現地時間1月23日、第96回アカデミー賞のノミネートが発表。クリストファー・ノーラン監督の最新作『オッペンハイマー』(2024年公開)が、作品賞と監督賞を含む最多13部門にノミネートされた。
【写真を見る】最多ノミネート作の作品賞受賞率は過去20年で35%…『オッペンハイマー』最大の敵はアカデミー賞のジンクス!?
■圧巻の13ノミネート!『オッペンハイマー』は2023年の頂点にのぼりつめるのか
『オッペンハイマー』がノミネートされたのは、作品賞、監督賞、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、助演女優賞(エミリー・ブラント)、脚色賞といった主要部門に加え、撮影賞、編集賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、音響賞、作曲賞の13部門。主演女優賞と歌曲賞ではノミネート対象がなく、視覚効果賞ではショートリスト入りを果たしていないことを踏まえると、ノミネート可能な部門すべてに名を連ねたことになる。
アカデミー賞の最多ノミネート記録は『イヴの総て』(50)と『タイタニック』(97)、『ラ・ラ・ランド』(16)の14ノミネート(『イヴの総て』は12部門、『ラ・ラ・ランド』は13部門)。13ノミネートを獲得した作品はこれまで10作品あり、今回の『オッペンハイマー』で11作品目となる。なお、その10作品のうち5作品が作品賞に輝いており、最近では『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)が作品賞を含む4部門を受賞している。
すでにゴールデン・グローブ賞作品賞(ドラマ部門)をはじめ、数多くの映画賞を席巻している『オッペンハイマー』が、これで文句なしの主役候補に躍りでたことはいうまでもないだろう。しかしながら、最多ノミネートが必ずしも作品賞受賞に直結しないのがアカデミー賞の難しいところである。
先述の『シェイプ・オブ・ウォーター』が受賞して以降、4年連続でその年の最多ノミネート作品が頂点を獲ることができず、昨年は最多10部門11ノミネートの『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(22)が主要部門を総なめと5年ぶりに勝利をもぎ取った。過去20年で見ると、最多ノミネート作品がそのまま作品賞を受賞した例は7回だけ。確率にして35%と、データ的には必ずしも盤石とはいえないようだ。
それでも今年のアカデミー賞は、例年と比較しても波乱が少ないノミネート結果になっている。前哨戦であと一歩及ばなかった候補者が逆転で候補入りを果たしたパターンも多々見受けられるが、目に見えた大きな波乱といえば、『バービー』(23)のグレタ・ガーウィグ監督と主演のマーゴット・ロビーが、それぞれ監督賞と主演女優賞の候補から落選したことぐらいであろう。前哨戦の結果やノミネート数などの強さがそのまま受賞結果につながる可能性は極めて高い。
『オッペンハイマー』に次いで多くの部門でノミネートされたのは、11部門ノミネートの『哀れなるものたち』(1月26日公開)と、10部門ノミネートの『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(23)。いずれも作品賞や監督賞、演技部門に加え技術部門でも大量ノミネートを獲得。過去の作品賞受賞作95本のうち、40本が10ノミネート以上を獲得した作品というデータもある以上、この2作品のどちらかが頂点に立つ可能性もまだ捨てきれない。
とはいえ今回で監督賞候補数の歴代単独2位に躍りでたマーティン・スコセッシ監督は、『ディパーテッド』(06)で受賞経験があるものの、なかなか受賞まで漕ぎ着けないジンクスの持ち主でもある。歴代のアカデミー賞で10部門以上にノミネートされて無冠に終わった作品が6作品あるのだが、そのうち2作品がスコセッシ監督の『ギャング・オブ・ニューヨーク』(01)と『アイリッシュマン』(20)。今年はリリー・グラッドストーンの主演女優賞が有力視されており、無冠に終わる可能性は低いが果たして…。
一方の『哀れなるものたち』のヨルゴス・ランティモス監督も、前作『女王陛下のお気に入り』(18)が9部門10ノミネートながら、受賞は主演女優賞の1部門のみだった経験がある。今回はほとんどの部門の前哨戦で『オッペンハイマー』の後塵を拝しており、現時点で受賞可能性が高いと目されている部門はメイクアップ&ヘアスタイリング賞と、『バービー』が最大のライバルとなる衣装デザイン賞、そして『キラーズ・オブ〜』と一騎打ちムードの主演女優賞だろう。
このまま順当に『オッペンハイマー』が圧勝するのか、それともほかの作品が逆転で2023年の頂点に輝くのか。日本勢からは宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』(公開中)が長編アニメーション賞に、役所広司主演の『PERFECT DAYS』(公開中)が国際長編映画賞に、そして『ゴジラ-1.0』(公開中)が日本映画初の視覚効果賞にノミネートされるなど、ほかの部門からも目が離せない第96回アカデミー賞。授賞式は日本時間3月11日(月)に執り行われる。
<第96回アカデミー賞ノミネート一覧>
●作品賞
『落下の解剖学』(2月23日公開)
『バービー』(公開済)
『The Holdovers』(日本公開未定)
『オッペンハイマー』(2024年公開)
『パスト ライブス/再会』(4月5日公開)
『哀れなるものたち』(1月26日公開)
『関心領域』(5月24日公開)
●監督賞
ジュスティーヌ・トリエ『落下の解剖学』
マーティン・スコセッシ『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
ヨルゴス・ランティモス『哀れなるものたち』
ジョナサン・グレイザー『関心領域』
●主演男優賞
コールマン・ドミンゴ『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』
ポール・ジャマッティ『The Holdovers』
●主演女優賞
アネット・べニング『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』
リリー・グラッドストーン『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
ザンドラ・ヒュラー『落下の解剖学』
エマ・ストーン『哀れなるものたち』
●助演男優賞
スターリング・K・ブラウン『American Fiction』
ロバート・デ・ニーロ『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
ライアン・ゴズリング『バービー』
マーク・ラファロ『哀れなるものたち』
●助演女優賞
アメリカ・フェレーラ『バービー』
ジョディ・フォスター『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』
ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ『The Holdovers』
●長編アニメ映画賞
『君たちはどう生きるか』(公開中)
『マイ・エレメント』(公開済)
『ニモーナ』(Netflixにて配信中)
『ロボット・ドリームズ』(2024年秋公開)
『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(公開済)
●国際長編映画賞
『Io Capitano』(イタリア)
『PERFECT DAYS』(日本)
『雪山の絆』(スペイン)
『The Teacher's Lounge』(ドイツ)
『関心領域』(イギリス)
●脚本賞
『落下の解剖学』
『The Holdovers』
『マエストロ:その音楽と愛と』
『May December』
『パスト ライブス/再会』
●脚色賞
『バービー』
『オッペンハイマー』
『哀れなるものたち』
『関心領域』
●撮影賞
『伯爵』
『マエストロ:その音楽と愛と』
『オッペンハイマー』
『哀れなるものたち』
●編集賞
『落下の解剖学』
『The Holdovers』
『オッペンハイマー』
『哀れなるものたち』
●美術賞
『バービー』
『ナポレオン』
『オッペンハイマー』
『哀れなるものたち』
●衣装デザイン賞
『バービー』
『ナポレオン』
『オッペンハイマー』
『哀れなるものたち』
●メイクアップ&ヘアスタイリング賞
『Golda』
『マエストロ:その音楽と愛と』
『オッペンハイマー』
『哀れなるものたち』
『雪山の絆』
●視覚効果賞
『ザ・クリエイター/創造者』
『ゴジラ-1.0』
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME3』
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
『ナポレオン』
●音響賞
『ザ・クリエイター/創造者』
『マエストロ:その音楽と愛と』
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
『オッペンハイマー』
『関心領域』
●作曲賞
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』
『オッペンハイマー』
『哀れなるものたち』
●歌曲賞
「The Fire Inside」『フレーミングホット! チートス物語』
「I'm Just Ken」『バービー』
「It Never Went Away」『ジョン・バティステ アメリカン・シンフォニー』
「Wahzhazhe(A Song for my People)」『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
「What was I Made For」『バービー』
●長編ドキュメンタリー賞
『Bobi Wine: The People's President』
『Four Daughters』
『To Kill a Tiger』
『20 Days in Mariupol』
●短編ドキュメンタリー賞
『The ABCs of Book Banning』
『The Last Repair Shop』
『Nai Nai & Wai Po』
●短編映画賞
『The After』
『Invincible』
『Knight of Fortune』
『Red, White and Blue』
●短編アニメ映画賞
『Letter to a Pig』
『Our Uniform』
『Pachyderme』
『War is Over! Inspired by the Music of John & Yoko』
文/久保田 和馬
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