「貯蓄がなくて老後が不安でしかたがない」と嘆いていても何も解決しません。大切なのは、できるだけ早くからマネープランや戦略を立てて準備しておくこと。本記事では、講演、執筆、個人マネー相談等で幅広く活躍するお金のプロ、頼藤太希氏・高山一恵氏による著書『1日1分読むだけで身につく 老後のお金大全100』(自由国民社)から、老後に向けてやるべきことを解説します。

60代で「貯蓄がまったくない世帯」は20%を超える

金融広報中央委員会が公表している「家計の金融行動に関する世論調査」によれば、60代の夫婦世帯の金融資産保有額の平均値は1,819万円、単身世帯の金融資産保有額の平均値は1,388万円です。ずいぶん多いと思われる方もいるかもしれません。

しかし、この数字はあくまで平均値です。平均値は、一部のお金持ちが大きく引き上げてしまう傾向があります。全体のちょうど真ん中にあたる「中央値」をみると、夫婦世帯で700万円、単身世帯で300万円となっています。平均値よりもかなり下がることがわかります。

また、保有する資産額をみると、夫婦世帯では20.8%、単身世帯では28.5%が金融資産非保有つまり貯蓄がまったくない状態です。300万円未満までの世帯を合計すると夫婦世帯で35.7%単身世帯で46.5%もあります。つまり、多くの世帯は、必要な老後資金が足りていないということになります。

定年してからじゃ遅い!老後の準備は「50代」からスタート

「人生100年時代」において、50代は折り返し。人生の後半を充実させるためにも、老後に起こりうるイベントとそれにかかる費用を想定してみましょう。 50代も後半になれば、定年退職がみえてきます。しかし、今は定年退職で仕事を引退する人は少数派。定年後の働き方や、いつまで働くのかを考えます。老後の収入や支出がどのくらいか、退職金や年金がいくらもらえるのか、さらに、年金をもらうまでにいくら老後資金が必要なのか、それを用意する方法についても検討しておきたいところです。

年金は原則65歳からもらえますが、希望すれば60歳から75歳の間でもらい始めることができます。いつからもらうかで金額も変わるので、慎重に考えて決める必要があります。また、資産運用で築いてきた資産をどのように使っていくのか、出口戦略を考えておくことも重要です。

介護も発生するかもしれません。親、あるいは自分や配偶者の介護が必要になったらどうするのか、想定しておく必要があります。用意されている医療制度や介護サービスも確認しておきましょう。

老後のマネープランはどうつくればいい?

たとえば、老後の毎年の収入が240万円、必要な支出が300万円だとします。この場合、老後の赤字は毎年60万円です。さらに、それが65歳から95歳までの30年続いたとすると、不足金額は合計1,800万円です。老後のマネープランを作ることとは、この1,800万円をどのように用意するか具体的に考えることです

支出を減らせば、その分豊かな老後からは外れてしまいますが、用意するお金を減らすことにつながります。

収入を増やせば、老後の赤字減、黒字化が見込めます。年金を増やしたり、資産運用の資産を取り崩したりする方法が考えられます。65歳といわず、70歳、75歳……と働き続けることができれば、老後資金を用意すべき年数が減らせます。

そして、不足する老後資金を事前に準備する方法もあります。早くから貯蓄や投資をしてお金を用意していけば、老後資金をまかなえるでしょう。

さまざまな方法を利用して、老後不足するお金を用意していきましょう。

「タイムバケット」でやりたいことを「見える化」

長い老後に備えて、お金を用意することは大切ですが、人生に大切なのはお金だけではありません。どのように生きるかも大切です。

もしもお金に困らなくても、「やりたいことがない」のは寂しいものです。それに、お金をたくさん残して亡くなることは、そのお金を使うことで得られるはずだった経験をせずに亡くなることと同じです。

人生をより充実させるために、「タイムバケット」というツールを利用して、いつ何をしたいのかを考えてみましょう。

タイムバケットは、いうなれば「死ぬまでにやりたいことリスト」を年齢ごとに振り分けたものです。図のように、現在をスタート、予想される人生最期の日をゴールとし、その間を5 年、10年で区切ります。そして、その区切り( 時間のバケツ=タイムバケット)に、やりたいこと、起こりうる大きなイベントを入れていきます。

実際に作ってみると、自由な時間があるからできること、健康だから楽しめること、お金があるからできることが、それぞれ違うことがわかるでしょう。これからの人生で何をしたいのか、ぜひ考えてみてください。

老後の資産運用は「コア・サテライト戦略」で守りながら増やす

老後の資産運用で大切なのは、お金を減らさずに増やすことです。そのために資産運用で取り入れたいのがコア・サテライト戦略です。

コア・サテライト戦略は、資産全体を「コア」と「サテライト」の2つに分けて運用する投資の戦略です。投資の運用成績は、資産配分で9割が決まります。プロの機関投資家は、お金を減らさずに増やすために、守りの資産をつくったうえで攻めの投資を行います。

個人で行う投資も考え方は同じです。資産の7〜9割を占める守りの資産(コア資産)では預貯金や債券、インデックスファンド・バランスファンドといった比較的リスクの低い資産でお金を堅実・安定的に増やすことを目指します。残りの1〜3割の攻めの資産(サテライト資産)では、個別株やアクティブファンドといった、リスクの高い資産で利益の積み増しを狙います。

資産の分散により、投資先のどれかが値下がりしても損失のダメージを軽減できますし、他の投資先の値上がりでカバーする期待もできます。守りのコア資産と攻めのサテライト資産を組み合わせて、お金を減らさずに増やすことを目指しましょう。