文=酒井政人

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16校を復路一斉スタートにした王者・青学大

 記念すべき第100回大会となった箱根駅伝。とにかく青学大が強かった。なかでも圧巻だったのが2区黒田朝日(2年)と3区太田蒼生(3年)だろう。

 黒田はエース区間で7人抜きを披露。日本人歴代2位の1時間06分07秒で走破して区間賞に輝いた。太田は22秒先にスタートした駒大・佐藤圭汰(2年)を猛追。7.6㎞付近で追いつくと、10㎞を27分26秒で通過する。そして終盤に引き離した。10000mで日本人現役学生最高の27分28秒50を持つ佐藤にスピード区間で完勝。3区の日本人最高記録を1分08秒も塗り替える59分47秒で突っ走った。

 太田の記録はハーフマラソンに換算すると58分56秒ほど。3区は下り坂基調のコースとはいえ日本記録(1時間00分00秒)を大きく上回る。それから5区若林宏樹(3年)も1時間09分32秒の区間新記録(区間2位)で山を駆け上がり、往路記録を3分以上も短縮した。

 速すぎる青学大の余波を受けて、復路は16校が「一斉スタート」となった。これは過去5年間(4~9チーム)と比べて、突出して多い。

 タイム差を考えると3区と5区が大きかった。太田に2分以上の差をつられたのは20校、3分以上は16校、4分以上は10校。若林に2分以上の差をつけられたのは20校、3分以上は16校、4分以上は8校もあったのだ。

 青学大は復路も快調だった。5人全員が区間3位以内で、2人が区間賞を獲得。大会新記録となる10時間41分25秒でフィニッシュして、2年連続の駅伝3冠を目指した駒大に6分35秒もの大差をつけた。

 そして3位には城西大が入り、過去最高順位(6位)を大きく更新した。「山の妖精」と呼ばれた5区山本唯翔(4年)が自身の持つ区間記録(1時間10分04秒)を大幅短縮する1時間09分14秒をマーク。往路を3位で折り返すと、復路も順位を落とすことなく、歓喜のゴールに飛び込んだ。

 

有力チームに体調不良者が続出

 今大会は上位候補だったチームに〝体調不良者〟が続出したのも印象に残っている。

 完勝した青学大は11月下旬から12月初旬にインフルエンザの集団感染があった。2区で区間賞を獲得した黒田は12月中旬まで調子が上がらなかったという。原晋監督は「12月前半から中盤にかけて、箱根で優勝なんかできない。それほど悪いチーム状況でした」と振り返った。

 全日本大学駅伝3位の國學院大(今大会は5位)もインフルエンザにチーム力を削られた。12月10日に集団感染して、主力選手がジョグを始めたのは12月15日。前田康弘監督は一時期、「シード落ち」も覚悟したという。

 そして前回2位の中大(今大会は13位)は12月23日以降に発熱する選手が続出。エントリー選手では、湯浅仁(4年)と吉居駿恭(2年)以外の14人が体調不良になった。なかでも8区阿部陽樹(3年)は元日に発熱。藤原正和駅伝監督が「棄権」を考えたほど深刻な状況だった。

 体調不良者続出のタイミングが本番に近いほど、もろに影響を受けている。この時期がズレていたら、箱根駅伝の結果はまったく違うものになっていただろう。

第101回大会はどうなる!?

 青学大は往路Vメンバー4人が残ることを考えると、第101回大会も往路は超高速レースになるだろう。復路も6区野村昭夢(3年)が区間2位、8区塩出翔太(2年)が区間賞、10区宇田川瞬矢(2年)が区間2位。それから新入生にも有力選手が多く、箱根駅伝に関してはダントツのV候補になる。

 駒大は1区で区間賞を獲得した篠原倖太朗(3年)が新主将に就任。「往路は自分たちがやるべきことはできたと思うんですけど、それより青学大がはるかに強かった。世界を目指すという姿勢はブラさずに、箱根でリベンジしたい」と王座奪還に燃えている。篠原は2区を希望しており、佐藤も今回の悔しさを大きなエネルギーに変えるだろう。篠原と佐藤が入る区間で青学大に〝完勝〟できれば、レースの行方はわからなくなる。

 城西大は斎藤将也とヴィクター・キムタイの2年生コンビが充実しており、彼らが最上級生を迎えたときに、総合優勝を狙えるチャンスがめぐってくるかもしれない。

 東洋大全日本大学駅伝のワースト14位から4位に急上昇して、19年連続シードを確保。自信を取り戻しただけに、再び、トップスリーを目指していく。

 今回5位の國學院大は出走者9人が残るだけでなく、ハーフマラソンで日本人学生歴代4位のタイムを持つ山本歩夢(3年)がいる。山にも自信を持っていただけに、2区平林清澄(3年)で青学大に先行するかたちになれば、王者と競り合うことができるだろう。

 早大は2区山口智規(2年)が区間4位、5区工藤慎作(1年)が区間6位と好走したのが大きい。今回はエース格の伊藤大志(3年)が欠場しており、第101回大会では上位進出が期待できる。

 創価大は注目された5区吉田響(3年)が冷雨に苦しんだ一方で、6区川上翔太(1年)が区間3位と快走した。吉田が「山の神」と呼ばれるような大活躍を見せれば、トップスリー争いに加わるはずだ。

 今回は記念大会のため23校が出場したが、第101回大会では通常の20校に戻る可能性が高い。秋の予選会から大混戦になるだろう。卒業する4年生たちの〝魂〟を引き継ぎ、新たな物語が始まった。

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