大阪大学のスタートアップ企業「EX-Fusion(エクスフュージョン)」は、ますます深刻化する「宇宙ゴミ(デブリ)問題」を解決するために、地上から宇宙めがけてレーザーを撃ち放つ予定だ。
そのレーザー技術は、元々は核融合発電のために開発されたもの。
2023年10月、同社はオーストラリアの「EOS Space Systems(EOSスペース)」と提携し、キャンベラ近郊に強力なレーザーシステムを設置する計画を進めている。
「宇宙ゴミ(デブリ)」とは、古い人工衛星や使用済みのロケットのパーツなど、宇宙での役目を終え、そのまま地球の軌道上でただよっている物体のことだ。
今”ただよっている”と書いたが、実際にはただよっているどころではなく、ぶっ飛んでいる。JAXAによれば、その低軌道での速度は秒速7~8km。
地球を周回する人工衛星なども同じスピードで移動しているので、それらが正面衝突すれば秒速10~15kmで激突したことになる。これは銃弾の10倍を超える猛スピードだ。
例え数mmの宇宙ゴミであっても、その破壊力は時速100kmで移動するボウリングの球に匹敵するという。だから、例えカスのような宇宙ゴミだったとしても、危険極まりない代物となるのだ。
そんな宇宙ゴミは、10cmを超えるものなら2万個、1cm以上のものなら50~70万個、そして1mm以上のものなら1億個を超えると推定されている。
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今や宇宙は、テレコミュニケーション・金融・位置情報・ナビゲーションなど、地上の生活にとって欠かすことができない領域となっている。
たかがゴミかもしれないが、私たち人類にとって大問題となるのだ。
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レーザーで宇宙ゴミを除去し大気圏で燃やす
大阪大学発のスタートアップ「EX-Fusion(エクスフュージョン)」が目指すのは、そんな宇宙ゴミ問題の解決だ。
その方法はロボットアニメファンなら胸熱かもしれない。なんと地上からレーザーを放って、宇宙ゴミを狙い撃つというのだ。
地上からレーザーを放つと言っても、それで宇宙ゴミを撃破しようというのではない。代わりに、それによって起きる「レーザーアブレーション」という現象を利用する。
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レーザーを物質に当てると、その物質が気化・プラズマ化して放出される。その推進力によって宇宙ゴミをどかしたり、ブレーキをかけたりしてやるのだ。
速度が落ちた宇宙デブリは、やがて大気圏に突入し、燃え尽きるはずだ。
2023年10月、エクスフュージョンは、オーストラリアの「EOSスペース」と提携し、キャンベラ近郊にあるEOSスペースの施設に強力なレーザーシステムを設置する計画を進めている。
このプロジェクトの初期段階では、これまで地上から狙うのは困難だった10cm以下の宇宙ゴミを追跡するレーザー技術が設置される。
そして第2段階では、いよいよ地上からレーザーを照射し、宇宙ゴミの除去が試みられるという。
宇宙ゴミ除去に特化した核融合用レーザー
なお強力なレーザーというと、どうしても軍事利用が想像される。実際、EOSスペースは対ドローン用のレーザー兵器も持っている。
だがEOSスペースのジェームス・ベネット副社長は、宇宙ゴミの除去を目的としたレーザーは、軍事用のレーザーとは異なると述べている。
現在のレーザー兵器は、ファイバーレーザー(光ファイバーで光を増幅するレーザー)を使って対象を切断したり、溶かしたりする。
だがエクスフュージョンのレーザーは、「LD励起固体レーザー」だ。こうしたレーザーは、高速で移動する宇宙ゴミに力を加え、ブレーキをかけるように作用する。
そしてそれは、直径数ミリの水素燃料ペレットを圧縮して核融合を起こすために使われるレーザーとも同じであるという。
エクスフュージョンの松尾一樹CEOによると、宇宙ゴミを片付けるレーザーの出力は核融合用のものより一桁低いものの、特殊なミラーを使って制御するなど、技術的な課題は同じであるとのこと。
だがそうは言っても、地上からハイパワーレーザーを射出する担当者は、やはり「落ちろっ」とか呟くんじゃないだろうか。
References:Japanese startup plans to vaporize space junk using ground lasers / Space Technology | Electro Optic Systems / EX-Fusion / written by hiroching / edited by / parumo
追記(2023/01/18)本文を一部修正して再送します。
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