九州の東に位置する大分県は温泉の源泉数、湧出量ともに日本一。別府や湯布院をはじめ数々の人気温泉地を有し、「おんせん県」の愛称でも知られている。だが、楽しみはそれだけではない。新名所や体験スポット、グルメなど魅力がいっぱい。湯布院や別府はもちろん、大分県の見どころを編集部員が体験してきた!

【写真】由布院駅。駅標がレトロな雰囲気

■豊かな自然に囲まれた町「湯布院」には注目スポットがめじろ押し

■ホームに足湯!改札がない?ユニークな由布院駅

JR九州久大本線の「由布院駅」が湯布院の玄関口。ホームからも由布岳の雄大な姿が眺められ、旅気分を盛り上げる。注目は1番ホームの足湯(200円)。駅のホームに足湯があるのはとても珍しいそう。旅の疲れを癒やして、これからの観光に備えよう。

建築家・磯崎新が設計した駅舎は、黒で統一されたシックな空間。高さ12メートルの開放感あるロビーが出迎えてくれる。そして駅の正面には、湯布院の象徴と言える由布岳がそびえたつ。

もうひとつ訪れたいのが、駅の隣にある由布市ツーリストインフォメーションセンター「YUFUiNFO(ゆふいんふぉ)」。観光情報の入手や辻馬車やレンタサイクルの申し込みなどといったサービスを受けられるだけでなく、ちょっとした休憩にもおすすめ。2階やテラス席からは由布岳が望め、旅に関する書籍などを閲覧するのもOK。建築家・坂茂設計の建物は、木をふんだんに使用したアーチ柱の連続が個性的で、見るだけでも価値ありだ。

由布岳に寄り添う現代アートCOMICO ART MUSEUM YUFUIN」

由布院駅から徒歩約15分。のどかな風景の中に現れるのが、日本の現代アーティストの作品を集めた「COMICO ART MUSEUM YUFUIN」。建築家隈研吾設計の建物で、焼杉を使った黒い外壁は木の温かみが感じられる。

展示作品を最大限に生かすよう設計された展示室には草間彌生や村上隆らのアートが並ぶ。アーティストの力やエネルギー、思考まで感じさせるような作品群に思わず見入ってしまう。屋外展示には奈良美智らの立体作品が。由布岳と作品の調和も見もの。

■朝霧が幻想的な金鱗湖

今回の大分訪問で、一番印象的だったのがこの「金鱗湖」。池底から清水が湧出するとともに、周辺からもきれいな水が流れ込み、1日2回ほど湖の水が丸ごと入れ替わるといわれる、透明度の高い湖だ。

特に見頃は冬の早朝で、湖面に朝霧が立ち上りとても幻想的。訪れた日は気候条件がよく、朝霧におおわれた湖面に朝日が差し込み、神々しささえ感じるほどだ。この朝霧は湖水と外気の温度差によって生じるもので、温泉の湯が流れ込む湖だから起こりうる現象。朝霧の発生は天候や気候条件に左右されるが、少しがんばって早起きすればこの時期しか見られない、美しい風景に出会える。

湖の周囲は遊歩道が整備されていて、10分ほどで1周できる。歩を進めるごとに表情を変える湖の絶景は必見。初夏の新緑や秋の紅葉の季節も違った表情が見られるので、ぜひ訪れてほしい。

■風情豊かな街並みをそぞろ歩き「湯の坪街道」

由布院駅から約10分。土産店やギャラリー、飲食店などが軒を連ねるのが「湯の坪街道」。由布岳に調和した景観を作るため、景観条例に基づいて建物の高さを抑え、色合いも抑えた町並みが一体感を醸し出し、情緒満点。

店舗は地元の醤油を売る店から大分名物の唐揚げ、プリンなどのスイーツ、木工細工のギャラリーまで多種多様。のんびり歩くのが楽しい。

■由布院おすすめグルメ「山家料理 湯の岳庵」

今回のランチは「湯布院御三家」と言われる高級旅館「亀の井別荘」の敷地内にあり、金鱗湖にも近い「山家料理 湯の岳庵」で。2023年11月にリニューアルしたばかりのお店は、歴史を感じさせる店構えにモダンな内装で落ち着いたたたずまい。

メニューはバラエティ豊かで、季節のメニューが多彩に並ぶ湯の岳膳(3000円)やおおいた和牛と九州産黒毛和牛を贅沢に使った炭火焼きビフテキ丼(3630円)、冠地鶏焼膳(2970円)など3000~5000円の価格帯でランチが食べられる。そのほか、地元産のシイタケを使った炭火あぶり椎茸(数量限定・1430円)や鯉の洗い(770円)、すっぽん唐揚げ(2970円)といった一品料理も豊富。地ビールやワインなどもそろう。敷地内には「バー山猫」や「茶房 天井桟敷」「西国土産 鍵屋」などもあり、ゆっくり時間をとって滞在したいスポットだ。

■おすすめ土産「theomurata CHOCOLATIER」

こちらも湯布院御三家に数えられる旅館「山荘 無量塔」のセレクトショップ「theomurata(テオムラタ) CHOCOLATIER」は地元大分の素材や良質のクーベルチュールチョコレートを使った手作りショコラを販売。新しい由布院土産として注目を浴びている。

ヘーゼルナッツショコラやマカダミアショコラ、カボスショコラなど、13種類がそろうビーンズショコラ(各850円)は筒形のパッケージもカラフルで、自分用にも買いたくなる。本当は全種類買いたかったが、ぐっとこらえて今回はヘーゼルナッツショコラとマカダミアショコラの2種を購入した。

そのほか玉露や碾茶などを使った茶葉ショコラやマカロンといった菓子も。茶葉ショコラ(3種・各1620円)の容器は茶道で使う棗(なつめ)のような形でこちらもかわいい。さらに店内には、柚子胡椒や粒マスタードといった調味料、器や箸などもそろう。

■体験に、グルメに。大分でしか出会えないものがいっぱい!

湯布院以外にも訪れたいスポットの多い大分県。国宝からグルメ、工芸体験などここでしか出会えないものがいっぱいある。

江戸時代の焼物をモダンに復興「臼杵焼(うすきやき)」(臼杵市)

キリシタン大名・大友宗麟が築城した丹生島城(臼杵城)の城下町・臼杵。城下町とともに名高いのが国宝の磨崖仏・臼杵石仏だ。全61体が国宝という大規模な石仏群で、現地に行かなければ観られない貴重なものだ。

石仏拝観ルートの入り口近くにあるのが、今回訪れた「うすき皿山」。臼杵焼の見学や体験ができるアトリエと臼杵焼を展示販売するギャラリー、喫茶室、焼き菓子工房が併設されている。

臼杵焼は約200年前の江戸時代後期、今の臼杵市末広地区にあった臼杵藩の御用窯で焼かれていた末広(皿山)焼がルーツ。この窯はわずか十数年栄えたのち、衰退してしまった。

それから時を経た2015年、わずかに残った資料を基にUSUKIYAKI研究所代表の宇佐美裕之さんが大分で作陶をしていた薬師寺和夫さんとともに再興プロジェクトを立ち上げた。現在作られている臼杵焼は末広(皿山)焼をアレンジし、現代の生活に合わせた器。かつて栄えた窯業文化を現代に伝える取り組みだ。

アトリエでは型打ちや金継ぎ体験ができる。型打ちは、あらかじめ用意された型を使って器を作るもので、筆者のように陶芸未経験者でも簡単にトライできる。金継ぎは割れてしまった器を漆で継いでまた使えるようにする技術。

今回は豆皿の型打ちを体験。いくつかの型から好きなものを選び、粘土を伸ばして型に合わせて形を整える。文章にすれば簡単だが、粘土の厚みを均一に延ばしたり、模様のメリハリがはっきり出るようにたたきつけるなど、ちょっとしたコツで出来が左右される。同じ型を選んでも作る人によって器の雰囲気が変わるのも興味深い。1カ月後、作品が届くのが楽しみだ。

隣接するギャラリーでは器や作品の購入も可能。白や黒など、無地の焼き肌が美しい臼杵焼は静謐さを感じさせる。箸置きなどの小物はお土産にもおすすめ。

■「くにさき七島藺」を使った工芸品づくりに挑戦!「七島藺工房 ななつむぎ」(国東市)

もうひとつ、大分でしか体験できないのが「くにさき七島藺(しちとうい)」を使った工芸品づくり。「七島藺工房 ななつむぎ」は七島藺工芸作家の岩切千佳さんが営む七島藺の工房で、円座や鍋敷きなど工芸品の制作やワークショップ開催の活動をしている。

七島藺は畳に使うイグサの仲間で、日本では国東市安岐町でのみ栽培されている。耐久性に優れているのが特徴で、柔道の畳にも使用される。断面もイグサが丸くスポンジ状なのに対し、七島藺は三角。それゆえ実際に使う場合は裂いて使わなければいけない。

七島藺を作る農家は現在国東半島に6軒のみ。密集して生えるため、手植え・手刈りでしか栽培できない。農家では七島藺の畳表も作っていて、岩切さんはその選別の時点ではじかれた材料を使って工芸品を作っている。もちろん、一つひとつ手作業だ。

今回筆者たちが参加したのは、七島藺のミサンガづくりのワークショップ。赤や緑などに染められた七島藺を三つ編みにしていく。簡単そうだが、七島藺は意外に硬く、きっちりと力を入れて編まなければゆるんでしまう。岩切さんの鮮やかな手つきに見惚れながら、たどたどしいものの編み上げることができた。

生産農家が減少する一方の七島藺の将来を危惧し、岩切さんは自分でも七島藺の栽培をはじめたそう。貴重な七島藺に触れ、その香りと強さを実感できるのもこの体験ならではだ。

■温泉の恵みをいただく!地獄蒸し体験(別府市)

湯布院と並ぶ温泉地の別府。鉄輪温泉にある「地熱観光ラボ 縁間(えんま)」では「地獄蒸し体験」ができる。「地獄蒸し」とは、温泉熱を使って海鮮や野菜を蒸す料理のこと。シンプルだけど、素材本来のおいしさを感じられる調理法だ。

もうもうと湯気が立ち上る釜に食材の入った籠を入れ、釜下のコックをひねると蒸気で食材が蒸される。蒸しあがりまで待つことしばし。エビやヒオウギガイ、サザエニンジンやキャベツなどの野菜が湯気を立てる。ただ蒸しただけなのに、いろんな食材の香りが混然一体となって複雑な味わいを醸し出す。テーブル下には足湯があり、温まりながら食事ができるのも温泉地ならではだ。縁間地獄蒸しコース2200円~。

■昔ながらの手作り焼酎とブリュワリー「藤居醸造(豊後大野市)」

九州のお酒と言えば焼酎。豊後大野市にある藤居醸造は1929年(昭和4年)創業。今も変わらず伝統的な手法で焼酎を作り続けている。麦を蒸し、室で麹を作り、もろみを育てる。もろみの状態を見ながら蒸留のタイミングを決める。自家製蒸留器を使用して蒸留し、熟成させる。この一連の作業を経て作られるのが同社の看板商品・麦焼酎の「泰明(たいめい)」だ。麦の香ばしさを感じる焼酎には職人の技が生きている。

2022年には麦つながりでクラフトビールの醸造も開始。IDA ラガー、IDAペールエール、IDA IPAの3種のクラフトビールを造っている。「日本酒や焼酎が苦手な人も飲みやすいお酒を」と、クラフトビールを造り始めたそう。ブリュワリーはガラス張りなので、タイミングが合えば醸造の様子を見学することもできる。

ブリュワリーの向かいにはできたてのビールが味わえるビアホールも。大分県産のブランド豚を使用したハムやソーセージなど、ビールに合うフードも提供される。そのほか、クラフトビール工房のロゴ入りグッズや地元の雑貨なども購入できる。

■10代280年続く茶舗 「お茶のとまや」(杵築市)

600年以上の歴史ある杵築城の城下に広がる杵築市。白壁の建物で統一された街は城下町の風情豊か。杵築市役所のすぐ近くにある「お茶のとまや」は、280余年10代続く歴史ある茶舗だ。

1875年(明治8年)の築の店舗は杵築の商家の代表的な建物で、大切に守られてきた。2018年(平成30年)には杵築市初の国の登録有形文化財に指定されている。店内には代々使用されてきた茶壷や茶臼、天秤などが展示されていて、歴史を感じられる。

店内の喫茶席では玉露やほうじ茶、抹茶などを菓子とともに味わえる。お茶菓子として提供される落雁豊生(ほうせい)は、口に入れるとほろりと崩れるはかなさだ。薄紅色は杵築市花の豊後梅を表し、薄緑色は良質の抹茶の色。最中もお茶と好相性で、皮の香ばしさが際立つ。冬には干支の最中が登場し、人気を博している。

新旧の名所が街の魅力を引き立て合う大分。温泉ももちろんすてきだけど、それ以外の見どころもいっぱいの大分に出かけてはいかが?

取材・文=鳴川和代

由布院駅正面には双耳峰が美しい由布岳がそびえる