企業の成長に資する人材を確保する上で、その雇用形態を「正社員」だけに限定することは、企業にとってのメリットが少ないばかりか、大きなリスクをもたらします。本記事では、正社員以外の雇用形態の特徴について解説しながら、組織作りについての考え方をアップデートします。

企業のコアメンバーをフルタイムの「正社員」のみに依存するリスクについて

企業で働く従業員=正社員考える人は多いでしょうが、業務のすべてを正社員が行うことは効率的ではありません。定型的な事務作業や、データの入力作業などルーティンワークであれば、あえて正社員が行う必要性はないでしょう。

また、企業における業務を正社員のみに依存することは、大きなリスクにもなり得ます。

まず、労働者正社員として雇用した場合には、簡単には解雇できません。解雇するには客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが必要です。この解雇権濫用法理は非常に厳格に運用されており、多少の問題を起こした程度で解雇は認められません。

問題を起こした社員や、成長を見込めない社員を在籍させ続けることは、企業にとって大きな負担となります。

成長意欲の薄い社員は、自分が任された仕事以外を行おうとしません。そのような社員が社内に多くなれば、業務を回すために必要な人員も多くなり、効率性も低下してしまいます。人件費の削減や業務効率化のためにも、自社以外のリソースを活用することが重要となるでしょう。

また、代替の効く外部リソースを活用すれば、業務の属人化を防ぐことも可能です。

正社員以外の人材を活用する理由

正社員としてメンバーを雇用すると、給与をはじめ、企業が負担する雇用コストは高くなってしまいます。また、通常正社員は、厚生年金保険や健康保険をはじめとする法定福利厚生に加え、住宅手当や家族手当などの法定外福利厚生の対象ともなります。

しかし、業務の外部委託や派遣社員等を活用すれば、福利厚生費は大幅にカット可能です。すでに述べた通り、正社員は簡単には解雇できないため、繁忙期のみの雇用など、必要なときにだけ活用することは困難です。常時ではなく、一定の期間だけ人手が必要な企業も多いでしょう。

しかし、そのような企業のニーズと正社員としての雇用は噛み合っていません。

そのため、時期によって業務に繁閑の差があるような企業は、正社員外の人材によって、必要な労働力を賄っているのが現状です。

柔軟な雇用形態増加の背景

業務の属人化の解消やコストカット、特定時期の労働力確保など、理由はさまざまですが、正社員以外のいわゆる「非正規」と呼ばれる人材を活用する企業は多くなっています。

そして、この非正規雇用の増加は、企業側だけの事情ではなく労働者側の事情も関わっています。

厚生労働省が行った『就業形態の多様化に関する総合実態調査(令和元年度)』によれば、非正規雇用を行う企業側の理由としては、以下の3点が上位に挙がっています。

正社員の確保ができないため(38.1%) ・業務の繁閑に対応するため(31.7%) ・賃金節約のため(31.1%)

一方、雇用される労働者側は以下の3点を大きな理由として挙げています。

・自分の都合の良い時間に働けるから(36.1%) ・家庭と両立しやすいから(29.2%) ・家計や学費の補助(27.5%)

フルタイムで働く正社員では、自分の都合の良い時間のみ働く訳にはいきません。また、フルタイムかつ責任の重い正社員では、育児や介護といった家庭との両立も難しくなります。

このような労働者側の事情も、正社員の確保が困難な状況を招いていると推測できます。

つまり、非正規雇用という柔軟な雇用形態の増加は、企業側の事情だけでなく労働者のニーズとも合致した結果といえるでしょう。

柔軟な雇用形態とその特徴

正社員以外の非正規と呼ばれる雇用形態は、さまざまな種類が存在します。以下にそれぞれの特徴を紹介します。

パート・アルバイト

正社員と比較して短時間の労働に従事する労働者です。主婦や学生などがこの雇用形態を選択することが多く、定型的作業や簡易な作業を担当します。一般的に期間を定めて雇用されることが多くなっています。

契約社員

契約社員も期間を定めて雇用される形態です。ただし、時給制が多いパートやアルバイトと異なり、一般的に月給制で雇用される場合が多くなっています。名称が異なる場合もあり、準社員や準職員などとする企業も存在します。有期雇用かつ定型的業務に従事する場合が多いですが、パート等よりも正社員に近い業務を担う存在です。

派遣社員

派遣会社と雇用契約を結び、派遣先の指揮命令で働く労働者です。定型的業務のみ行う場合もありますが、正社員と同様の仕事を行うことも多くなっています。また、派遣法の改正により、同じ職場で働けるのは3年までとなっているため、完全に正社員の代替とはできません。

フリーランス・副業

直接の雇用だけでなく、個人事業主などのフリーランスに業務を委託することも検討に値します。多様な働き方のひとつとしてフリーランスが選択されることも多く、また近時は副業を行う会社員も増えています。これらの外部人材は経理などの専門的なスキルを持っている場合も多く、有効に活用すれば質を落とすことなく、コストカットが可能です。

柔軟な雇用制度の活用例

企業における柔軟な雇用制度の活用事例としては、まず繁忙期への対応が挙げられるでしょう。一度雇用すれば、原則として定年まで雇用する必要のある正社員では、夏季や冬季のみといった特定の繁忙期への対応は困難です。

しかし、雇用されることなく、自己の裁量で柔軟に働くフリーランスであれば、繁忙期のみ雇用することもできます。季節によって極端な繁忙の差のあるスキー場や併設の宿泊施設などで活用できるでしょう。

また、専門的スキルを持った外部人材に業務を委託すれば、仕事の質を落とすことなく、福利厚生費などのコストカットが可能です。専門的スキルを持ったフリーランスであれば、これまで正社員が行ってきた業務を代わりに行うことが可能となるでしょう。

すでに専門的知識やスキルを持っているフリーランスであれば、企業は新たに教育を行う必要もありません。また、外部人材の活用によって、正社員がより利益や売上に直結するコア業務のみに注力できるようになります。経理業務への外部人材活用などが代表例となるでしょう。

フリーランスや副業といった柔軟な雇用制度の提示は、企業だけでなく働く側の利便性向上にもつながります。

育児や介護によりフルタイムの勤務が困難な人材であっても、短時間で期間を限った勤務なら可能な場合もあります。また、フリーランスや副業であれば出社や退社といった労働時間の拘束がないため、自分の時間を多く作ることができ、ワークライフバランスの向上にも資するといえそうです。

正社員以外のメンバーの雇用における注意点

正社員外の人材を活用することは、コストカットのみならず、業務の効率化にもつながります。しかし、ただ単に正社員の業務を正社員以外に置き換えるだけでは、望む効果は得られないでしょう。

期間を定めて雇用される契約社員や、派遣期間の限られた派遣社員では、どうしても企業へのエンゲージメント向上は望みづらくなっています。職場への愛着がなければ、どうしても作業はおざなりになってしまうため、適切な対策を施すことが必要です。

また、望んだスキルを持った者が派遣されてくるとは限らず、場合によっては業務効率の大幅な低下を招きかねません。業務の範囲にも注意が必要となり、正社員と同様と判断されれば、正社員と同様の待遇や教育訓練が求められます。

また、フリーランスや個人事業主へ業務を委託する際には、ノウハウ流出や機密情報の漏洩にも気を配ることが必要となるでしょう。これは、外部の派遣会社から派遣されてくる派遣社員でも同様です。

しかし、それらの注意点を鑑みても、正社員外の人材活用には大きなメリットがあります。少子高齢化の進展により、労働力人口の減少傾向が続く我が国では、労働力不足の解消が喫緊の課題です。採用競争は激化の一途を辿り、正社員を雇用することは容易ではありません。

そのような状況下にあっては、柔軟な雇用形態の提示による、これまでとは異なった人材活用が必要となるでしょう。