コンテナ埠頭や貨物ターミナルが集まる地区に停車するトラック
コンテナ埠頭や貨物ターミナルが集まる地区に停車するトラック

今年4月以降、残業規制の強化によって日本の物流業界が大幅な人手不足に苦しむことが予想されており、それは「2024年問題」と呼ばれている。

"物流力"の低下で、工場、店舗、消費者のもとに、望んだモノが望んだ日に届かないリスクが高くなることは、日本経済にとって大きな打撃だ。その解決策は? 現場の試行錯誤を徹底取材した!

【写真】国際物流総合展で展示されたギークプラスのAGVや自動運転トラックの走行テストの様子

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■荷主の二極化が進む

物流ジャーナリストの森田富士夫氏がこう語る。

「今年4月から、国が進める働き方改革の一環で、トラックドライバーの拘束時間や残業時間に規制がかかります。

これまで事実上、ほぼ無制限だった残業時間が年960時間に制限され、拘束時間は1日最大16時間から15時間に削減。違反した事業者は、車両の使用停止や事業停止といった行政処分が科されます。

これによりドライバーの労働時間は大幅に減り、その分、輸送能力が低下することが予想されています」

野村総研の試算では、このまま何も対策を講じなければ、25年には15年比で約28%の荷物が運べなくなるという。

これが「物流の2024年問題」である。

長距離輸送の場合、「地方特産の生鮮品が、大都市圏の食品スーパーや市場に届かなくなる恐れがある」(都内の物流会社幹部)という。

「1日の勤務時間の上限が13時間となると、例えば南九州から首都圏に荷物を運ぶ場合、関西圏の手前で時間切れに。加工品なら発着地の中間地点で1泊して運べばいいが、1日の配送の遅れが品質悪化に直結する生鮮品はそうもいかない。地方では生鮮品から撤退せざるをえない事業者が増えていくでしょう」

一方、卸会社や小売りチェーンの物流センターから各店舗に商品を運ぶルート配送も、「24年問題で痛手を受ける」。

そう話すのは、〝水屋〟のT氏だ。水屋とは、荷主企業(メーカーや卸業者)から配送依頼を受け、運送業者に仕事を振る仲介業者のこと。T氏は首都圏の食品スーパーやドラッグストアに向けた配送の仲介を請け負っている。

「店舗へのルート配送を担う事業者の9割は中小・零細で、ドライバーの主力は50代。週休1日で目いっぱい働いても月収は40万円程度で、お子さんの学費を夫婦共働きで工面しながら余裕のない生活をしている人たちです。

ですが、労働規制が強化される4月以降、勤務時間は削られ、ドライバーの稼ぎが減る。それでは生活できないと、運送業から離れる人が増え始めている。

一方、会社側は離職を食い止めようと、荷主や元請けに対して運賃の値上げ交渉を行ない、ドライバーの賃上げを図ろうとしています」

だが、情勢は厳しい。

「物価上昇が続く今、荷主や元請けが下請けからの値上げ要請をのむとは思えません。今のままではドライバーの離職が止まらなくなるでしょう」

そんな中、運送会社が運賃の高い案件を斡旋してもらおうと水屋に仲介を依頼する動きが加速しているという。

「中小・零細の運送会社の経営者は、運賃の業界相場を把握していない人が多い。それは、運送業界の多重下請け構造の中で、特定の1社との下請け取引を長年継続する状況があり、言ってしまえば〝外の世界〟を知らなかったからです。では、今この業界の運賃相場はどうなっているかといえば、高騰しています」

昨年9月、トラック輸送などを行なう企業で、荷物の積み降ろし作業を視察する岸田文雄首相(右から3人目)
昨年9月、トラック輸送などを行なう企業で、荷物の積み降ろし作業を視察する岸田文雄首相(右から3人目)

T氏によると、コロナ禍では物量が3割減少し、ドライバーの数も減ったが、昨年にコロナ禍が明けて以降、物量は回復。しかし、ドライバーの数は元に戻らず、運び手が不足する状況が生まれている。

「今では荷主7、8社でひとりのドライバーを取り合う状況で、4t車のドライバーの報酬は日当1万円前後が1.5万円から2万円近くにまで上昇しました。

これを払える荷主と、払えない荷主で二極化していて、払えない荷主の間では、〝ドライバー離れ〟が急加速。ある食品メーカーの社長は『何十社と電話してもドライバーが見つからない』と嘆いていました」

今後はどうなるか?

「労働規制が強化される4月以降は、ドライバーの確保がより困難になるので、二極化はより鮮明になります。

資金力がなく、運賃値上げに対応できないメーカーの中には商品を〝運んでもらえない〟という問題に直面するところも出てくる。無理をして運賃値上げに踏み切れば経営は傾き、行き着く先は、荷主の〝ドライバー不足倒産〟です」

■「物流DX」の矛盾

では、こうした問題を解決するにはどうすればいいか?

岸田政権は昨年10月、輸送力不足を解消するための緊急対策として、鉄道や船舶の輸送量を今後10年で倍増させる「モーダルシフト」や、「高速道路での自動運転トラックの環境整備」など10項目以上の具体策を示した。中でも前面に押し出したのが「物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進」だ。

千葉県成田市の運送会社に長距離ドライバーとして勤務する傍(かたわ)ら、トラックジャーナリストとして活動している長野潤一氏がこう語る。

「ドライバーの労働時間をムダに長引かせているのが〝荷待ち〟です。小売りや卸の物流センターの荷受け場には多数のトラックが行列を成し、荷降ろしの順番が来るまで4、5時間は待たされることも珍しくありません。

先進的な物流センターでは予約システムが稼働し荷待ち時間は減っているものの、今も主流を占めるのは古い商慣習が残る旧来型の物流センター。優先的に欲しい荷物と後回しにしていい荷物の仕分けもなされず、取引のある運送会社に『全車、午前8時必着』などと指示を出して、トラックの先着順に荷降ろしするアナログな手法を採るから荷待ち問題はなくならない。これを解消するために物流DXは欠かせません」

ただ、長野氏は浮かない表情でこう続ける。

「すでに一部の物流センターではデジタル化が進んでいますが、現場では煩わしさばかりが増しています。現状の物流DXといえば『受付アプリ』ですが、複数のシステム会社が開発した仕様の異なるアプリがゴロゴロと乱立しているのが実情。

物流センターごとに対応するアプリが異なるから、ドライバーのスマホには数多くのアプリが入っており、高齢ドライバーはついていけません。

その上、受付アプリのメリットといえば、物流センター到着時に事務所の台帳に社名と氏名を書きに行く手間がなくなったぐらいで、荷待ちの根本的な解決にはつながっていません」

物流の問題解決のキーワードは「自動化」「無人化」。写真は昨年9月に東京ビッグサイトで開かれた国際物流総合展で展示されたギークプラスのAGV(無人搬送車)
物流の問題解決のキーワードは「自動化」「無人化」。写真は昨年9月に東京ビッグサイトで開かれた国際物流総合展で展示されたギークプラスのAGV(無人搬送車)

現状の物流DXは「一応デジタル化してみました、という程度のもので、現場の効率化という肝心な部分が抜け落ちている」(長野氏)という。

前出の森田氏は、「1社単独ではなく製造・卸・小売り・物流と、サプライチェーン全体でDXを進めなければ24年問題の根本的な解決にはつながらない」と指摘する。

これを実践している物流会社が金沢(石川県)にあると、業界紙の記者が教えてくれた。その会社とは、食品や日用品などを扱う卸業者やコンビニ、スーパーから物流センターの運営を受託するビーイングホールディングス。

「現在は能登半島地震対応が最優先」(同社・秘書室)との理由で取材はかなわなかったが、ビーイング社が進める物流改革について、業界紙記者がこう解説する。

「特徴的なのは『いかに効率的にモノを運ぶか』ではなく、『いかに合理的にモノを運ばないか』の発想で24年問題に取り組んでいる点です」

どういうことか。

「メーカー、卸業者、小売業者のそれぞれに物流センターがあって、その間を輸配送するのが通常のサプライチェーンですが、各センターは物理的に離れた場所にあるので、トラックでモノを運ぶことが必要になる。

同社の場合、わかりやすく言うと3階にメーカー、2階に卸、1階に小売りという形でそれぞれの物流センターを1ヵ所に集約する拠点を設けている。

サプライチェーン全体でひとつの物流インフラを共有する環境をつくることで、同社の登録商標にもなっている『運ばない物流』を実現しています」

これにより、輸送の頻度は劇的に減り、運送コストも大きく下がる。さらに......。

「同社の物流センターでは自社開発の管理システムが動いています。このシステムにより、物流倉庫の作業進捗やトラックの配送状況、庫内で働く人たちの作業状況までがデータとして可視化され、荷主や運送会社などにもリアルタイムで共有される仕組みになっているので、ドライバーが荷降ろしのために長時間待たされるということがない」

同社は〝運ばない物流〟を具現化する物流センターを全国に拡充していく方針だ。

■自動運転技術の進化

24年問題の処方箋として、業界内で期待が高まっているのが長距離トラックの自動運転化だ。前述した政府の緊急対策にも盛り込まれており、24年度中に、新東名高速道路の駿河湾沼津-浜松のサービスエリア間に、自動運転トラックの専用レーンを設置する計画もある。

その背景にあるのが自動運転技術の飛躍的な向上だ。

昨年10月、自動運転システムの開発会社「トゥーシンプル ジャパン」(東京都中央区)が、東名高速道路の270㎞区間(厚木南IC-豊田JCT)で「レベル4」に相当する自動運転トラックの実証実験を成功させた。同社の副社長・小坂暢裕氏がこう話す。

「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」に展示された、東京-名古屋間の高速道路(約270㎞)での自動運転トラックの走行テストの様子(写真提供/トゥーシンプル ジャパン)
「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」に展示された、東京-名古屋間の高速道路(約270㎞)での自動運転トラックの走行テストの様子(写真提供/トゥーシンプル ジャパン)

「運転席にドライバーが乗車した状態ではありますが、ハンドル操作やブレーキ操作といった人為的介入は一切なく、システムがすべての運転タスクを遂行する形(=『レベル4』相当)で、270㎞の自動走行を完了させました」

同社の米国法人は、21年12月に米国で初めて、完全無人状態での自動運転トラックの走行テストを成功させている。同社は、この自動運転システムを日本に持ち込み、日野自動車製の大型トラックに搭載、改良を加えて自動運転トラックを完成させた。

その後、「昨年1月から平日はほぼ毎日、東名高速で車両を走らせ、走行データの取得と学習を繰り返しました」(小坂氏)。

こうして、高速道路上での本線合流や障害物の回避、車線変更、工事現場や道路渋滞といったあらゆる走行シーンに自律的に対応できる、日本版の自動運転システムを構築していったという。

米国での実績もある同社の強みは、「車両に搭載する専用カメラとライダー(センサー)で1㎞先までの走行環境を視認する目と、データ処理速度の速さ」にある。

今後は国から「特定自動運行」の許諾を年内中に得て、〝完全無人〟の自動運転トラックでの実証実験に着手する予定で、「数年内には東京-大阪間の高速道路上での運用を開始することを目指す」(小坂氏)という。

■〝物流版ウーバー〟

最後に、物流の〝ラストワンマイル〟を担う、宅配などの軽貨物運送の現状と今後について触れておこう。

ネット通販の普及に伴い、事業用の軽貨物車(黒ナンバー車)の保有台数は10年間で約4割増、ドライバー数も3割以上増加したが、宅配便の取り扱い個数が10年間で1.5倍増とそれ以上に伸びており、ドライバーの長時間労働と運び手不足の課題を抱える。

24年問題への対策として、ヤマト運輸は昨年4月、一部地域での翌日配送を廃止すると発表した。ドライバーの労働時間の削減が必須となる今年4月以降も、「翌日配送できるエリアが縮小される可能性は高い」(前出・業界紙記者)という。

だが、ラストワンマイルの領域にも〝新風〟が吹き始めている。22年10月、法改正により「ワゴンR」や「N-BOX」といった家庭用の軽乗用車でも軽貨物運送ができるようになった。

黒ナンバーの取得が必要だが、これによって新規参入のハードルが下がり、「仕事後や休日のスキマ時間に副業的に配達を担う個人ドライバーが増え始めている」(業界紙記者)という。

荷物を届けたい人と、個人ドライバーを直接つなぐマッチングアプリが普及していることも、配送業界への新規参入を後押ししている。そのひとつ、CBクラウド(東京都千代田区)が展開する『ピックゴー』は、荷主が発注した荷物を、近くにいる登録ドライバーが受け取って配達する仕組みを構築した。

受発注がスマホアプリ上で完結し、配達依頼から最短で56秒、多くの場合、数分でドライバーが見つかる手軽さとスピード感が売りで、〝物流版ウーバー〟との呼び声も高い。現在、登録するドライバーは5万人超と、全国の軽貨物ドライバーの約4分の1にあたる規模に達している。

無人で荷物を受け取れる「Amazon Hub ロッカー」は、2019年からスタート。2023年10月の時点で全国で4000台以上が設置されている
無人で荷物を受け取れる「Amazon Hub ロッカー」は、2019年からスタート。2023年10月の時点で全国で4000台以上が設置されている

また、アマゾン居酒屋や雑貨屋、花屋、カメラ屋など、各地域に根差す商店を配送拠点とし、最長半径2㎞の近距離配達を委託する「アマゾン Hubデリバリー」を展開する。

同社によると、その拠点数は大都市圏を中心に数百という規模に上り、各商店の店主たちが〝地元の利〟を生かし、空き時間を使って徒歩や自転車で荷物を運んでいる。

逆境の中で胎動する新しい物流の形。それが、2024年問題を解決に導くかもしれない。

取材・文/興山英雄 写真/時事通信社

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