シングルマザーの貧困が社会問題化している昨今。収入の少なさに物価高騰も重なり、母と子でレジャーに行くといった、ほんの少しの贅沢をすることも厳しいという現実があるようです。本記事では、Aさんの事例とともに、シングルマザーの家計の実態やいざというときに助けになる「生活保護」について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。

愛娘をディズニーランドに連れていけない厳しい現実

東京都板橋区在住の5歳の娘を抱えるシングルマザーAさんは29歳。手取り約14万円でパート勤務をしています。パート収入のほかに、元夫から養育費として月に5万円と児童扶養手当や児童手当をもらっています。しかし、住まいは賃貸で家賃の支払いもあり、生活は決して余裕のあるものではありません。

食料品や光熱費の値上げもあって毎日切り詰めて生活をしていますが、娘も友達からいろいろと聞いてくるのか、最近は「わたしもディズニーランドに行きたい」と遠慮がちに言ってきます。

しかし、収支バランスがぎりぎりのなか、簡単に仕事を休むわけにもいきません。休日は家事に育児に、やらなければいけないことも盛りだくさんです。一番の問題は、ディズニーランドのチケットは値上げが続き、簡単に捻出できる金額とはいえなくなっていることです。とはいえAさん自身も小さいときに両親にディズニーランドに連れて行ってもらった思い出があることから、なんとか安く行ける方法がないかと考えていました。

ひとり親家庭休養ホーム

こんなときには、Aさんのようなひとり親が利用できる宿泊や日帰りの施設の費用を補助してくれる「ひとり親家庭休養ホーム」という制度を活用できる場合があります。たとえば、板橋区の場合は東京サマーランド東京ディズニーランドディズニーシーサンリオピューロランドなどの日帰り施設について、一人につき2,000~3,000円の助成があります。対象の施設は地区町村によって違い、レジャー施設以外に宿泊施設を対象としている地区町村もあります。ただし、「ひとり親家庭休養ホーム」はすべての地域にある制度ではありませんので、お住まいの地域のHPを調べてみてください。

ひとり親世帯だと、Aさんのようにレジャーに行くのも悩んでしまうというケースは少なくありません。実際、家計はどのような状況なのでしょうか。

ひとり親世帯の家計、リアルな実態

厚生労働省が公表した「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」の結果は下記のようになっており、母子世帯の年間収入は平均272万円と、家計は決して楽ではないことが見て取れます。

続けて、同調査結果での「ひとり親が困っていること」も見てみましょう。

これを見ると、やはり母子世帯では家計での悩みが大きく、次いで仕事、自分の健康へと続いているのがわかります。一人の収入で家計を支えているため、身体を壊してしまうと家計は一気にひっ迫してしまいます。その場合は、行政に相談したり、「生活保護」に頼ることも必要です。

いざというときの「生活保護」を受ける条件

生活保護は、生活に困窮したときに受けられる国民の権利です。病気やケガで働くことができなくなってしまったり、収入があっても生活できなくなったりした場合は利用を検討しましょう。

厚生労働省は、生活保護が受けられる人として、次のように掲げています。

生活保護は、資産、能力等あらゆるものを活用することを前提として必要な保護が行われます(以下のような状態の方が対象となります)。 ・不動産、自動車、預貯金等のうち、ただちに活用できる資産がない。 ※不動産、自動車は例外的に保有が認められる場合があります。 ・就労できない、又は就労していても必要な生活費を得られない。 ・年金、手当等の社会保障給付の活用をしても必要な生活費を得られない。

○扶養義務者からの扶養は保護に優先されます。 ※保護の申請が行われた場合に、夫婦、中学3年生以下の子の親は重点的な調査の対象として、福祉事務所のケースワーカーが原則として実際に会って(対象者が管外に居住する場合には、書面で)扶養できないか照会します。その他の扶養義務者については書面での照会を行います(「扶養義務の履行が期待できない者」と判断された場合には、扶養照会を行わない場合があります)。

また、支給される保護費については、次のように算出します。

○必要な生活費は、年齢、世帯の人数等により定められており(最低生活費)、最低生活費以下の収入の場合に生活保護を受給できます。

シングルマザーが受け取れる生活保護の額

生活保護の受給状況は、次のように母子世帯では「受給している」が9.3%となっています。

また、シングルマザーの場合、受け取れる生活保護費の額は居住する級地区分によって次のようになります。

(例)東京都23区内の生活保護費を計算【令和5年度】 [子ども一人(3~5歳)の場合] ・生活扶助基準額:7万3,520円 ・児童養育加算児童の人数1名:1万190円 ・母子加算児童の人数1名:1万8,800円 ・住宅扶助東京都板橋区の家賃補助:5万3,700円  合計15万6,210円

ちなみに、児童養育加算はお子さんが18歳になる年度の3月末日(高校卒業の年)まで、義務教育のあいだは教育扶助が加算されます。生活保護を受けている母子家庭でも児童扶養手当は受け取ることができますが、生活保護費の額からは控除されます。

これを知ったAさんは驚愕しました。

「私が働いているあいだ、代わりに家で娘をみてくれる人はいないので、寂しい思いをさせています。でも生活保護費では、私がひと月に稼ぐ以上のお金を受け取れるんですね……。ディズニーランドも連れていきやすいのかな……」

Aさんはそういいますが、生活保護を受けることによって、住む場所が制限されたり、クレジットカードが作れなくなったりするなどといったデメリットがあることも知っておきましょう。あくまでも前述したように、病気やケガで働くことができなくなってしまったり、収入があっても生活できなくなったりした場合の手段のひとつとして活用することを推奨します。

シングルマザーのためのそのほかの制度

ひとり親世帯にはさまざまな福祉関係の公的制度があります。ですが、認知度も低くよく知られていない制度も多くあります。そこで「利用したことがない、そのうち制度を知らなかった」といわれる割合が5割を超えるものを抜粋してご紹介します。

・母子(父子)福祉資金(無利子貸し付け) ・生活福祉資金 ・養育費等相談支援センター ・子どもの学習支援 ・高等学校卒業程度認定試験合格支援 ・生活困窮者自立支援制度 ・こどもの未来応援国民運動ホームページ

上記のうち「こどもの未来応援国民運動ホームページ」では、国や自治体の支援や全国のこども食堂の紹介も行っていますので、必要に応じて利用しましょう。

シングルマザーは仕事を探すのに苦労するケースも少なくありません。厚生労働省では子育てと仕事を両立したいお母さん向けに「マザーハローワーク事業」を全国に展開しています。シングルマザーだけでなく、子育てが落ち着いたあとの再就職も相談できます。

ひとり親世帯はなにかと大変ですが、無理せず制度を利用して、お子さんとのよりよい暮らしを手に入れてください。

<参考> 厚生労働省令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要」プレスリリース 厚生労働省生活保護制度の概要」 こども家庭庁支援局家庭福祉課「こどもの未来応援国民運動ホームページ」 厚生労働省マザーハローワーク事業」

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)