると「ど真ん中ラーメン」「ど真ん中カレー」なるものがある。何だそれ!? 説明を読むと、NHKの『チコちゃんに叱られる!』で辰野町がにっぽんのど真ん中に認定されたのを受け、テンホウの人気食材を町の観光スポットに見立て作ったとある。

ということは、これを食べれば辰野町をコンプリートしたようなもの。ど真ん中ラーメンを注文だ。平日のピーク時に頼む人はいないらしく、少しだけ時間がかかったが登場!

ど真ん中ラーメン(1028円)1028は近くにある大城山の標高だそう
ど真ん中ラーメン(1028円)1028は近くにある大城山の標高だそう
肉揚げは蛇石、ちくわ天はしだれ栗、コーンは福寿草など、辰野町の6ケ所の観光スポットが6種類のスペシャル具材となって、野菜たっぷりチャンポンの上にどーん! これは量が多い、いわゆるチャレンジメニューだな。でも、人気店だけあって味はおいしく、もりもり食べられてしまう。

これで辰野町を制覇! と言いたいところだが、「にっぽんのど真ん中」というワードが気になる。調べると辰野町には「ゼロポイント」という日本の中心があり、その近くに『チコちゃんに叱られる!』で認定された、日本の中心の中心という「チコちゃんポイント」となるものがあるらしい。

日本の中心! カッコいいな。これは行ってみたい。でも山の中にあるらしく、徒歩だと駅から片道2時間かかるそう。......きついな。そもそも山を歩く準備をしていない。ただ、手前の駐車場までは車で行けて、そこから30分ほど歩けばゼロポイントへ行けるらしい。そういえば駅前にタクシーがあったな。

駅に戻る途中の商店街で、「ほたる饅頭」なるものを見つけた。温泉まんじゅうに似た形で、1936年昭和11年)からやっている老舗らしい。万が一、山で何かあった時の非常食として、水とともにふたつほど買ってタクシーに乗り込む。

辰野銘菓ほたる饅頭
辰野銘菓ほたる饅頭

運転手から情報収集。ゼロポイントは地元民でもほとんど行かないそうで、タクシーに乗せるのも年に10人程度。冬場は道路が凍結して登れないとのことで、この日は運良く行けるみたいだ。くねくねした登り坂で、徒歩だったら即断念してたと思うので、タクシーを選んで正解だ。およそ15分で駐車場に到着し、料金は2500円ほど。

タクシーが去ってポツンとひとり。太陽は出ているが寒い。そういや、この冬は熊がよく出るんだっけ? もし襲われたらライフがゼロポイントになってしまうな。スマホを見ると幸いなことに電波はまったく問題ないので、大音量で曲をかけながら歩くことにした。

かふかの落ち葉で山道は歩きやすい。ただ両側に立ち入り禁止のロープが張られ、不法侵入50万、監視カメラ作動など、ものものしい注意書きがある。なんだろうと考えたが、周りに生えているのは松の木。ここマツタケがあるのかもしれないな。

立入禁止ロープのおかげで道に迷わない
立入禁止ロープのおかげで道に迷わない

しばらく進むと、山頂へ進むコースとゼロポイントへのコースに分かれる。そこから斜面にへばりつくような狭い道を下って10分ほど。行き止まりに展望台らしきものが現れ、ゼロポイントに到着! そこにはモニュメントと由来の書かれた看板が立っている。ゼロポイントとは北緯や東経などでよく聞く、緯線と経線が00分00秒で交わる場所という意味らしい。さらにその近くには、日本の中心の中心というチコちゃんポイントの案内板も立っている。

日本の中心ゼロポイント!
日本の中心ゼロポイント!

地図マニアでないので詳しいことはわからないけど、ここが日本の中心だ! "セカチュー"ならぬ"ニホチュー"。ドラマよろしく「助けて下さい!」と叫ぼうと思ったが、遭難と間違えられるので自粛。展望台っぽくなっているが、目の前は木がモサモサ、眺めは良くない。遠くの高速道路を走る車のエンジン音がかすかに聞こえる。

まあ、ここまで来るのはよっぽどのもの好きだ。山の東側なので午後になると暗いし、風が吹いてきて寒い。ほたる饅頭を食べようと思ったけど、ど真ん中ラーメンがまだ胃に残っていて無理。よし、お土産に持って帰ろう。

もし次に来ることがあれば6月だな。最初に行った公園は1万匹以上のゲンジボタルが飛び回る日本一のほたるスポットらしい。そしてまぼろしのほたる丼を食べよう。

取材・文・撮影/関根弘康

JR東日本とJR東海の境界駅でもある辰野