小説版 ゴジラ-1.0
『小説版 ゴジラ-1.0』(山崎貴/集英社

 1954年に第1作が世に放たれた『ゴジラ』、その70周年記念作品となる『ゴジラ-1.0』が11月3日より劇場公開(この公開日は第1作と同じ)。監督・脚本・VFXを『永遠の0』や『海賊と呼ばれた男』の山崎貴が手掛け、終戦間際の1945年から1950年代を舞台に、新たなる物語を生み出した。

 ハリウッド映画化もされ、長い歴史を誇る「ゴジラ」シリーズだが、近年でゴジラ映画といえば真っ先に思い出すのはやはり「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの庵野秀明総監督と樋口真嗣監督による2016年の映画『シン・ゴジラ』であろう。現代日本を舞台に、米国との関係や諸々の社会情勢を盛り込みつつ“核”の恐怖を描いた同作は、興行収入82億円超の大ヒットを記録した。

 対して『ゴジラ-1.0』は、ゴジラがいかにして“恐怖の象徴”となったのか――原点のさらに“前”を描くエピソードゼロ(いや、マイナスか)の要素もはらみつつ、「戦争」というテーマを掘り下げている。

 そもそもゴジラは、1946年に始まったビキニ環礁における一連の水爆実験に着想を得ている。核実験により、太古の眠りから目を覚ました怪獣が東京を蹂躙する物語なのだが、『ゴジラ-1.0』はそちらを踏襲しつつも、「水爆実験によって放射能を帯びる体質になる」前のゴジラが登場。戦時中に特攻隊員や整備兵の前に姿を現すも、日本政府によりその事実は隠蔽。その後、焼け野原から復興を遂げた日本に再び現れる――といったストーリーが敷かれている。しかもさながら“巨大な核兵器”と化して……。戦争の傷跡が癒えていない状態の人々に恐怖をフラッシュバックさせる、つまり「0」に立ち戻った日本を「-1.0」に引きずり込むのだ。

 こうした時代とのリンクは、設定から物語、キャラクターの心情に及ぶまで『ゴジラ-1.0』の屋台骨として機能している。例えば、現代を舞台にした『シン・ゴジラ』では自衛隊の活躍や米軍から武器を借りる等々の描写が描かれたが、本作では武装解除されていることもあり、日本政府はゴジラ出現を黙殺。米国はソ連との緊張が高まっており(冷戦状態)、事を荒立てたくないためGHQ側からの協力はなし。仕方なく戦争帰りのいまや民間人が立ち上がるしかなくなる。せっかく生きて帰ったのに、再び命を賭して戦わなければならない理不尽と「戦時中ではないのだから、選択権は自分にある。どうする?」という葛藤――。

 山崎貴監督といえば、「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズで昭和を描き(ゴジラも登場)、西武園ゆうえんちのアトラクション「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」の監修を務めた人物。先に挙げた『永遠の0』『海賊と呼ばれた男』や『アルキメデスの大戦』等、戦中・戦後を舞台にした大作を多数手がけてきた彼の手腕がいかんなく発揮され、ゴジラ×反戦映画のカラーとメッセージが強く乗った一本に仕上がった。パニック映画としてのスペクタクルや、エンタメ映画としての胸を熱くさせる物語など、不文律はきっちりと押さえたうえで、銀座にゴジラが上陸して熱線を吐き、街も人も一瞬で消し飛び、黒い雨が降り注ぐシーン等々、胸をえぐられるシーンを真摯に盛り込んでいる。

 そうした本作ならではの精神を一身に背負ったのが、主人公の敷島浩一(神木隆之介)。特攻隊員でありながら死にたくない彼は、「特攻機が故障した」と嘘をついて大戸島ゴジラファンおなじみのスポット)で修理を受けることに。その地でゴジラに遭遇するも、恐怖で攻撃できずに多くの整備兵を死なせてしまう。その悔恨から「今度こそは」とゴジラに挑むのだが、「生きたい」渇望と「死にたくない」恐怖はなかなか克服できず……。毎日のように悪夢にうなされ、何度も身を焼かれるような絶望を味わいながら「俺の戦争が終わってない」と絞りだす悲劇の主人公像には、戦争被爆国である日本の姿勢を強く感じさせる。

 もちろん先に述べたように、娯楽映画としての見ごたえは十二分。感動が幾重にも積み上げられていき、クライマックスで結実する筋運びは華麗で、俳優陣の熱量も高い。社会性との両立を見事に果たしたメイド・イン・ジャパンの新たなる『ゴジラ』、その在り方含めて楽しんでいただきたい。

文=SYO

ゴジラ−1.0』

焦土と化した日本に、突如現れたゴジラ
残された名もなき人々に、生きて抗う術はあるのか。
ゴジラ七〇周年記念作品となる本作『ゴジラ−1.0』で監督・脚本・VFXを務めるのは、山崎貴
絶望の象徴が、いま令和に甦る。

キャスト
神木隆之介 浜辺美波
山田裕貴 青木崇高
吉岡秀隆 安藤サクラ 佐々木蔵之介

監督・脚本・VFX
山崎 貴


全国東宝系にて公開中

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