ミッドナイトスワン』(20)の内田英治監督が、自らオリジナル脚本を手掛け、久石譲が楽曲を書き下ろした映画『サイレントラブ』(1月26日公開)。過去のある出来事をきっかけに声を発するのをやめた青年、蒼(山田涼介)が、事故で目が不自由になったピアニスト志望の音大生、美夏(浜辺美波)と出会い、彼女の夢を叶えてあげることに希望を見出していく姿を描きだす。そんな本作で蒼と美夏に扮して初共演を果たした山田と浜辺が、特殊な芝居を求められた撮影現場のエピソードやお互いの印象を語った。

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■「キラキラしている山田さんが、頑張ってそのキラキラを消していたのが印象に残っています」(浜辺)

――本作は山田さんにとって初めての恋愛映画でしたが、台本を最初に読まれた時の感想から教えてください。

山田涼介(以下、山田)「まず最初に思ったのは、俺、これをどうやって演じればいいの?ってことでした(笑)。蒼の目線で読んでいったんですが、蒼の名前は台本に出てきてもセリフが一切ないので、大変そうだなあと思って。作品の意図はわりとストレートに入ってきたものの、このラブストーリーをみなさまにエンタメとして届けるにはどうしたらいいんだろう、ということも考えました。浜辺さんがどういう動きをするのか、どういう芝居をされるんだろうとか、相手役のことをこんなにたくさん想像したのも初めての経験だったかもしれないです」

浜辺美波(以下、浜辺)「私は苦しい物語だなと思いました。『この映画に出演します』とお返事をさせていただいてから、心の中に重たいものが一個あるみたいな感じでした。運命に翻弄されて、過酷な状況に巻き込まれていく展開だったので、覚悟が決まるまでは、すごく気が重かったですね」

――言葉を発することをやめた蒼と視力を失った美夏に、どのように臨まれました?

山田「蒼は壮絶な過去と様々な十字架を背負いながら生きてきた、とても寂しい人だなという印象が僕の中にはあったので、最初はそのイメージで臨みました。そんな彼の人生観が美夏と出会って変わっていくのですが」

浜辺「映画は、美夏が事故で視力を失いかけている状態から始まりますが、その前から彼女はピアニストになることしか考えておらず、不器用な人だと思いました。友だちや家族に対する態度を見ても、すごく悩んでいるのが伝わってきましたし、バランスが取れていない印象があったので、なにかを貫くヒロインというよりは、年相応にアンバランスなところがある女性だなと思いながら演じました」

――お互いに、お相手の素の印象と役柄とのギャップはありましたか?

山田「浜辺さんは、撮影中はずっと美夏として現場にいてくれたので、役とご本人が乖離しているなと思うことはまったくなかったですね」

浜辺「ステージやテレビ番組ではキラキラしている山田さんが、メイクさんと一緒に顔を黒く汚したり、髭を伸ばしたりしながら、頑張ってそのキラキラを消していたのが印象に残っています。撮影が終わってメイクを落とした時に、『顔、白!』と思って驚きました(笑)」

――現場では、お互いにどんな風に接していたんでしょうか。

山田「いや、ほとんど喋っていないですね。意識して距離をとっていたわけではなくて、自然とそうなっていった感じです。内田監督からなにか指示があった場合は、『ここをああする、こうする』っていう会話はもちろんあったけれど、本当にそれぐらいだったような気がします」

浜辺「現場も静かな場所を選んでくださっていたので、相手の話を聞くシーンなどの撮影の時も、同じ方向を向いてただ座っていることが多くて。監督とも要所要所で話すぐらいでした」

山田「本当に静かなラブストーリーなので、現場も活気あふれる、という感じではなくて。僕は少し年上ですけど、浜辺さんぐらいの年齢の方たちが集まるともう少しワチャワチャすると思うんですが、ずっと声量を上げない静かなトーンで撮影は進んでいきましたね。蒼の親友の圭介を演じた(吉村)界人たちと話すシーンでもそこは変わらなかった(笑)。熱くなって、ぶつかり合うシーンも『お互いに本気で』ってひと言だけ言って、端的に終わらせていた印象があります」

■「距離を徐々に徐々に詰めていくプロセスは自分の中で大切にしていたと思います」(山田)

――蒼と美夏、2人の距離が縮まっていくところは、どんなことを意識して演じられました?

山田「内田監督のオーダーの仕方がすごく独特だったんですよ。前半のシーンの撮影では『死んだ魚のような目で世界を見てくれ』ってずっと言われ続けていたし、『目の奥10センチで美夏を見て欲しい』みたいなことも言われて。だから、最初は『どういうことなんだろう?』という戸惑いもありました。でも、物語を辿っていくうちに、なんとなくわかってきたので、その都度理解しながら演じていました」

――「目の奥10センチで見る」というオーダーをどう受けとめられたんでしょうか。

山田「グラデーションをつけていく感じで、『美夏を見る時だけは、ほかの物を見る時と違う目をしていてほしい』ということなんだろうなと思いました。最初から、そう言ってくれればわかりやすいんですけどね(笑)」

――美夏に対する蒼の想いが高まっていくのを、言葉が使えない状況で、どのように表現しようと思いました?

山田「過去のある出来事のせいで『自分の手が汚れている』って思いながら生きている蒼は、綺麗なものに触れられない、汚したくないという想いが強かったんじゃないかなと思ったんです。それで『自分の手を服で拭いてから、美夏の手に触れた方がいいんじゃないですか?』って現場で監督に提案させていただいたんですけど、そんな感じで『こっちのほうがいいと思います』みたいな話し合いをすることは多かったし、距離を徐々に徐々に詰めていくプロセスは自分の中で大切にしていたと思います」

浜辺「美夏は最初から目が見えないわけではなくて、事故で不自由になってしまった女性です。そこが、ハンディを抱えた人を描くほかの作品とは違う本作の特色だと思いましたし、先程の話とも重複しますが、そんな彼女の悔しさやピアニストになる夢を諦めきれない葛藤、心の整理がまだついてない状況をまずは大切にしたいと思いました。それを踏まえたうえで、美夏がどれぐらい人を感じるのか、受け入れるのかといったことを監督と相談しながら調整していきました」

■「セリフがある作品より台本を読んだような気がする」(山田)

――いまの話の続きになりますが、言葉に頼れない、見て反応できない、制限された表現をするうえで心掛けたことや工夫したことがあれば教えてください

山田「蒼は目が不自由な美夏のボディガードを勝手に始めることになるのですが、その時の様子が怖い人やストーカーに見えたら嫌だなっていうのはありましたね(笑)。だからそこは、監督と現場ですごく慎重にギリギリのラインをねらっていきました」

――具体的にはどうしたのでしょうか。

山田「キャラクターを明確にしたほうがいいと思ったし、勝手にやっているんですけど(笑)、その行為が愛おしく見えたほうがいいなと思ったんです。なので、さっき話した手を拭く行為などを丁寧に入れながら、不器用なりに、彼が『この子を守りたい』という想いで一生懸命やっているのが伝わるように心掛けました」

――演じながら、ここで言葉を発することができたら楽なのになって思うことはありましたか?

山田「それは毎日です(笑)」

浜辺「そうですよね(笑)」

山田「それこそ逆に、セリフを覚える必要がないから楽なのではと思う人がいるかもしれないけど、セリフがある作品より台本を読んだような気がする。『ここってどういう感情なんだろう』っていう芯の部分まで台本から読み取らないと表情に出せないから、台本をいつも読んでいたなという印象がありますね」

浜辺「私の場合は、どちらかと言うと目に頼らない分、天気とか風向きとか、その日の空気をなるべく感じることに集中していました。台本は読んでいても、蒼さんの動きは現場でどんどん変わるので、山田さんの体温を感じながら、それを逃さないようにしていました」

――実際には目が見えている状態で、視力を失っているお芝居をするのは難しかったのではないでしょうか。

浜辺「最初は慣れなかったです。あまりキョロキョロすると不自然に見えるし、美夏は目が見えないことを知られたくないし、心配されたくもない。違和感をあまり出したくないと思っているような少女だったので、なるべく1点を見つめるようにしていました。ただ、自然の中で撮影することも多かったので、虫には悩まされました。目の前に飛んできても見ちゃいけないし、あれは大変でした(笑)」

■「内田監督にすべてを委ねて受け入れようと思っていたので、すべてが新鮮でした」(浜辺)

――現場にはラブストーリーを撮っているという空気も流れていたんですか?

山田「内田監督は、ラブストーリーを撮っているテンションで話してこなくて。どちらかと言うと、『この光が2人を照らしているから、こういう気持ちになって』と言われることが多かったですね」

浜辺「そうそうそう。そうかもしれない(笑)」

山田「『ここがキュンキュンポイントだから、よろしく!』みたいなのはないよね?」

浜辺「“キュンキュン”というワードは聞いてないかも(笑)」

山田「言わないし、多分監督は“キュンキュン”なんて知らないよ(笑)」

浜辺「確かに、知らないかもしれません(笑)。私はいつもと違って、あえて内田監督のことや過去作の下調べをせずに、フラットな状態で現場に入って、監督にすべてを委ねて、言われたことを受け入れてやろうと思っていたので、すべてが新鮮でした。『台本があるようでないような、こんな感じなんだ』という発見もあって。どんな作品になるのかもわからなかったので、そこもおもしろかったです」

――過去のインタビューを読むと、内田監督は結構アドリブを入れたり、役者が覚えてきたことをそのまま使わずに、現場で芝居を変えることもあるみたいですね。

山田「意地悪ですね(笑)」

――その人の内側から出てくるものを見たくて、そういう演出をするらしいんですが。

山田「今回の現場でも、言葉が合っているかわからないけれど、とあるシーンで浜辺さんが追い込まれてしまった瞬間がありましたね。僕から見たら全然OKなお芝居だったんですけど、監督がなかなかOKを出さなくて」

浜辺「美夏が衝撃的な行動をとる撮影の時のことですが、あそこにいたる彼女の精神的心理がなかなかつかめなくて」

山田「監督が言いたいこともわかるけれど、浜辺さんには浜辺さんのビジョンがあるし、僕はそれがぶつかり合うのは全然悪いことじゃないと思っていて。逆に、それができるすごくいい現場だなって思いながら、達観してました(笑)」

浜辺「私も初めて、現場で自分の心の整理をつけるためのお時間をいただいたのですが、それに時間がかかってしまったので、どちらかと言うと、『申しわけないな』という気持ちのほうが強くて。撮影が終了したのが深夜の3時ぐらいだったので、その日の朝6時から別の仕事が入っていた山田さんに迷惑がかかってしまうと思っていました(笑)」

山田「あっ、俺の心配?(笑)」

浜辺「もちろん現場にも迷惑をかけてしまったので、『うわあ、どこから謝ったらいいんだろう?』と思って(笑)」

山田「俺は全然大丈夫でしたよ!」

■「内田作品の重厚感と、ラブストーリーに重きを置いたライトな要素を融合させた“いいとこ取り”の作品」(山田)

――山田さんは格闘技のシーンが、浜辺さんも実際にピアノを弾くシーンがありましたが、かなり練習されたのでしょうか。

山田「そんなに長い期間ではないけれど、僕はMMA(総合格闘技)の先生のところに通いました。殺陣(たて)とかはやったことがあるし、身体が利くほうだとは思うんですよ。でも、格闘技はやったことがなかったので、決められた動きだけを必死に練習しました。難しかったですね。でも、僕より浜辺さんのピアノのほうが絶対に大変だったと思うな」

浜辺「いやいや(笑)。でも、私も同じように、ピアノの先生のところに通いました。同じ日にだいたい練習に来ていた(美夏が通う音楽大学の非常勤講師である北村悠真役の)野村周平さんと競い合うようにお互い頑張って練習をしました。野村さんのほうが曲数が多いので大変だったみたいです。私も中学生の時にフルートはやっていたのですが、ピアノはやったことがなかったので、ピアノを買って家でも練習しました

――完成した作品をご覧になって、どんな感想を持たれましたか?

浜辺「想像していたものよりも、静かで美しい映像だったので驚きました。あとは、私が美夏になって翻弄されていたものがそのまま映っていたので、渦に揉まれて、頭がぐちゃぐちゃになりました(笑)」

山田「内田監督の作品はわりと重厚感のあるものが多いという印象だったので、撮影に入る前は、そんな監督がラブストーリーを撮ったらどういうものができあがるんだろう?という興味があったんです。そうしたら、内田作品の重厚感とラブストーリーに重きを置いたライトな要素を融合させた“いいとこ取り”の作品になっていて。久石さんの音楽もすばらしいので、僕が勝手に言うのもおこがましいですが、内田監督にとっても新境地の映画になったような気がしました」

取材・文/イソガイマサト

『サイレントラブ』で初共演を果たした山田涼介と浜辺美波にインタビュー/撮影/You Ishii スタイリング/野友健二(UM)(山田涼介)、瀬川結美子(浜辺美波) ヘアメイク/二宮紀代子(山田涼介)、George(浜辺美波)