近年の収益不動産のトラブルで特に増えているのが、高齢者の家賃滞納です。高齢者の賃貸での一人暮らしは孤独死の危険性もあり、大きな問題となっています。今回は、高齢の家賃滞納者に悩むAさんの事例とともに、不動産オーナーが抱えやすい高齢住民トラブルとその対処法について、1級ファイナンシャル・プランニング技能士の川淵ゆかり氏が解説します。

亡き父からアパート経営を引き継いだ50代大家の不安

50代のAさんは、15年前に亡くなった父親からアパート経営を引き継ぎました。引き継いだ当初は「いい副収入だなぁ」程度にしか思っていませんでした。

しかし、入居者も知らぬ間に高齢化が進んでおり、調べると「まだ70代かなと思っていたらとうに80歳を過ぎていた」とか、行動が怪しく「認知症が出てきたんじゃないか?」と思う人もいます。

ほかにも、身内とはすっかり疎遠になっている人や連帯保証人も高齢になってしまい、生存しているかどうかもわからなくなっている人もいるようです。

高齢・家賃滞納者の扉を叩くと…

先日は、最近音沙汰のない家賃滞納中の高齢入居者のもとへ催促に行きました。すっかり疑心暗鬼になっているAさんは、「もしかしたら死んでいるかもしれない……」と恐る恐る扉を叩きます。するとその入居者は、勢いよく部屋から飛び出してきて、「お前の親父さんは待ってくれたよ!」と逆ギレしてきました。

Aさんは、傍若無人な態度に唖然としました。しかし、なんだ生きていたか、とひとまず安心しましたが、「今後は家賃をちゃんと払ってもらえるのだろうか?」「認知症の人が増えたらどうしよう」「孤独死されたら困るよなぁ」とやっぱり不安になるのでした。

そうはいっても、高齢者といえども悪いことばかりではありません。年金が定期的に入ってくるので家賃をきちんと払ってくれる人が多いことも事実ですし、古いアパートですから若い入居者を入れるためにはそれなりにお金をかけた改修もしないといけません。

なお、家賃滞納が続いた場合、強制退去という方法もありますが、高齢者の場合は家賃滞納があっても強制執行で退去させられないケースもあります。一概にはいえませんが、80歳を超えるとほとんどが難しくなり、法的にも退去してもらえなくなってしまいます。

増える高齢者の一人暮らし

内閣府が発表している「令和5年版高齢社会白書」によると、日本の総人口は2022(令和4年10月1日現在で1億2,495万人で、

・65歳以上人口は、3,624万人。総人口に占める 65歳以上人口の割合(高齢化率)は 29.0% ・65~74歳人口は 1,687万人、総人口に占める割合は 13.5% ・75歳以上人口は 1,936万人、総人口に占める割合は 15.5

となっています。2070(令和52)年には、2.6人に1人が 65歳以上、4人に1人が 75歳以上になると予想されており、今後も高齢者率は高くなっていきます。

なお、厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」によると、次のように単身世帯の高齢者世帯が増えているのがわかります。孤独な老人が増えているのがわかる結果となっています。

また、令和3年版高齢社会白書によると、65歳以上の世帯のうち持ち家でない借家住まいの割合は約18%(公営の借家:6.5%、民間の借家:11.1%)となっていますが、単身世帯では約33%(公営の借家:11.6%、民間の借家:21.7%)と高い割合になっているのがわかります。

高齢者率とともにアパート経営に増えるトラブル

高齢者人口が拡大するにつれ、アパートなどの賃貸物件にも高齢者が増えてきます。高齢入居者が増えることで、認知症や収入減による家賃の滞納や孤独死といった問題も増えてきて、不動産経営のオーナーとしては大きなリスクとなるでしょう。

独居老人の「孤独死」も増加しています。これは高齢入居者の受け入れを考えるオーナーにとって大きなリスクとなります。特に「孤独死」の場合は、残された家財の処分、特殊清掃費用や原状回復費用といった費用もかかり、その後も空室解消のための家賃の値下げを行うことにもなります。

孤独死に備えた保険まで…不動産オーナーが利用できる各種サービス

しかし、以上のリスクを恐れて高齢者を受け入れるアパート等が減っていくことは社会問題にもなりかねません。そこで近年、こういった高齢者の問題のリスク対策として、高齢者等の入居トラブルに対応するサービスが注目を浴びています。

まず、家賃保証ですが、滞納した家賃を立て替えてくれるサービスです。ほかにも更新料や原状回復費用などにも対応してくれるサービスもあります。

高齢者だけでなく、いまは外国人の入居も増えていますが、外国人や障がい者といった広い範囲も対象とするサービスもあります。こういった保証料は入居や更新の際に入居者が支払うことが原則のため、オーナーの費用負担はありません。

次に孤独死ですが、孤独死保険というものがあります。原状回復のための費用や遺品整理のための費用、空き室等の家賃補填といったリスクに対応できるのです。なお、保険料はオーナーが支払いますが、保険料は一部屋につき年間3,000円前後と負担となるほどの金額ではありません。

見守りサービスも充実してきました。警備保障会社や宅配便会社などがサービスを提供していますが、通報ボタンやセンサーなど方法により月額費用も1,000円程度~5,000円超とさまざまです。

行政に相談することも重要です。入居者が仕事がなくなったり突然の病気やケガで動けなくなったりすることもあります。介護認定や生活保護など入居者が受けられるサービスがあるかもしれませんので、前もって窓口などを調べておきましょう。

副業でアパート経営を始めている方や検討している方は、ますます増える高齢者へのリスク対策を考えておく必要があります。

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)