こちらに過失はなくとも事故自体に巻き込まれたくない……タクシーやバス運転士が心掛ける「防衛運転」とは

この記事をまとめると

■バスやタクシーの職業ドライバーたちは「防衛運転」を心がけることがある

■事故を起こした際の過失割合が厳しいことから「当たり屋」のような行為も後を絶たない

■何が起こるかわからないからこそ可能な限りトラブルを避ける運転意識は必要になってきている

タクシーやバスは事故の際に厳しい目で見られることが多い

 夕方のテレビニュースなどではよく、マイカーに装着したドライブレコーダーのデータを視聴者が提供した「煽り運転」の映像を紹介することがある。煽り運転に起因した悲しい事故(というか事件?)もあり、煽り運転という行為は決して許されるべきものではない。そうは言っても、よく「煽られる側にも……」といった話も出てくるが、理由はどうあれ公道上で相手方だけではなく周囲の車両や歩行者なども巻き込んだ事故にも発展することも十分あるのだから繰り返すが絶対あってはならない。

 バスやタクシーと言ったプロドライバーの世界では「防衛運転」というものが取りざたされることがある。バスよりもタクシーになるのだが、タクシー会社の看板を背負い、二種免許を持つプロの運転士が運転するので、ひとたび相手のいる事故を起こすと警察の過失割合の判断も「プロドライバー」ということで厳しくなることが多い。そんなことを知ってか知らずか、タクシーをターゲットにした、いわゆる「当たり屋」行為も後を絶たない。最近でこそドライブレコーダーの装着が当たり前となり、客観的証拠に基づいた事故処理が行われるようになり減少傾向にはあるようだが……。

タクシー運転手の運転風景

 たとえば聞いた話では、一時停止を無視して信号のない交差点に猛スピードで進入してきた女子高校生とタクシーが衝突した事故では、当初は「タクシーが悪い」という女子高校生の証言が優先され、タクシーにほぼ全面的に非があるような判断になりかけたのだが、ドライブレコーダーの映像とともに、映像に基づき自転車交差点進入速度を算出するなどして証拠として提出すると、過失割合が大幅に減ったといったこともあったようだ。

 また駅のロータリーで客待ちしていると、原動機付き自転車が単独で転んでタクシーの前で停まったそうだ。すると、駅前交番の警察官が出てきて「タクシーが悪い」と言い出したそうだ。また、ドライブレコーダーのないころは、交差点で左折する際に横断歩行者の通過を待っていると、タクシーの前で転んで「タクシーが発進しようとしたから(つまり車両は接触していない)その勢いで転んだ」として人身事故になることもあったそうだ(いまはドライブレコーダーがあるので客観的な確認ができるようになった)。

タクシー乗り場のイメージ

 相手に悪意があって、しかもタクシーを狙い撃ちにしているのだが、ひとたび「事故扱い」となれば、相手が歩行者自転車となれば四輪車でもあるタクシーにはなんらかのペナルティがついてしまう。そこで相手に悪意があったり交通ルールを守ろうという意識が極めて希薄な場合には、そのような行為に対して自己防衛するための運転を心がけるというのが、「防衛運転」となる。

たとえばこちらが優先でも相手が止まらない可能性を考慮

 たとえば、信号のない交差点で相手方のほうに一時停止義務があるとする。たまたま交差点で出合い頭になりそうだというシチュエーションとなると、「こっちが優先」というのは確かなのだが、相手がしっかり一時停止するかを見極めることも防衛運転ということになる。「相手が一時停止を無視して交差点に進入してくるかもしれない」と思いながら運転するだけでも、何も意識しない時とは心構えがあるだけ事故回避の可能性がより高まってくるともいえよう。

信号のない交差点のイメージ

 そして様子を見て「このクルマは一時停止を無視しそうだ」と思ったら、相手を先に行かせるように減速するなどして事故回避を心がけるというのも、いまの状況で身を守るという観点でみると一考すべきかと思う。

 煽り運転は相手方の勝手な思い込みなど、煽り運転を「される側」はその理由がわからない(それが理由とは思えなかった)のが一般的なように見える。ただ、バックミラーなども駆使して、自分のクルマの周囲で違和感を覚えるような運転をしているクルマが走っていれば警戒するというのも「防衛運転」といえるだろう(なんとなく雰囲気で「これは」とわかることも多い)。

煽り運転のイメージ

 多様性が叫ばれる世の中、その傾向は何も良いことばかりではない。可能な限り事故を防ぐために法令順守はともかく、マナー、モラルというものを重んじてクルマを運転するのだが、法令順守ひとつとっても、その受け止め方には個人差が出ているのが現状(だからこそ平気で飲酒運転する人もいる)。

 アメリカでは「午後9時過ぎは道を走るクルマのかなりの数は飲酒運転状態だから気をつけろ」と言われたことがある。もちろん日本とは異なり、一定量まで飲酒しても運転して構わないのだが、事故発生リスクが高まっていると自覚して運転しろと警告してくれたのである。これも防衛運転のひとつと考えていいだろう。あくまで都市伝説だが、治安の悪い地域では意図的にクルマをぶつけてきて停車させ、相手方がクルマから降りたところで強盗をはたらくこともあるとのこと。そのためぶつけられても治安のいい場所まで停まらずに逃げないと、実際強盗の被害にあっても警察の対応が冷たいこともあるとの話も聞いたことがあるが、これはまた特殊な一例といえるだろう。

夜間のアメリカの風景

 悪を黙認しろとはいわない。しかし、善悪を優先したばかりにいらぬトラブルに遭うのならば、そして「このままではトラブルが発生しそうだ」と判断できた時は、許容できる範囲でそのトラブルを回避する「防衛運転」を心がけるのも、いまの交通環境を考えると全否定すべきものでもないと考える。

こちらに過失はなくとも事故自体に巻き込まれたくない……タクシーやバス運転士が心掛ける「防衛運転」とは