2023年2月にインテルからサードウェーブに電撃移籍した井田晶也副社長は、同社のPCビジネス全般を統括する。その中でコンシューマ領域のPC専門店「ドスパラ」は郊外に積極的に出店している。ゲーミングPCの「GALLERIA(以下、ガレリア)」や、社名と同じ新しいサードウェーブブランドの取り組みと合わせて聞いた。

取材・文/細田 立圭志

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●厳しいPCビジネス市況の中、40期は投資の年だった



――2023年2月1日に、インテルからサードウェーブに電撃的に移籍したことが業界で話題になりました。まもなく1年になりますが、サードウェーブにおける役割をお聞かせください。

井田晶也 取締役兼最高執行責任者(COO) 副社長執行役員(以下、敬称略) 23年11月からチーフ制を敷く体制になり、社長の尾崎がCEO、私がCOOとして、役割と責任を明確にしてしっかりと事業運営にフォーカスすることになりました。一口で言えば、サードウェーブにおけるPCビジネスはコンシューマとコマーシャル(法人)を含めて私の責任で運営しています。

 コンシューマ領域でいえば、ゲーミングPCのガレリア、コンシューマとコマーシャルの両方で展開しているサードウェーブPCのブランド戦略をはじめ、製品の企画・開発・製造、および販売するPC専門店ドスパラ、EC、物流、カスタマセンターまで一気通貫で統括しています。

――サプライチェーン全体を統括しているのですね。コンシューマ向けPCビジネス市場は、コロナ禍の反動減もあり厳しい状況ですが、いかがですか。

井田 一般的な話でいえば、2年前のコロナ禍における巣ごもり需要でコンシューマ市場は少しホットでしたが、23年5月にコロナが5類に分類されてから、お客様の使うお金が旅行やレジャーなど外に向けられるようになり、PC市場全体は冷え込みました。

 ただ、われわれが得意とするゲーミングなど専門分野におけるPC市場や、関連するクリエイター市場、AIを切り口にした市場には手ごたえを感じた1年でした。

 40期(22年8月~23年7月)は本社の移転、神奈川県平塚市の倉庫に物流業務のすべてをコントロールできるよう集約、他にも新規の出店を進めたりと投資の年でした。41期(23年8月~24年7月)に関しては前期以上の売り上げを目指すと同時に、新規出店以外にも様々な店舗展開を計画しています。


●なぜ「ロードサイド」への出店攻勢を強めているのか



――売り上げが好調な要因のひとつに、PC専門店「ドスパラ」の積極的な新規出店がありまよね。

井田 40期は10店舗を新規にオープンしました。41期は8店舗を計画しています。23年の年末には佐賀県栃木県にオープンしました。

――あらかじめ計画されていたとはいえ、コロナ禍でも新規出店を緩めなかったのは驚きです。また、ドスパラというと都市部にあるイメージが強いですが、郊外に積極的に出店しているのも目立ちます。狙いは何でしょうか。

井田 ロードサイド(郊外)とレールサイド(都市部)の話になりますが、確かに従来は秋葉原の本店を中心にレールサイドにフラッグシップ店を展開してきました。しかし最近はロードサイドにも広げています。

 というのも、我々の強みであるゲーミングPCは、ネットワークにつながっていれば日本中どこでも誰でも楽しめるからです。ガレリアを手に取っていただくタッチポイントを、従来よりも多く創出したいのでロードサイドにも新規に出店しているのです。

 さらにゲーミングのみならず、YouTuberやVTuberなど配信を楽しむ人たちも増えています。こちらもネットワークにつなげれば誰でも配信できるので、われわれのハイエンドPCに触れる機会をロードサイドでも増やしていく必要があるのです。PC専門店のポジションや市場環境が従来から大きく変わっています。

――環境の変化は、やはりコロナ禍の巣ごもり需要の影響が大きかったのでしょうか。

井田 確かに社会全体にリモートワークが普及したり、オンライン飲み会なども流行りましたよね。オンラインを通じたコミュニケーションが広がり、YouTuberやVTuberも生まれて、さらにもう一段階上のレベルでは配信時の演出や見せ方の工夫などでも盛り上がっています。その点では、もはやロードサイドやレールサイドの区別はなくなっています。


●テクノロジーで地方を盛り上げる



――昔のPC専門店と比べて随分とイメージが変わりました。郊外でもより顧客の身近な存在になっていると。

井田 お客様の層も広がっています。秋葉原を中心にしたレールサイドの店舗に来られるお客様には、これまで以上に期待に応える店舗にしていかなければいけませんが、これに加えてロードサイドの店舗を増やしていくと、お客様の層が多岐にわたります。そのため地域ならではの特性を踏まえた、これまでとは違った店舗展開も重要になります。

 例えば、静岡東瀬名や佐賀南部バイパスの両店舗では、付近に大学がある立地です。これらの店舗では大学生の方々のニーズにしっかりと応えなければなりません。地域ごとの特性にあわせた店づくりを展開しています。

 また、志の高い自治体では、町内の全世帯に高速インターネットサービスを整備しています。テクノロジーで地方を盛り上げていくスタイルの地方創生は、今後ますます増えていくでしょう。われわれも一緒になって貢献していきたいと考えています。


●「配信専用ブース」を時間貸しするサービスも



――店づくりにおいては、ロードサイドとレールサイドでは異なりますか。

井田 ロードサイドにある店舗によっては、15台以上停められる駐車場があり店舗自体が大きいものもあります。そのような店舗では“体験型”をコンセプトとしており、大きな面積を有しないレールサイドでは実現できないディスプレイやブース展示を行っています。

 群馬県の前橋のインターアカマル店と、長野県の長野稲里店の2店舗では、複数の配信専用ルームを設けて時間貸しサービスを展開しています。配信する方のテンションが上がると、自宅では騒音の問題が心配されますが、防音設備の整った店舗の配信用ルームなら気兼ねなく楽しめます。

 配信ルームの中には机やいす、カメラ、マイクなどを含めたトータルコーディネートを提案しているので、お客様は手ぶらで来店されても楽しめるようにしています。他にも、その地域ならではのきめ細かいニーズを拾いながら、トライ&エラーで改善しています。

――郊外と都市部の境界がなくなるとともに、対象となる顧客層も全方位ですね。販売員に求められるスキルも変わってくるのでしょうか。

井田 ライフスタイルやPCの用途が多岐にわたっているので、今あるテクノロジーをしっかりとお客様にわかりやすく説明するスキルは、以前よりも求められます。

 例えば、以前ならカスタマイズする際にCPUやメモリを理解していればよかったのが、今ではGPUのこだわりも強くなっていますし、ネットワークの知識も必要です。AIが入ってくればNPUをどうすればいいのか、それに対応する電源をどうすればいいのかなどの提案力が求められるでしょうし、SSDやメモリもどんどんと進化しています。


●持ち込み修理や出張修理にも対応



――地方創生では、自治体との連携などはあるのでしょうか。

井田 DX推進、STEM教育が叫ばれる昨今、高校や専門学校、大学と近隣の店舗が連携していきたいですね。まだまったくの構想ですが、学校指定の昔にあった文房具屋さんみたいな存在になれればいいですね。PCやネットワークで困ったことがあれば、ドスパラに聞けば安心だよねという存在です。

 ドスパラでは「デジタルドック」という修理を専門にした窓口を併設している店舗があります。他社製品でも出張修理に訪問したり、店舗への持ち込み修理にも対応するサービスです。京都や山形北、福井日之出、佐賀南部バイパス宇都宮鶴田のドスパラ各店ではデジタルドックが店内にあります。中野サンモールのデジタルドック単独店も含めて合計6店舗で展開しています。

――最後にドスパラで展開している主要ラインアップと位置づけを教えてください。

井田 コンシューマブランドではガレリアが強いので引き続きガレリアは中軸になります。コンシューマはガレリア、法人向けは「raytrek(レイトレック)」というブランドがあり、どちらも外付けグラフィックスを搭載したハイブランドPCという位置づけです。

 一方で社名と同じサードウェーブブランドは、一般PCとしてコンシューマとコマーシャルの両方で展開していきます。こちらは、より幅広い層のお客様に使っていただきたいブランドです。

 これらのブランドを、国内の工場で生産している「国産品」というわれわれのこだわりと合わせて提案していきます。

■Profile

井田 晶也(いだ てるや)

サードウェーブ 取締役 兼 最高執行責任者(COO)副社長執行役員。2006年インテルに入社、14年同社 執行役員。23年サードウェーブに入社、同年 同社 取締役 兼 最高執行責任者(COO)副社長執行役員(現任)
サードウェーブの井田晶也 取締役兼最高執行責任者(COO) 副社長執行役員