アイヌの莫大な埋蔵金を巡る冒険サバイバルバトルを描いた大人気コミック「ゴールデンカムイ」の実写映画『ゴールデンカムイ』がついに公開!北海道の大自然、野生動物との格闘、アイヌ文化、グルメなど様々な見どころが挙げられる本作だが、その大きな魅力の一つは、“脇キャラ不在”と言われるほど、個性豊かでバイタリティのあるキャラクターたちが縦横無尽に活躍する点である。

【写真を見る】山崎賢人演じる杉元佐一を尋問する鶴見中尉の狂気がハンパない!

壮大な物語の導入部として、主人公の杉元佐一(山崎賢人)とアイヌの少女アシリパ(山田杏奈)の2人の物語を軸にした本作でも、クセの強いキャラクターたちが多数登場する。そのなかでも特に、観る者に強烈なインパクトを残す人物といえるのが、玉木宏演じる鶴見中尉だろう。本稿では、杉元の前に立ちはだかる鶴見中尉にスポットを当て、そのキャラクター像と、玉木の怪演ぶりに迫っていきたい。

アイヌの金塊を巡る壮絶なサバイバルが展開!

野田サトルによる原作コミックは、2014年から「週刊ヤングジャンプ」にて連載され、2022年に完結。マンガ大賞2016や第22回手塚治虫文化賞マンガ大賞など数々の賞を受賞し、単行本全31巻、シリーズ累計発行部数2700万部を超える大ヒット作だ。2018年からはテレビアニメもスタートし、幅広い層のファンを獲得し続けている。

ハードルが高いと思われた実写映画化に挑んだのは、もともと原作の大ファンだったという「HiGH&LOW」シリーズの久保茂昭監督。キャストには山崎賢人が主演を務めるほか、山田杏奈、矢本悠馬、玉木宏舘ひろし、眞栄田郷敦など注目の若手俳優からベテランまで、各キャラクターのスピリットを体現するような豪華キャスト陣が集結した。

舞台は日露戦争直後、明治末期の北海道アイヌ民族から莫大な金塊を奪った男が、捕まる直前にとある場所に隠した。その在り処を示すのは、男が24人の囚人たちの身体に彫った刺青の暗号のみ。“不死身”の異名を持つ元陸軍兵士の杉元佐一と、金塊を奪った者に父を殺されたと語るアイヌアシリパは、互いの目的のために手を組み、脱獄した刺青囚人たちを探す旅に出る。しかし、金塊をねらうのは杉元たちだけではなかった―。

■「ゴールデンカムイ」の最重要人物、鶴見中尉とは?

埋蔵金を追う一派の一人であり、「ゴールデンカムイ」の物語を語るうえで欠かせない重要人物が、陸軍最強と謳われた大日本帝国陸軍第七師団に所属する鶴見篤四郎中尉である。日露戦争での勝利に大きく貢献しながらも、多大な死傷者を出し、戦争後は軍内で冷遇されるようになった第七師団。鶴見中尉は報われなかった師団員のため、軍事クーデターによる独立国家樹立を目論んでおり、その軍資金にすべく、有能な部下を率いて金塊探しに奔走しているという設定だ。

ちなみに北海道出身である原作者、野田の曽祖父(名前は杉“本”佐一!)は、かつて第七師団に所属しており、野田はそのことに誇りを感じているという。主人公はその名前を借りただけで、曽祖父とはまったくの別人なのだが、鶴見中尉のキャラクターには、実は長谷川篤四郎というモデルになった人物がいることを公式ファンブックのなかで明かしている。一見、いわゆる悪役に思える鶴見中尉だが、作者にとって非常に思い入れの深いキャラクターなのだ。

鶴見中尉カリスマ性に合致した玉木宏のキャスティング

その野田本人から、鶴見役にぴったりだという熱烈オファーがあり、理想のキャスティングとなったのが玉木。彼自身も原作のファンで、もし自分が演じるなら鶴見がいいなと思っていたという。まず、鶴見中尉は、精鋭ぞろいの第七師団の多くのメンバーを心酔させ、意のままにしてしまうほどのカリスマ性の持ち主。スタイルがよくて、上背があり、ただそこにいるだけで圧倒的な存在感を放つ玉木は、原作の鶴見のイメージにとても近い。

ビジュアル面では、日露戦争の奉天会戦での砲撃により前頭部を損傷し、白いホーロー製のプロテクターで額全体を保護している鶴見。脳みその一部が吹き飛ばされたせいか、興奮するとプロテクターの下から脳汁がドロリと垂れてくるという異様な様は、実写になると一段とグロテスクだ。目元から頬骨にかけて広がる焼けただれたような生々しい傷跡も、特殊メイクで完璧に再現。玉木のせっかくの美貌が半分隠れてしまっているのだが、原作の回想シーンで出てくる鶴見は相当の美男子。容姿を含めて、人を強く惹きつける力があった人物なので、端正な顔立ちの玉木だからこそ説得力が生まれている。

そして、鶴見中尉のビジュアル以上に強烈なのが、その内面の個性。前頭葉を欠損した影響か、頭に血が昇りやすく、なんの前触れもなく、異常な暴力性を発露させることも多い。劇中、雪山で消息を絶った4人の部下の捜索時に、上官の和田大尉から叱責された鶴見が、脳から漏れ出る体液をハンカチで冷静に拭きつつ、和田の人差し指にいきなり噛みつくや否や、ブチッと歯で指を噛み切ってしまうシーンがある。沸点がどこかわからず、いつなにをしでかすかわからない鶴見の狂気をまざまざと感じさせる、玉木の振り切った演技に注目だ。

また、情報将校である鶴見は、情報収集や分析能力に長けており、人心掌握はお手のもの。指を失った和田大尉が部下に「(鶴見を)撃て!」と命じた際の成り行きからも、鶴見が師団員たちの行動をいかにコントロールしていたかがよくわかる。

■狂気の尋問シーン、クライマックスにおけるチェイスアクションも白熱!

本作の後半、第七師団の兵舎で拘束された杉元が、鶴見中尉に刺青人皮の在り処について尋問されるシーンも大きな見どころ。串団子を食べながら、質問をのらりくらりとかわしていた杉元の両頬を、突然、団子の竹串でザクッと突き刺す鶴見。とんでもないことをされたのにもかかわらず、驚くわけでも、痛みに声を上げるわけでもなく、瞬き一つせずに平然としている杉元。演じる玉木と山崎の冷静な表情の下にうごめく激情、ただ者ではない2人の狂気と狂気が静かにぶつかり合う名シーンに、ゾクゾクしてしまう。

狂気といえば、炎に包まれる第七師団の兵舎を見ながら、鶴見がおもむろに軍服を脱ぎ、下に着こんでいた刺青人皮で作った肌着を見せるシーンも衝撃的。死体から剥いだ皮膚を直接身に着けても平気な神経、金塊に対する執念が凄まじい。

そのほか、馬橇に乗った杉元と、馬であとを追う鶴見が繰り広げる、疾走感あふれるスリリングなチェイスシーンや、舘ひろし演じる土方歳三と鶴見が初めて互いを認識する、貫禄たっぷりの対峙シーンなども観逃せない。もはや登場シーン一つ一つが、パワフルでかっこいい見せ場になっている(本作において、それは鶴見に限らず、すべてのキャラクターに言えることであるのだが)。

若い頃は爽やかな好青年のイメージが強かった玉木だが、年齢を重ねるにつれ、ラブストーリー、ミステリー、コメディなど出演作品のジャンルの幅が広くなり、演じる役柄も二枚目から三枚目、ヒーローから悪役まで実に様々。とはいえ、さすがに本作の鶴見ほど強い個性を持つキャラクターは別格だ。原作ファンからも愛されるミステリアスな鶴見中尉役が、玉木にとって新たな当たり役になることは間違いない。

文/石塚圭子

山崎賢人の「崎」は「たつさき」、アシリパの「リ」は小文字が正式表記

『ゴールデンカムイ』で鶴見中尉を怪演する玉木宏に注目!/[c]野田サトル/集英社 [c]2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会