12月22日から24日にかけて、東京ビッグサイトにて『にじさんじフェス2023』が開催された。前夜祭・1日目・2日目の3日間にわたって開催されたこのイベントは、令和のネットカルチャーを引っ張るバーチャルタレント事務所・にじさんじによる、1年を締めくくるイベントである。

【画像】多数のライバーが出演した『SYMPHONIA』Day1・Day2の様子

 年に1度開催される大型イベントであり、なおかつ過去最大級の規模感で行なわれること、そして12月のクリスマスシーズンで開催されることも含め、ファンにとっては見逃すことのできないイベントとなった。

 3日間に渡って開催される内容は、どれも非常に色濃く、ひとつひとつピックアップして紹介できればと思う。ここでは初日・2日目におこなわれた5周年記念ライブ『SYMPHONIA』について記していきたい。

■『SYMPHONIA』Day1 溢れるエネルギーが会場を大きく盛り上げる

 いきなり書かせてもらうが、この日の最後、アンコールとして歌われたのは「Wonder Never Land」だった。

 にじさんじ3周年記念プロジェクト「PALETTE」の第1弾リリースとしてお披露目されたこの曲は、「Virtual to LIVE」を手掛けたkzが作詞・作曲を務めた楽曲であり、数年経過したいまではライブのスタートやクライマックスで歌われることの多いナンバーだ。

 そのなかにこのような歌詞がある。

落書きのような未来予想図も
たくさんの色で満たして
バラバラのパレードは続く
賑やかしく 君に届けよう〉

 このラインが歌われたとき、筆者は「今日のライブのようだ」と真っ先に感じた。

 この日のセットリストを見ただけではうまく伝わらないかもしれない。だが、この日披露された23曲を通してみると、「踊っていない」「振り付けがない」曲のほうが圧倒的に少なかった。

 1曲目の「Hurrah!!」では、出演者8人が自由に動きつつ歌っていただけだった。そこから、2曲目に魔界ノりりむが「INTERNET OVERDOSE」を、3曲目に葉加瀬冬雪フレン・E・ルスタリオが「可愛くてごめん」を歌ったあたりで、8人がこの日のためにどれほどの練習を重ねてきたかが一目瞭然に伝わってきた。

 自身のサブアカウントで暗めなポエムを綴ることが多いりりむが「INTERNET OVERDOSE」を歌う。それは『NEEDY GIRL OVERDOSE』に登場するヒロインの自己承認欲求の強さや情緒不安定な姿と通ずる部分があり、バッチリハマる素晴らしい選曲なのだが、ただそれだけではより良く観客には伝わらない。

 この日の出演者のなかで一番小柄な彼女が、細い歌声を伴いながら歌い踊る。本来漂わせているキュートさをよりハッキリと押し出し、観客を虜にする。実際このパフォーマンスはかなり刺さったようで、ライブ終わりまで彼女がどんな言動・所作をしても観客から「かわいいー!」という声が飛び交うほどだった。

 この日の出演者の中でも指折りに笑い上戸でユーモアのある3人、りりむ/フレン/レオスは『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』の楽曲「にっこり^^調査隊のテーマ」を披露し、剣持刀也伏見ガク/レオス/緑仙はKEYTALKMONSTER DANCE」を会場に届けた。

 いずれも原作ゲーム内/ミュージックビデオ内のダンスを参考にしており、踊りのキレや歌唱の良さも含め、観客の心をたしかに捉えたのだ。

 ふと思えば、レオスを筆頭に、フレン、りりむ、レイン、剣持と、この日の出演者にはなにかとひと笑いを起こしてしまうような面々が多いことに気がつく。それゆえかコミカルかつユーモアに溢れた選曲やキュートさを全面に押し出した選曲が多く、先に上げた「にっこり^^調査隊のテーマ」をはじめ、「行くぜっ!怪盗少女 -ZZ ver.-」「ねぇねぇねぇ。」「Iなんです」などがそれに当たる。

 とくに緑仙とレオスによる「Fight on the Web」はユーモア溢れる楽曲でありつつ、ネットカルチャーの様々な角度にメッセージを発していく同楽曲の本質をより強烈に表現しており、この選曲にかなりシビれたのはいうまでもない。

 また、レイン・パターソン伏見ガクとともに「革命デュアリズム」を、直後には水樹奈々の「ETERNAL BLAZE」を歌ったのは、チャレンジングな試みだと思った。

 おそらくレインがギャンブル好きということで、アニメの主題歌でありパチンコやパチスロにも流用されているこの2曲を選んだのだろう。単に歌うだけでもかなり難しい楽曲だが、レインは観客のいるライブが自身初めてにもかかわらず挑戦したのだ。

 彼女のパフォーマンスというのも、水樹奈々自身がライブでおこなっている身振りやパフォーマンス、またライブ演出に寄せているように見えた。いずれも多大なリスペクト精神にあふれているものであり、非常に感慨深い気持ちにさせられた。

 さて、にじさんじにおけるライブ出演者は、何かしらの関係性・共通点によって選ばれていることが多い。今回の1日目を例にあげれば、剣持と伏見は元2期生であり「†咎人†」コンビ、レオスとレインは同期、葉加瀬とフレンは「TRiNITY」で組んだメンバー、そしてレインとりりむは同じママ(イラストレーター・lack)をもつ姉妹であったりする。

 では、緑仙はだれと共通点を見出せるだろう。緑仙とレオスが七次元生徒会という企画をともにしていることをあげるファンは多いだろうが、筆者は迷うことなく、葉加瀬と緑仙の関係を思い出す。

 葉加瀬冬雪にとって緑仙は「にじさんじに興味を持つキッカケ」となった存在であり、「にじさんじを意識したのは緑仙の配信をみたから」だとハッキリと答えたことがある。前回開催された『FANTASIA』でいえば、卯月コウ三枝明那のような関係がこの2人にはあるのだ。

 現在ソロシンガーとしてメジャーレーベルに所属し、存分にその魅力を振りまいている緑仙。そんな先輩の姿を追いかけるように、葉加瀬もまたオリジナル楽曲のリリースやカバーアルバムの発売などを精力的におこなっている。くわえて言うならば、ゲームがあまり得意な方でないというところから、歌が好きで上手で、運動はちょっと苦手というところまで、2人にはなにかと共通点が多い。

 自身の行き道を示してくれた先輩とともに、初めて音楽ライブの舞台にあがる。ひどく緊張してしまってもおかしくないこの場面で、葉加瀬冬雪は素晴らしいパフォーマンスを見せた。どの出演者も素晴らしかったことはもちろんとして、もしも筆者がこの日のMVPを選ぶとしたら、迷わず彼女を選ぶだろう。

 葉加瀬はこの日「可愛くてごめん」「Alice in N.Y.」「天才ロック」「サラマンダー」「悪魔の踊り方」「Iなんです」の計6曲をそれぞれ披露したが、どの曲でもキレのあるダンスを見せ、さらに安定感あるボーカルまでも披露していた。

 声の出し方・当て方という細かいニュアンスまで曲にピタリと符合させていく、ハイクオリティなパフォーマンスのおかげで、この日のライブ会場に緊張感が保たれている。そんな風にすら感じてしまったほどだった。

 22曲のパフォーマンスを見終えたあと、あらためて〈バラバラのパレードは続く 賑やかしく 君に届けよう〉という歌詞を読めば、この日のムードをそのまま言い換えたような言葉だと思える。

 レオスや剣持が小ボケをし、伏見と緑仙と葉加瀬がツッコみ、りりむとフレンは笑顔で声を上げている。MC中もずっと賑やかなままで進行していた風景を含めて、なんとエネルギッシュな面々だったか。そんな高い熱量のまま、2日目の公演へとバトンを渡したのだった。

■『SYMPHONIA』Day2は随所に「にじさんじの文脈」をちりばめたライブに

 初日の熱量を受け取った『SYMPHONIA』Day2の公演は、より個々人のキャラクターやバックグラウンドに焦点を当てた選曲・パフォーマンスが印象深かった。

 まずは1曲目。昨日と同じく「Hurrah!!」を歌っていたところ、終盤の三三七拍子を打つ部分で左右に分かれていた月ノ美兎ジョー・力一リゼ・ヘルエスタ星川サラ長尾景/渡会雲雀が、センターに立っていた壱百満天原サロメへ向かって「一・十・百・千!?」と順々に振っていくシーンがあった。

 突然の振り方に「なんですの!?」と戸惑ったあと、2度目の振りには見事に「満点サロメ!」と合わせ、無事に1曲目を歌い終えた。あの戸惑いようからすると、今回初めて音楽ライブを迎えるサロメに対してのアドリブであり、緊張しいな彼女を和ませようという狙いもあったのだろう。

 もうひとつ重要なのは、にじさんじにおけるライブはこのようなタイミングで「いちライバーの前口上を挟む」ことが自然におこなわれるほど、出演者個々人の特徴を何よりも大切にしていることが伝わったことだ。

 渡会は自身のオリジナル曲skylark」で伸びやかなボーカルをみせつけ、力一はこれまで歌配信などで何度か披露していた「Get Wild」をライブ演出を伴ってパフォーマンスした。星川/不破はホシミナイトの“アゲアゲ”なムードを活かすように「気分上々↑↑」を、そしてこの後のライブ中に言及されるほどに激しいダンスをみせたのは月ノ/星川/長尾の3人による「ダンスロボットダンス」も披露された。

 アイドルイメージの強い月ノと星川に、ダンス上手として評価される長尾をくわえた3人が歌って踊る。序盤の時点で、それぞれの強み・個性・バックグラウンドを存分に生かした流れが生まれていた。

 承認欲求がつよい配信者との生活を描いたシミュレーションゲーム『NEEDY GIRL OVERDOSE』の関連楽曲「INTERNET YAMERO」をサロメが歌えば、00年代後半から2010年代にかけてサブカルシーン~音楽シーンで根強い支持をうけていたやくしまるえつこの楽曲「少年よ我に帰れ」を、やくしまると同じく細い歌声やウィスパー気味な声を特徴としている月ノとリゼがデュエットで歌う。

 2022年にデビューして爆発的に人気を得たサロメと『NEEDY GIRL OVERDOSE』の超絶最かわてんしちゃん。両者はともに短期間で多くの登録者を獲得するという点でサクセスに至るストーリーが非常に似通っている。それにくわえてサブカル/アニメ/ゲームに造詣が深い月ノとリゼがやくしまるえつこの曲を歌うということ、そのリンク性・シンクロ率は傍から見ていると非常に高く感じられる。これぞまさしく“選曲勝ち”といったところだろう。

 これだけではない。ボカロ好きかつ恋愛相談をよく配信で話題にしている星川サラが「メルト」を歌えば、ギターリフのカッティングに揺れながらセンチメンタルなメロディを甘い歌声で披露した不破湊による「夜明けと蛍」が歌われた。

 ソロでのダンスをバッチリきめつつ、初音ミク本人かと聞き違えるほどのハイトーンボイスを安定して披露した星川も素晴らしいが、両日で唯一であろうスローなナンバーをチョイスし、観客の心を奪った不破湊もおなじく素晴らしい。

 そんな素晴らしいパフォーマンスを塗り替えそうになるほど筆者の心に残ったのは、長尾景によるパフォーマンスだ。「吉原ラメント」を歌っていた終盤、それまで持っていた2本の扇子が腰に帯刀していた刀へと代わり、青/紫の炎を漂わせる刀を使って剣舞を披露してみせたのだ。

 しかもその舞も、ダンスをしているようで殺陣をしているような“オリジナルの演舞”に仕上がっており、以前から伺い知れていた自身のポテンシャルを証明したアクトだった。

 その直後には渡会とともに「スターマイン」を熱唱。がなり声やシャウト気味な歌唱をする長尾と渡会のコンビは、会場のボルテージを一段階あげるようなパワフルさでもって、会場を大いに湧かせた。

 極めつけは、終盤に披露された2曲だ。

 まず月ノ美兎による「ラビットパニック」では、「みなさん! サイリウムを白にして頭の上にかかげてください!」と観客に指示をだし、次に歌ったパートで〈近頃、町でウサギが増殖してる そろそろね、皆が気づきだすわ〉という歌詞につなげてみせる。

 過去に“全人類にじさんじ化計画”という言葉が配信内外で広がっていた時期があった。にじさんじのファン層がこれほどまでに広がっている現在を思えば、このような表現は過剰でも大言壮語でもなんでもないだろう。

 このあとのMCで「『ラビットパニック』は軽い気持ちで始めたことが騒動になっていくという曲なんですが、それはにじさんじにも通じると思います」と語り、そんなリアリティある状況をこのように表現してみせるのだから、さすが月ノ美兎と言わずにはいられない。

 そしてもう1曲、力一とサロメは「乙女のルートはひとつじゃない!」を披露した。当然2人で歌うものかとおもいきや、サプライズゲスト(?)として鹿鳴館キリコが出演し、3人での歌唱となった。

 知らない方に向けて簡単に説明しておくと、「鹿鳴館キリコ」は力一がにじさんじオーディションのために動画を送った際に創作したキャラクターだ。これまでに配信上でも何度か登場しており、昔からのにじさんじファンや力一のファンにとってはお馴染みのキャラクターでもある。

 そんな鹿鳴館キリコをリスペクトしているのが、他でもない壱百満天原サロメである。デビュー時に憧れ・目標の先輩として名前をあげており、2023年に入ってからは自身の一周年記念逆凸企画などで対面を果たしている。

 小説投稿サイト「小説家になろう」をきっかけに近年流行している“悪役令嬢モノ”の人気作『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』のアニメ主題歌をチョイスするセンスもそうだが、まさか力一、サロメキリコ"の3人が共にライブで歌うとは。筆者を含め、このライブを見ていた全員の予想を上回る演出に、会場があっけにとられたのは言うまでもない。

 ここまで記してきたことを鳥瞰してみてみれば、この日のライブは過去に類を見ないほどに「にじさんじファン向け」なライブであり、なおかつ随所に「にじさんじの文脈」をちりばめたライブであったと言えよう。

 出演者のキャラクター・バックグラウンドといった部分が一通り頭に入っていれば、彼らが提示したさまざまなパフォーマンスの意味や意図を深く掴みきれるのだ。

 本来、音楽ライブとはこういった解釈ゲームの側面ではなく、その日・その瞬間にみせたパフォーマンスのすばらしさで心を打つものであると筆者は考えている。だが、この日のライブばかりは、にじさんじという母体が孕んでいる魅力、その角度・深度を感じずにはいられなかった。

(取材・文=草野虹)

5周年記念ライブ『SYMPHONIA』