『四季報』伝説の編集長・山本隆行氏(左)と『四季報』100冊読破・渡部清二氏の開運放談!
『四季報』伝説の編集長・山本隆行氏(左)と『四季報』100冊読破・渡部清二氏の開運放談!

皆さま、本年もやってまいりました! 年始恒例、四季報マスターによる新春対談でございます! シブ~い有望株の発掘に定評のあるふたり。今年はどんな銘柄を発掘してくれるだろう? 『四季報』伝説の編集長・山本隆氏×『四季報』100冊読破・渡部清二の開運放談!

*データはいずれも1月16日時点

【図表】“昇り龍”銘柄30選をすべて見る

■『新春号』で有望株を探せ!

――まずは『会社四季報 新春号』の特徴を!

山本 投資家からの注目度が特に高いのがこの号です。取材に取りかかるのは年度の後半になって通期業績の行方が見え始める時期から。担当記者も編集部も精度の高い業績予想を出すため知恵を絞ります。

読者も年末年始に四季報を熟読して、新年の投資先を選ぶ。だから新春号が年明けの相場に与える影響は大きいんですよ。記者の独自業績予想が会社予想よりいい銘柄は、その後もやはり好調なことが多い。

『会社四季報 新春号』
『会社四季報 新春号』

――その新春号、今回は全体的にどんな傾向でしたか?

山本 今回は企業の実態を読み解くのが難しかったのが本音。業績は良く見えても、内実は値上げや円安でかさ増しされていたり。業績内容をよく見極めて慎重に動いたほうがいいかもしれません。

山本氏の四季報には、色とりどりの付箋がびっしり貼られている。読んで気になった情報はノートにまとめているという
山本氏の四季報には、色とりどりの付箋がびっしり貼られている。読んで気になった情報はノートにまとめているという

――四季報を100冊以上読破した渡部さん、今号の感想は?

渡部 記者コメントの内容がバラエティに富んでいる印象です。新登場や復活したキーワードも多数ありました。

昨年は業績よりも金利や為替などに翻弄(ほんろう)された相場でした。対して今年は各企業の競争環境や業績をきちんと反映して株価が動くんじゃないかと思います。

ちなみに、辰(たつ)年の株式市場は戦後の年間騰落率平均が+28%と最高の干え支と。歴史的には株価の大きな上昇が見込める年なんです。

――心強い! 早速、新春号で気になったテーマを!

山本 まずは私から。今年は【株式分割】しそうな銘柄を推したい。株式分割とは1株を複数の株に分割することで、最低購入価格が下がります。これから分割する銘柄は新NISAを機に参入する個人投資家の資金が入りやすくなって、値上がりも期待できる。それを先回りして仕込んでおくわけです。

『四季報新春号』から見つけ出した

渡部 東証も一昨年から、投資単位(100株の価格)を50万円未満に引き下げるよう企業に要請してますからね。

山本 そうそう。狙い目は知名度があって最低購入価格が高い企業です。直近で同業他社が分割してプレッシャーを感じている企業ならなお良し。例えばローソンの株価は8000円台だから東証の分割要請の対象。さらに同業のセブン&アイHDが昨年末に3分割を発表しているから、プレッシャーもあるはずです。

■日本酒1本100万円のレストラン!?

渡部 続いて【接待再開】。久々に記者コメント欄に「接待」という単語が復活しました。その背景には、コロナ明けの外食需要の戻りのほか、法人の接待交際費の非課税上限をひとり当たり1万円に引き上げる政府の方針がある。会社員の財布のひもが緩くなり、高価格帯メニューをそろえる飲食店が恩恵を受けるとみます。

山本 低価格帯の飲食関連企業は昨年中に株価が急騰した例も多いけど、高価格帯の中には出遅れてる企業もありますね。

渡部 ええ。注目は高級和洋食レストランを手がけるうかい。会食で立ち寄ったときに四合瓶1本で100万円する日本酒がメニューにあって、たまげました(笑)。まぁ、日本人向けというより、外国の富裕層向けの値づけなんでしょうけど。

「無味乾燥に見える記者コメント欄だけど、読めば記者のサービス精神がわかる」と渡部氏
「無味乾燥に見える記者コメント欄だけど、読めば記者のサービス精神がわかる」と渡部氏

山本 【インバウンド】向けに高級品を売る企業はこれからも強そうです。

渡部 外国の資金を呼び込む観点で、【大阪万博】の出展企業にも注目したい。イチオシはクオリプスで、iPS細胞由来の心筋細胞シートを開発しています。患者の心臓をシートで覆うことで弱っていた心臓の動きが良くなり、心不全を防ぐことができる。

これ、目の前で見せてもらったんですがスゴかったですよ。薄いシートがピクピク動いて。ぜひ万博で世界の注目を集めて飛躍してもらいたいです。

『四季報新春号』から見つけ出した

山本 日本株の推移が堅調なこともあって、日本に注目する【海外投資家】が増えましたね。四季報から海外投資家が好みそうな銘柄を見抜くこともできますから、海外から大量の資金が入ってくる前に仕込んでおきましょう。

注目は利益率が高い企業。基準として経常利益(事業全体で得た利益)率20%以上は欲しいところ。例えば、中古自動車オークション運営のユー・エス・エスは驚異の50%超です。同社の外国人持ち株比率は40%超。

つまり海外投資家から人気なんです。外国人持ち株比率は四季報に記載があるから、どんな企業が人気なのか研究してみるのも面白いですよ。

「まさか四季報を毎号、頭から最後まで読んでる人がいるとは思わなかった」と驚く山本氏
「まさか四季報を毎号、頭から最後まで読んでる人がいるとは思わなかった」と驚く山本氏

■アメリカで起こるカニカマ旋風

渡部 今までの話は海外から流入するお金に目を向けた内容でしたが、海外に打って出てお金を引き込む流れにも注目しています。今号の四季報は見出しにもコメントにも「米国市場」とか「海外強化」といったワードが多かった。国内市場の縮小が続く中、【米国進出】の意欲が再び高まっている印象です。

山本 海外進出は、発表しただけでまだ業績に影響がない段階でも株価が反応することもある。注目して損はないですね。

渡部 ええ。そういう意味では、小規模な進出でも問題はない。例えば、「久世福商店」を展開する和食材の製造小売業・サンクゼールは、米国で農場と果実加工場を買収しました。売り上げ規模はまだ小さいでしょうが、役員を派遣して本腰を入れるようですし期待できると思います。

『四季報新春号』から見つけ出した

山本 食品だと、世界で大人気のカニカマでも日本企業の逆襲が始まってますね。

渡部 はい。日本発祥で、日本製の品質は高いと思うんですが、一時、海外メーカーが世界シェア上位を占めていました。今号では極洋(きょくよう)と一正蒲鉾(いちまさかまぼこ)が北米でカニカマの製造・販売に注力するとあった。日本品質なら十分勝機があるとみます。

即席麺、レトルトカレーと並んで、戦後の日本が生んだ食品の三大発明とされるカニカマ。高タンパクで先進国を中心に人気沸騰中だ
即席麺、レトルトカレーと並んで、戦後の日本が生んだ食品の三大発明とされるカニカマ。高タンパクで先進国を中心に人気沸騰中だ

山本 思惑だけで株価が上がるといえば、従来は【防衛関連】銘柄が筆頭格でしたよね。

渡部 北朝鮮がミサイルを撃ってきたら、三菱重工業の株価が一瞬上がるみたいな。

山本 そう。でも、最近は実態を伴うようになってきましたね。2023年度から5年間の防衛費が従来比1.5倍の43兆円に積み増しされたのが大きい。防衛関連各社の受注残高は下請けに至るまで過去最高水準に積み上がっています。

武器の輸出規制が緩和されたという追い風もあるし、防衛関連銘柄は今後盛り上がりそう。例えばソナーが得意な古野電気、船舶向けの塗料に強い中国塗料など、マイナーな関連銘柄にも資金が回ってくるかもしれません。

渡部 ステラ ケミファなど、軍事転用可能な技術を持つ企業にも注目したいですね。米中分断などで経済安全保障の重要性が高まる中、政府による産業保護的な政策が打ち出される可能性もありますので。

『四季報新春号』から見つけ出した

山本 経済安全保障が絡んだ政府のテコ入れというと、半導体もまだまだアツい。昨年は、台湾の半導体ファウンドリ・TSMCが国の支援を受けて熊本に工場を新設。工場の建設は関連する企業の裾野が広いから、同県地盤の企業が盛り上がりました。

今年は北海道千歳市に国内半導体メーカーのラピダスが工場を建設中。当然、【北海道】関連企業は狙い目でしょう。

ひとつ挙げるなら、道内で地銀を展開するほくほくフィナンシャルグループ。ラピダスの取引先が千歳市近辺に事業所を構えるから、融資が増えるんじゃないかな。

渡部 幸先のいいことに、日経平均は年初から高値を更新しています。24年も日本株の躍進に期待しましょう!

●渡部清二(わたなべ・せいじ)
1967年生まれ。野村證券在籍時から25年以上『会社四季報』を通読している。著書は『プロ投資家の先を読む思考法』(SB新書)など多数。四季報分析ワークショップなどを行なう投資スクール「複眼経済塾」塾長

山本隆行(やまもとたかゆき
1959年生まれ。東洋経済新報社で『オール投資』『会社四季報』『四季報オンライン』編集長を歴任。著書に『伝説の編集長が教える 会社四季報はココだけ見て得する株だけ買えばいい』(東洋経済新報社)

取材・文/西田哲郎 撮影/榊 智朗 写真/iStock

『四季報』伝説の編集長と通読の鬼が『四季報新春号』から見つけ出した“昇り龍”銘柄をチェック!