病院だけでなく、高齢者施設や企業の心理相談室、教育機関など、さまざまな場所で需要のある「心理士(心理カウンセラー)」。トラウマや大きなストレスなど患者の心の繊細な部分を扱うため、精神的負担の大きい仕事といえます。しかし、日本の心理士の「給与事情」はそれに見合っていないと、医師の秋谷進氏はいいます。諸外国と比較しながら、日本の心理士の給与事情についてみていきましょう。

「人の話を聞く」だけではない!心理士の主な業務内容

ストレスやトラウマなどから、あなたが心の問題にぶつかったとき。医師とともに頼りになるのが、「心理士(心理カウンセラー)」です。

体のスペシャリストが「医師」だとするなら、「心理士」は心のスペシャリストといっても過言ではありません。「心理士」は、心のトラブルを抱えた患者に対してカウンセリングや心理療法を行い、それぞれの問題を解決へと導く専門職です。

なんとなく「人の話を聞いているだけなのでは?」と考えている人もいらっしゃるかもしれませんが、心理士の仕事は下記のように多岐にわたります。

<心理士の主な業務>

クライアント(心理療法やカウンセリングを受けに来た人)のどの部分を解決すべきなのか、「心理アセスメント(評価)」を行う

クライアント1人ひとりに特化した「個別カウンセリング」を行う

・上記の内容によっては、1人だけでなく集団でカウンセリングを行う「グループセラピー」を実施する

発達障害など、時間をかける必要のある場合「心理教育プログラム」を設計する

・社会的介入が必要になる場合には、適宜「学校や職場での支援活動」を行う

・人間関係が主なトラブルの原因であれば、第三者の中立的な立場から介入し仲裁に入る

・心にまつわる諸問題について「臨床研究」を行う

・地域社会への啓発活動を行う

このように考えると、心理士は心の問題について幅広い対応が求められているのがわかりますよね。

教育現場や職場に特化したものも…心理士向けの「民間資格」

「心の問題」という目に見えない非常に幅広い分野を担っていることもあってか、日本には、心理系の資格が数多くあります。主なものは下記のとおりです。

臨床心理士……「日本臨床心理士資格認定協会」が認定する民間資格。臨床心理学にもとづく知識や技術を用いて、人間の心の問題にアプローチする“心の専門家”として認定された資格。

認定心理士……「公益社団法人日本心理学会」が認定する民間資格心理学の専門家として仕事をするために必要な、最低限の標準的基礎学力と技能を修得できる。

カウンセリング心理士……「日本カウンセリング学会」が認定する民間資格。実践だけではなく、研究にも強い心理士を育成するのが特徴。

産業カウンセラー……「一般社団法人日本産業カウンセラー協会」が認定する民間資格。職場でのメンタル対策やキャリア形成への支援、職場環境改善などを目的とした資格。

教育カウンセラー……「特定非営利活動法人日本教育カウンセラー協会」が認定する民間資格。取得すると、「学級経営や授業、特別活動や生徒指導、家庭訪問や三者面談、進路指導や道徳教育、個人教育プランやサイコエジュケーションなどにカウンセリングの発想や技法を駆使し展開できるプロフェッショナル」として認定される。

上記の他にも、「臨床発達心理士」や「チャイルドカウンセラー」など心理系の民間資格には枚挙にいとまがありません。

そんななか、唯一の「国家資格」が「公認心理士」です。公認心理士によるカウンセリングは「保険診療」として診療報酬の加算対象にもなっているのが大きな特徴です。

その意味で、公認心理士は他のどの民間資格よりも信頼性が高いといえます。

平均年収443万円…専門性からすると「少ない」心理士の収入

このように、唯一の国家資格であり、国から正式に認定された「公認心理士」ですが、年収には恵まれていません。

厚生労働省が発行している職業情報提供サイト「Job Tag」によると、公認心理士を含めた心理士(カウンセラー)の年収は「443.3万円」で、平均年齢は「39歳」となっています。

国税庁の「令和4年分民間給与実態統計調査」によると、給与所得者の平均年収は男性が563万円、女性が314万円、男女計で438万円です。さらに年齢階層別に見たデータでは、35歳〜39歳では462万円、40歳〜44歳では491万円です。

つまり、国家資格を持つ「心のプロフェッショナル」であっても、平均給与は「日本の平均給与程度」あるいはそれ以下となっているのが現実です。

下記の[図表]をみても、年収のボリュームゾーンは「300万円以上400万円以下」にあることがわかります。

アメリカは約1,528万円、イギリスは約744万円…欧米の心理士は高い給与を得ている

では、海外に目を向けると、心理士の年収はどの国でも同じくらいなのでしょうか? 結論からいうと、それは「否」です。

たとえば、アメリカのIndeed社によると、アメリカの心理士の給与は年間「105,409ドル」と記載されています。1ドル145円で計算すると、アメリカでの心理士の年収は日本円で約1,528万円ということになります。

Forbes社によると、アメリカ全州の平均給与は「59,428ドル(約862万円)」となっていますので、アメリカの心理士はアメリカ人全体の平均給与の約2倍近くあることがわかります。

また、アメリカにはおよびませんが、イギリスの心理士の給与も日本より高いです。Indeed社の調査によると年間「40,201スターリング・ポンド」となっています。2024年1月の水準から1スターリングポンド185円で計算すると、日本円で約744万円です。

イギリスの「国家統計局 (ONS)」の調査によると、イギリスの平均給与は29,669スターリング・ポンド (約549万円)ですから、心理士の給与は平均給与よりも200万円ほど高いようです。

つまり、欧米諸国と比較すると、日本の心理士は低く評価されているといえるかもしれません。

◆まとめ…日本の「心理士」はもっと評価されていい

心理士は心の専門家であり、決して誰でもできる仕事ではありません。

にもかかわらず、日本の公認心理士による診療報酬は低く見積もられていることから、必然的に心理士の年収は一般の年収並みという状況となっています。

近年若者のあいだで深刻化する「オーバードーズ(薬の過剰摂取)」や年齢問わず増えているうつ病、適応障害……。現代社会で今後、心の問題を解決する心理士の需要はより高まると考えられます。

筆者は医師として、日本でも心理士の仕事がより適切に評価されるようになることを願っています。

秋谷 進

医師

(※写真はイメージです/PIXTA)