モーニングでブロック連載中の『望郷太郎』(@bokyotarojp)の第10巻が、2024年1月23日(火)に発売になる。主人公の舞鶴太郎は、赴任先のイラクで大寒波に襲われた。北半球が凍り始めるほどの危機が迫り、太郎と家族はシェルター内の冷凍睡眠装置(コールドスリープ)に入る。しかし、目を覚ますと500年の歳月が経っていて――。文明が崩壊したディストピアで日本を目指す太郎。今回は『望郷太郎』10巻の発売を記念し、編集担当の井上さんにインタビューを行った。

【漫画】500年後の未来「望郷太郎」を読む

■家や車や服は500年経ったらどうなるのか…未知の世界を描く

氷河期並みの大寒波が地球を襲った。北半球が凍結し始め、凍死するもの続々と増え続けるなか、主人公の舞鶴太郎は、妻の美佐子と息子の光太郎で、シェルターに避難。冷凍睡眠装置(コールドスリープ)に入り、寒波を乗り越えることにした。

しかし、太郎が目を覚ますと、なんと500年もの年月が経過していた。妻の美佐子と息子の光太郎シェルターを開くと、電源が止まっていて2人はすでに絶命。奇跡的に1人生き残った太郎は、変わり果てた世界を目の当たりにする。絶望のなか日本に残った長女の恵美を思い出し、文明が崩壊したイラクの地から日本に戻ろうと太郎の旅が始まる。

■前作「へうげもの」のベクトルを反転させ、500年後の「日本人」を探ってできた物語

崩壊した世界で、太郎はさまざまな人間と出会う。そこでは生き抜くための知恵や技術、社会のルール形成などが丁寧に描かれている。

――始めに、井上さんはどのくらい山田先生の編集担当をしていますか?

この春で丸3年になります。自分はノンフィクション畑で長く編集をしてきたので、とても勉強になる日々を送らせていただいています。月に4回くらいのペースで、半日におよぶ長い打ち合わせをするのはかなり消耗するのですが…。

――Xで専用アカウントを作ったきっかけを教えてください。

2010年に山田芳裕さんの前担当編集者が、当時連載されていた「へうげもの」を盛り上げるために開設しました。現在も野心的な作陶家やクリエイターの皆様のアカウントと相互フォロー関係にあります。自分は2021年に『望郷太郎』5巻相当部分から担当を引き継ぎ、あわせてアカウントも運用しています。

――『望郷太郎』が生まれたきっかけはわかりますか?

へうげもの』は、500年前に「日本人」なるものの起源を探求する作品でした。次の作品ではそのベクトルを反転させ、500年後に「日本人」はどうなっているのかを探ったらおもしろいのではないか。こうした発想から『望郷太郎』は生まれたと聞いています。

――今までの連載中、ここは「大変だった!」「すごかった」というような、創作秘話はありますか?

家でも車でも服でも、500年経ったらどうなるのか。これが本当によくわからないのです…。専門的な学会に取材をお願いしても「答えようがない」と断られてしまっています。ただ、500年前のさまざまな品が管理さえよければ現存していることは、博物館に行けば簡単にわかります。なので500年後も、雨ざらしとかになってなければ、具体的には氷漬けになっていれば、相当なものが残るのでは、と仮定しています。

主人公自身も500年冷凍されていたという設定ですし、こうした前提で創作を進めてはおります。もし「500年後の●●」についてシミュレーションできる専門家の方がいらっしゃるなら、ぜひ取材させていただきたいです!

――Xで第1話が公開されていますね。「読み出すと止まらなくなってしまう」とのコメントもありますが、本作の見どころを教えてください。

主人公・舞鶴太郎が物理的には無力なまま、500年後の世界で起きるすさまじい危機を乗り越えていくところでしょうか。その結果、太郎は「戦争をやめさせる方法」を必死で考えつき、ギリギリの局面で命を張りながら実践していきます。読めば何度もブチ上がる、名場面に出会えますよ!

――最新刊の見どころをお願いします。

2024年1月23日(火)に節目となる第10巻が発売になります!『望郷太郎』で作者が描こうとしているテーマのひとつに「野性の暴力」を突き詰める、というものがあるのですが、その到達点を見せてくれるすごい巻になっています。少しネタばらしすると、超巨大なパンダがむちゃくちゃに大暴れして人を食べまくります。活劇としてもすさまじい出来なので、楽しんでいただけたら幸いです!

――漫画家と編集者(山田先生と井上さん)は、どのような関係ですか?

全力疾走のフルマラソンに伴走するような、あるいはお互いをひもで連結して息を止めて海の底に潜るような、死なばもろとも的関係……かもしれません。現実には漫画が売れなかったとしても、私はクビにならないですし、逆に売れても私の取り分はないわけで、漫画家と編集が一緒に死ぬことはないのですが。ともあれ、走ったり潜ったりした先に読者が驚愕してくれる「何か」が見つかるはずと信じ込むことで、どうにかやっている感じです。

――『望郷太郎』の続きを読む方法はありますか?

講談社の漫画アプリ「コミックDAYS」や「マガポケ」では、ほぼ全話が「待てば無料」で読めますので、未読の方はまずこちらでお試ししていただければ入りやすいと思います。現在、作者執筆中の第十二部では、太郎がスケールの大きな賭けに出て、大陸規模の戦争を食い止めようとする展開が描かれております。

「モーニング」では、作者が1章分を描きためたら、その分(9話分)を連続掲載するという「ブロック連載」の形で登場するので、5月ごろの第十二部開始までお待たせしてしまいますが、待つ甲斐のあるすごいのが出てきますので、ぜひ楽しみにしてください!

取材協力:モーニング編集部・井上威朗

目覚めた先は500年後の未来!?/画像提供:(C)山田芳裕/講談社