なぜあの会社は儲かるのか?答えは決算書の中に隠されている――。本連載は、注目企業の「稼ぎ方」「儲けのしくみ」を決算書から読み解く話題書決算書×ビジネスモデル大全』(矢部謙介著/東洋経済新報社)から、内容の一部を抜粋・再編集。100円ショップ、飲料メーカーなど、同業でも企業によって大きく異なるビジネスモデルの特徴を、わかりやすく図解する。

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 アサヒホールディングス、キリンホールディングス、サッポロホールディングスの戦略の違いを分析した第3回目につづき、第4回目は、サッポロホールディングスの決算書から同社の事業の特徴を、そしてビール業界各社の事業別営業利益の内訳から「稼ぎ方」の特徴を読み解く。

<連載ラインアップ>
第1回 100円ショップのセリアの収益性は、なぜワッツよりも高いのか?
第2回 100円ショップのセリアVS.ワッツ、原価率や販管費率が低いのはどちら?
第3回 アサヒ、キリン、サッポロ、ビール各社の戦略はどこが大きく違うのか?
■第4回 恵比寿ガーデンプレイスに見る、サッポロホールディングスの事業の特徴とは?(本稿)
第5回 富士フイルムHDの利益率は、なぜニコンよりも高いのか?
第6回 富士フイルムHDの古森元CEOが断行した「事業構造改革」と「第二の創業」とは

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■不動産事業に特徴を持つサッポロHDは営業赤字に

 サッポロHDの決算書を見てみましょう。

 サッポロHDのB/S上の特徴は、投資不動産が2190億円計上されていることです。この大半は、東京・恵比寿の商業施設、恵比寿ガーデンプレイス(1310億円)で占められています。

 また、ここには札幌市サッポロファクトリーやその他の投資不動産も含まれています。

 恵比寿ガーデンプレイスは、もともとの主力工場だった恵比寿工場の跡地を再開発して1994年に開業した複合施設です。こうした不動産事業の占める比重が大きいことが、サッポロHDの事業上の特徴であるといえます。

 その一方で、目立ったM&Aを行ってこなかったサッポロHDでは、無形固定資産は270億円しか計上されていません。

 サッポロHDのP/Lからは、売上収益等が4380億円、営業損失が160億円計上されていることがわかります。売上高営業利益率はマイナス4%です。2019年12月期の営業利益が120億円、売上高営業利益率が2%だったことから、コロナ禍においてサッポロHDは営業赤字に転落したことになります。この原因についても、次のデータで確認することにしましょう。

■営業利益の内訳に見る3社の「稼ぎ方」の特徴とは?

 最後に、ビール業界各社の2020年12月期における事業別営業利益(キリンHDについては「その他の営業収益」及び「その他の営業費用」を加味していません)を見てみます(下図)。

 アサヒGHDの事業別営業利益については、酒類事業が660億円、飲料事業が290億円、食品事業が110億円、そして国際事業が520億円となっています。

 コロナ禍の影響が大きかった業務用向けの比重が高い酒類事業については、2019年12月期の1030億円から大きく営業利益を落とす結果となりましたが、減益幅の小さかった飲料事業や食品事業、そして減益ではあったものの酒類事業に次ぐ利益を上げた国際事業が全体としての利益を下支えした格好になっています。

 キリンHDの営業利益については、国内ビール・スピリッツ事業が750億円、国内飲料事業が220億円、オセアニア綜合飲料事業が220億円、医薬品事業が590億円となりました。

 国内ビール・スピリッツ事業については100億円の減益だったものの、医薬品事業が40億円の増益となったことや、その他の営業費用に含まれる減損損失が少なくなったこと(図中には含まれていません)などが、営業利益の増益につながった要因です。

 サッポロHDでは、酒類事業が50億円の営業赤字、食品飲料事業も170億円の営業赤字です。コロナ禍において業務用酒類やサッポロライオンなどが運営する外食店舗の売上高が落ち込んだことに加え、自動販売機による飲料の売上数量低下により酒類事業や飲料事業の収益性は低下しています。

 一方で、不動産事業については120億円の営業黒字を確保しています。不動産事業の2019年12月期における営業利益は130億円で、2020年12月期もそれに近い利益を上げています。ただ、不動産事業の黒字で酒類事業と食品飲料事業の赤字をカバーするには至らず、全体としての営業損益は赤字に転落してしまったのです。

Point

この事例のポイント!

 ここではアサヒGHD、キリンHD、サッポロHDというビール業界の3社を取り上げて戦略と決算書を比較解説してきました。海外M&AのアサヒGHD、多角化のキリンHD、不動産事業のサッポロHDというように、各社の戦略上の特徴が特にB/Sに表れていたといえます。

 また、セグメント別の営業利益からは、アサヒGHDの国際事業、キリンHDの医薬品事業、サッポロHDの不動産事業といった特徴的な事業が、コロナ禍における業績を支えている状況が明らかになりました。

 海外M&Aにかじを切ったアサヒGHD、海外M&Aをいったん「手じまい」したキリンHD、そして不動産事業以外の立て直しが求められるサッポロHDが、今後どのような事業ポートフォリオを構築し、安定的な収益基盤を確保していくのかが問われる状況であるといえそうです。

<連載ラインアップ>
第1回 100円ショップのセリアの収益性は、なぜワッツよりも高いのか?
第2回 100円ショップのセリアVS.ワッツ、原価率や販管費率が低いのはどちら?
第3回 アサヒ、キリン、サッポロ、ビール各社の戦略はどこが大きく違うのか?
■第4回 恵比寿ガーデンプレイスに見る、サッポロホールディングスの事業の特徴とは?(本稿)
第5回 富士フイルムHDの利益率は、なぜニコンよりも高いのか?
第6回 富士フイルムHDの古森元CEOが断行した「事業構造改革」と「第二の創業」とは

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