黙秘を続ける被疑者に対して、侮辱的な言葉を浴びせ続ける検察官の取調べ映像が1月18日、YouTubeで公開された。映像は13分程度にまとめられているが、実際の取調べは合計21日、56時間に渡ったという。

「ガキだよね、あなたって」「僕ちゃん」「お子ちゃま」「もともと嘘つきやすい体質なんだから」

目を閉じて黙秘を貫く”サンドバッグ”状態の被疑者に、遠慮のない罵倒が投げかけられる。衝撃的な映像だとして、SNS上でも大きな反響があった。

公開したのは元弁護士の江口大和氏の弁護団だ。犯人隠避教唆の疑いで逮捕された江口氏は横浜地検の違法な取調べがあったとして、1100万円を求める国賠訴訟を起こしている。

本人尋問のあった1月18日、同じ映像が法廷で再生された。

弁護団で代理人をつとめる趙誠峰弁護士は公開翌日の19日、弁護士ドットコムニュースの取材に、実際の取調べを多くの人に見てもらう必要があったと公開に踏み切った理由を説明した。

そのうえで「実際に行われている『取調べ』を初めて見た多くの方が、この取調べはひどい、黙秘権なんてあってないようなものではないか、との感想を持たれているようで、公開してよかったと思いました」と述べた。

●「黙秘権行使した人に、罵詈雑言を浴びせることは許されない」

江口氏は犯人隠避教唆で有罪が確定したが、逮捕から否認し、取調べでは黙秘した。

弁護団によると、主に取調べにあたった横浜地検特別刑事部の川村政史検事から侮辱や罵倒を受けたとして、憲法が保障する黙秘権を侵害されたと主張し、国を相手取って裁判を起こした。

映像には、黙秘する江口氏に「詐欺師的な類型の人に片足突っ込んでる」などと発言する様子がおさめられている。

公開にあたり、趙誠峰弁護士は自身のブログで、「憲法が黙秘権を保障していることの意味は、権利を行使する人に対して捜査官は取調べと称してこのような罵詈雑言を浴びせることが許されないということではないのか。私たちはこの裁判で黙秘権の意味を正面から問うています」と主張した。

映像の公開後、”取調べのリアル”を視聴した人たちから驚きとともに大きな反響が上がっている。

動画公開に踏み切った理由について、趙弁護士は取材に「実際に行われている『取調べ』がいかなるものかを多くの人に見てもらう必要があると思ったからです。またその中で、黙秘権を行使することの意味(黙秘権を行使してもこのような取調べが20日以上も続く現状が、黙秘権侵害と言えないのか)を考えてもらいたいと思ったからです」と答えた。

「この事件は、刑事事件は有罪判決が確定してしまっており(その判決は不当だと思っています)、「逮捕された人はこのような目にあって当たり前ではないか」との反応が来ることも想像していましたが、私が想像していた以上に取調べのひどさを感じ取っていただいたようです」ともコメントする。

●一般市民が知らない取調べの実態…なぜ世の中に出回りにくいのか

取調べの実態が世に知られる機会は少ない。映像には世間を驚かせるインパクトがあったが、このような映像をYouTubeなどに公開するには法的な制約が存在する。

趙弁護士が説明する。

刑事裁判において検察官から開示される証拠については『証拠の目的外使用禁止』の規定(刑事訴訟法281条の4、5)があります。

ですので、通常の刑事裁判の中で取調べの録音録画が開示されたとしても、それを公開することはもちろん、国賠訴訟(民事訴訟)の証拠として利用することもできません(これはこの法律の大きな問題点だと思っています)」

今回の映像は、刑事裁判で開示された証拠ではない。

「今回は、国賠訴訟の中でこちらから裁判所に対して、国から裁判所に録音録画映像媒体を提出するよう、文書提出命令の申立てをしました。それを受けて、最終的には国から録音録画媒体(合計2時間少し)が証拠として提出されました」

「今回公開したのは、そのうちの一部についてです。これは昨日の国賠訴訟の原告本人質問において再生したものと同じものです。民事訴訟における証拠については、目的外使用禁止規定はありませんので、公開することとなったという流れです」

「ガキだよね」黙秘の被疑者を罵倒、”衝撃映像”公開した弁護士の思い「実際の取調べ、見てもらう必要がある」