数々のドラマや映画で深い余韻を残すキャラクターを演じ、今年で芸能生活41周年目を迎えた麻生祐未。放送中の『闇バイト家族』(テレ東系/毎週金曜24時12分)では、人生のドン底に転落した“母親”役としてコメディエンヌぶりを発揮。公開中のヴィム・ヴェンダース監督作品『PERFECT DAYS』にも出演するなど、出演作の途切れない俳優として活躍を続けている。40年という年月について、「あっという間ですね。ゾッとします」とチャーミングな笑顔をのぞかせた麻生。転機となったのは、俳優業への壁を感じた20代終盤に芸能活動を休止して飛び出した、アメリカ留学だという。出演作を振り返りながら、これまでの軌跡を語った。

【写真】さまざまな作品で存在感を発揮してきた麻生祐未

◆韓国ドラマにハマる予感?「『愛の不時着』、『冬のソナタ』もすごく面白い」

 『闇バイト家族』は人生を踏み外して闇バイトに応募した5人の老若男女が、ニセ家族を演じながら再起を図る痛快エンタテインメント。ニセ家族の長男を鈴鹿央士、長女を山本舞香、父親を光石研、祖父を綾田俊樹が演じ、テンポのよい掛け合いを披露している。

 麻生が演じているのは、惚れた男のために勤務先のお金を横領してしまった過去を持つ、無類の韓国ドラマ好きの“母親”・原佳苗役。麻生は「イケメンに弱いんですよねぇ」と佳苗を思い浮かべながら苦笑い。「私はこれまでそんなに韓国ドラマを観たことがなかったんですが、今回は『愛の不時着』と『冬のソナタ』を観てみました」と役作りのために韓国ドラマを視聴したといい、「全話観られるのかなと不安に感じていたんですが、観始めたらすごく面白くて。途中で止められずに、あっという間に観てしまいました。まとまった時間があれば、他の作品も観てみたいです」と韓国ドラマにハマる予感がしている様子。

 闇バイトをきっかけに出会う人々のつながりを描く物語だ。麻生は「何かしら欠点のある人たちが集まって、支え合っていくお話。すごく面白いなと思いました」と危険な香りのするタイトルでありながら温かなドラマだと話し、「人生はどこでどうなるかわからないもの。ドン底に落ちてしまっている劇中の家族を見ていると、自分が求めるものや守りたいものは何なのか、冷静になってきちんと考えていかないといけないなと思いました」と反面教師にもしているとのこと。「佳苗は、ニセの家族となる人たちに助けられていく。ドン底だと思うような時でも、人を救ってくれるのは“誰かとのつながり”。人と人のつながりって、やっぱりとても大事なものなんだなと思います」と実感を込める。

 個性的な俳優陣が集った現場では、「光石さんがリーダーのように引っ張ってくれて、綾田さんが独特のテンポでボケてくれたり、鈴鹿くんも面白いことを言ったりする。舞香ちゃんはとてもしっかりしていて、みんな見事にキャラクターにハマっていますよね。頼もしい方々ばかりで、私は頼りきりです」と信頼関係を築きながら、楽しい時間を過ごしているという。

◆「この仕事に向いていない」もがいた20代


 大学在学中に映画『あいつとララバイ』に出演し、21歳となった1984年に麻生祐未という名前で活動をスタートさせた。バラエティ番組『オールナイトフジ』で司会業を務めたほか、『ドリフ大爆笑』ではコントにもチャレンジ。以降、数々のドラマや映画で存在感を示してきた。芸能生活40周年を迎え、麻生は「自分でも気づいていなかったんです。『いつの間に!?』という感じで、本当にびっくりしました」と重ねた年月に驚いているとニッコリ。20代は『男女7人秋物語』(87)や『君が嘘をついた』(88)といったトレンディドラマで一気に知名度をあげたが、「20代はわけもわからずに、目の前のお仕事をやっていくことにいっぱいいっぱいだった」と告白する。

 転機となったのは、アメリカ留学だという。麻生は「勉強をしないままこのお仕事を始めてしまったので、お芝居が下手だなということは今でも思うんです」と切り出し、「当時は、『私はこの仕事には向いていないな』『俳優として引き出しがなくなった』という気持ちもあって。他の仕事ができるものならば、そういったことも考えてみたい…と思って、29歳ぐらいの頃に一度お仕事をお休みしてアメリカに行きました」ともがいた時期を回想。

 1年ほど新天地で生活をする中で、「冷静にいろいろな作品を楽しめるようになった」と客観的に足元を見つめる機会を得た。「すると、『こうやってお芝居をしてみたら面白いかも』『お芝居をするには、もっと考えないといけないんだ』という思いが芽生えてきて。『このお仕事で、自分がやれることがもっとあるんじゃないか』と感じるようになってからは、あっという間でしたね。いろいろなことを楽しめるようになりました」と明かす。

◆『カーネーション』『ぎぼむす』…「どれも思い入れのある役ばかり」


 あらゆる魅力的なキャラクターに命を与えてきた麻生は、「どれも思い入れのある役ばかり」とこれまでの道のりに思いを馳せ、愛情を傾ける。

 とりわけ俳優として勉強になったのは、NHK連続テレビ小説『カーネーション』(2011〜2012)で演じたヒロインの母親役で、「渡辺あやさんの脚本が素晴らしくて、たった15分という時間の中で、こんなにも面白くできるものなんだと驚きました。同時に15分の中で表現することの難しさも感じて。いろいろなことを考えた作品です」。また「『義母と娘のブルース』(TBS)では、5年半も同じ役を演じさせていただきました。そんな経験は初めてのこと。(下山和子役は)自分の中ではかなり難しい役でしたが、その役柄として年月を重ねていく面白さを感じることができました。視聴者としても楽しみたいドラマです」と先日ファイナルに辿り着いたシリーズも、特別な経験ができた作品だ。

 『JIN-仁-』(20092011/TBS)で演じた凛とした母親役も印象深い。かっけ患者に扮するため、体重を8キロほど落として撮影に臨んでいた麻生は、「痩せたりすることは、スポーツ選手が試合に出るために着るユニフォームや、最低出場条件のようなもので。それほど苦に感じたことはないですね。そういうことをすると、役を作っていく上でも大きな助けになる。逆にありがたいです」と微笑み、『テセウスの船』(2020/TBS)で担った狂気をはらんだ女性役など、振り切った役柄については「コントなどもやってきたので、自分の中で“振り切っている”という感覚がなくなってきている。ちょっと危ないですね(笑)。もう恥ずかしいと思うこともないくらい、いろいろなことをやってきました」と楽しそうに目尻を下げる姿からも、充実の時を過ごしていることが伝わってくる。

 「子どもの頃は人前で本を読めないくらい、ものすごく消極的なタイプだったんです。よく『声が小さい』と言われていましたね」と意外な素顔を打ち明けた麻生。「でも台本があったり『こうやったらどうでしょう』という演出を頂いたりすると、いろいろなことをやってみちゃう。何かをやって、誰かに笑ってもらった瞬間って忘れられないような快感があって。『あの役は面白かった』と喜んでもらえることが何よりもうれしい」と俳優業の醍醐味を吐露し、「森繁久彌さんや萩原健一さんなど、たくさんの面白い先輩方とご一緒させていただくこともできました。そういった先輩方のことを考えると、このお仕事にはマニュアルがあるわけではないので、もっと可能性があるはずだと思える」としみじみ。

 「私一人では何もできません。周りの人に恵まれて、皆さんのおかげでここまで来ることができました」と感謝をあふれさせるなど、やはり麻生自身を前進させてくれるのも“人とのつながり”だと話していた。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
 
 ドラマ24『闇バイト家族』は、テレ東系にて毎週金曜24時12分放送。

麻生祐未  クランクイン! 写真:高野広美