安定のイメージが強い公務員。特に国家公務員であれば、その安定ぶりはピカイチです。定年を迎えた後も不安も何もないんだろうな……多くはそう思いますが、意外にも生活が苦しいと訴える人が多いようです。みていきましょう。

生涯安泰が約束された「国家公務員」だが…昨今は人気低迷

サラリーマンであれば、多かれ少なかれ「勤務先の倒産リスク」を抱えていますが、公務員であれば基本的になし。一度なれたら一生ものというイメージがあり、安心・安全を求めるなら公務員と呼ばれる時代がありました。不景気になると公務員が人気になる、といわれていた時代です。特に国家公務員であれば親方は日の丸、絶対安泰。ただ最近は少々人気が低迷し、民間企業を志向する傾向が強いようです。

人事院『公務員白書』(令和4年度)によると、2022年、国家公務員採用試験申込者数は、全試験で10万8,854人でした。申込者数は、平成の前半、20万人台で推移。1994年1995年と2003年は30万人を超えました。しかし2007年には12万人と急減。以降は12万~13万人台で推移し、いよいよ10万人を割り込もうとしている状況です。

国家公務員が敬遠されるようになった理由として、人事院は「若年人口の減少」をひとつにあげていますが、これに加えて「労働環境が悪い」ことが広く知られるようになったことも一因。特に国会対応は理不尽なことも多く、時間を守らない議員のために業務が深夜に及ぶことはしばしば。コロナ禍ではさらに業務量が増大。不景気は公務員志望者が増えるという言葉がありましたが、むしろ減少に拍車をかけることになりました。

そんな厳しい状況下に置かれている国家公務員ですが、それでも安定した職場環境であることに変わりはなく、毎年、多くの人が定年退職を迎えています。

国家公務員の定年年齢は原則60歳でしたが、現在、段階的な引き上げの真っ最中。2023年~は61歳、2025年~62歳、2027年~63歳、2029年64歳。そして2031年には65歳になります。

60歳以降、定年退職日までの働き方は、いくつかのパターンがあり、今まで通りフルタイムで働きたい人は「役職定年制:定年時に管理監督職に就いている職員が非管理監督職として勤務」「定年時に非管理監督職に就いている職員が引き続き非管理監督職として勤務」、60歳以降は短時間勤務を希望する場合は「一旦退職し、短時間勤務官職への定年前再任用として勤務」となります。

安定した収入、多額の退職金…それでも生活苦に陥る「国家公務員」

いま定年退職を迎えようとしている国家公務員は、初めての東京五輪が開催されたころ、日本が高度成長期のころに生まれた人たち。若手の頃にバブル景気を経験し、働き盛りの30代~40代の頃には、日本はどん底に。そして50代を迎えるころには、国家公務員のブラックぶりが広く知られるように……もちろん職種などによって異なりますが、このような変遷を辿ってきた人たちです。

長年、日本のために頑張ってきた定年を迎える国家公務員。そこで手にする退職金はどれほどになるのでしょうか。内閣官房令和4年度 退職手当の支給状況』によると、常勤職員のうち、定年退職したのは1万4,283人で、平均退職金は2,112.2万円。またそのうち、行政職俸給表(一)適用者は4,086人で、平均退職金は2,111.4万円でした。

日本経済団体連合会の発表では、勤続38年の平均定年退職金は2,243.3万円なので、大企業を長年勤めたサラリーマンよりは若干下回る水準。それでも、定年退職金額が右肩下がりの現状、2,000万円を超える退職金は羨ましい限りです。

ただ、そんな額の定年退職金を手にした国家公務員も、その後、誰もが安泰とはいかないようです。

人事院『令和2年度 退職公務員生活状況調査』によると、60歳定年退職をした国家公務員のうち、「引き続き働いている人」は89.6%。そのうち81.0%が再任職員。そのほか国の機関や地方公共団体等も含めると、9割が公務員の延長。1割が民間企業で働いています。

自身の平均収入は、月「21万~30万円」が最も多く31.5%。次いで「11万~20万円」が16.8%、「10万円以下」が7.3%。また世帯年収の平均は37.7万円で、平均支出額は37.6万円でした。

また現在の家計の状況について、17.8%が「ゆとりがある」と回答する一方で、「苦労している」が22.6%、「生活が苦しい」が17.9%でした。

民間企業と比べて派手さはないかもしれませんが、安定した収入を手にし続け、最終的に2,000万円を超える退職金を手にした国家公務員。それでも20%強がやりくりに苦労し、20%弱が生活苦を訴えています。

そこから学ぶべきは、資産形成の重要性。定年を迎えた国家公務員に「定年退職後の生活・生活設計について考えるようになった時期」を尋ねたところ、50代前半が25.9%、50代後半が50.0%でした。半数が定年直前になってから定年後を考える……これでは一生安泰という立場でも、定年後に生活苦に陥るのも当然かもしれません。やはり、資産形成は長期的な視点で取り組むことが大切です。

[関連資料]

人事院『公務員白書』(令和4年度)

内閣官房『令和4年度 退職手当の支給状況』

人事院『令和2年度 退職公務員生活状況調査』