日清食品が展開を進めている「完全メシ」。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」で設定されている33種類の栄養素とおいしさの完全なバランスを追求した商品で、カロリーや塩分、糖質、脂質、たんぱく質などをバランスよく整えながらも、見た目や味は通常の食事と変わらない。

販売している商品は、常温帯では即席麺やカップライス、スムージーなど。冷凍帯はパスタ、ピザ、お好み焼カツ丼など幅広く展開している。他にも、社員食堂でメニュー提供も行っているという。常務取締役の藤野誠氏に聞いた。

日清食品 藤野常務
日清食品 藤野常務

〈健康そうに見えても栄養の偏りなど抱えていることも〉

――健康にかかわる食品市場の推移をどう見ていますか。

健康を意識して食べる食品や食材は「ヘルシーコンシャス食品」と呼ばれており、この市場には、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品、糖質オフなどに加えて、たんぱく質などの特定の栄養素に特化した商品も登場しています。すでに様々な商品が販売されていて、参入メーカーも増え続けています。市場も確実に伸びており、特化型の栄養食の市場も生まれています。

――改めて、「完全メシ」はどのような商品でしょうか。

2022年5月に販売を開始し、シリーズの直近の累計販売食数は1900万食(2023年12月末時点)を突破しました。

現在は様々な商品を展開していますが、かつ丼でも、お好み焼でも、ピザでも、同じように栄養バランスが整っているというのは、ちょっと不思議な感じですよね。

体にとって一番大事なのはバランスの良い食事です。ただ、共働きの世帯も多い中、厚生労働省などが推奨している食事を家庭で実践しようとすると、毎日違う種類の野菜を摂らなければいけないなど、大変です。しかも、毎日続けるとなると、知識も手間もかかります。しかし、1週間の食事の何回かを「完全メシ」に置き換えれば、栄養バランスが整って、しかも美味しい食事を手軽に摂ることができるので、さまざまな負担を軽減できると考えています。

これまでのヘルシーコンシャス食品には、「栄養は摂れるけどおいしくない」「なんか苦い」などネガティブなイメージがありました。しかし、「完全メシ」は日清食品の最新フードテクノロジーを駆使することで、栄養素が持つ苦味やエグみを抑え、普段の食事と変わらないおいしさを実現しています。実際、言われなければ「完全メシ」と気づかない人も多いですし、そのレベルに到達したものしか商品化していません。しかし、まだまだ改善の余地はありますので、引き続きブラッシュアップを続けたいと思っています。

――どのような背景から「完全メシ」を開発したのでしょうか。

オーバーカロリーによる肥満や若年層を中心とした栄養の偏りに起因する低栄養、老化とともに生じるフレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)など、健康そうに見えても実は色々な問題を抱えていることがあります。こういった現代ならではの食の課題を解決したいとの思いから、この新規事業をスタートさせました。行動変容を起こすことなく、栄養バランスが整った食事を摂ることができれば未病対策に繋がり、医療費の削減にも貢献できるのではないかと考えています。

――開発はどのような点で苦労されたのでしょうか。

栄養素のバランスを整えることが非常に大変です。味や見栄えを少し変えるだけでも、原材料の量や種類が変われば、栄養素の計算をイチからやり直さなければなりません。また、栄養素の中には摂りすぎると良くないものもあるので、ただ栄養素を入れれば良いというわけではなく、過不足がないようにすることが重要です。さらに、時間の経過や調理の方法によって減衰してしまう栄養素もあります。そうした条件をすべてクリアしないといけないので、開発のハードルは非常に高いです。

〈サブスクサービスも伸長タッチポイントの拡大なども目指す〉

――冷凍食品の動向はどのような状態でしょうか。

ECでは、15種類ある商品をまんべんなくお買い求めいただいていますが、中でも「冷凍 完全メシかつ丼」(2023年12月11日から「冷凍 完全メシ DELI やわらかロースかつ丼」にリニューアル)がよく売れています。自社のECサイトだけでなく、Amazonなどの通販サイトを通じてご購入いただいているお客さまも多く、サブスクリプションサービスの利用者も確実に増えています。早い段階でラインアップを30品まで増やして、展開をさらに本格化させたいです。

23年9月からは「冷凍 完全メシ ボロネーゼスパゲティ」と「冷凍 完全メシ 汁なし担々麺」の2品を全国の小売店で販売しています。冷凍食品コーナーにはヘルシーコンシャス層に向けた商品があまりなかったこともあり、想定よりも高いカバー率を達成できています。

また、ジャパネットたかた様と「冷凍 完全メシ 三ツ星シリーズ」を共同で開発しました。ジャパネットたかた様を利用されるお客さまはシニア層が多く、そうした方々に向けたプレミアムラインの商品として提案しており、販売は順調です。

――冷凍自販機を活用した販売の状況はいかがですか。

いくつかの企業様でご導入いただいています。昼食だけでなく、残業をした際の夕食としても利用されており、売れ行きは想定よりも好調です。ただ、毎日同じ商品だと飽きてしまうので、今後はメニュー数を増やしていきたいと考えています。

――不足している商品はありますか。

やはり、ラーメンです。汁なしの商品は販売していますが、汁ありの商品は塩分量の問題や、スープを飲むかどうかが栄養素のバランスに影響してしまうので、開発が非常に難しいです。

――今後の展開をお聞かせください。

「完全メシ」のブランド認知度は約50%と非常に高いのですが、「完全メシ」がどういう商品なのか、まだまだお客さまにご理解いただけていないと感じています。売場やCMで色々な提案を行っていますが、今後は「完全メシ」の特徴をより伝えられるようなCMなどの展開を進めたいですね。ターゲットについても、30~40代や健康への意識が高い人以外にも広げていきます。

また、他社との協業も強化したいと考えています。これまで、ジャパネットたかた様だけでなく、木村屋總本店様とあんぱんを開発したほか、明治安田生命様ともQOL向上に貢献するサービスの開発に向けた協議を進めています。我々だけではできないジャンルも多くあるので、コラボレーションは積極的に進めていきたいです。

当社の社員食堂でも「完全メシ」を提供していますが、すでに数百種類のレシピが完成しています。岡山県内にある企業の両備ホールディングス様の「MORINOMACHI PICNIC TERRACE」でも、日替わりで定食メニューを提供しています。ここでは同社グループの社員以外の方も食べることができ、好評いただいています。最終的には、ファミリーレストランでも「完全メシ」が食べられるといったように、さまざまなシーンやタッチポイントで展開していきたいです。

〈冷食日報2024年1月22日付〉

日清食品「冷凍 完全メシ DELI やわらかロースかつ丼」