2023年は朝ドラらんまん』でヒロイン・寿恵子役を演じたり、『第74回NHK紅白歌合戦』の司会を初めて務めたりと、目覚ましい活躍を遂げた浜辺美波。新たな役に合わせたショートヘアで現れた彼女は、「すごく楽ちんです。こんなに短くしたのはお父さんにヘアカットをされていた10歳とか11歳とか以来かな。うちの家族、ショートが大好きなんです」と屈託なく笑う。そんな浜辺が次に挑むのは、主演・山田涼介×監督・内田英治×音楽・久石譲による映画『サイレントラブ』。ある出来事をきっかけに声を出さなくなった青年・蒼(山田)と、不慮の事故で目が不自由になったピアニスト志望の女性・美夏(浜辺)が織りなすラブストーリーだ。

【写真】ふんわり優しい笑顔を見せる浜辺美波

■美夏は嫌な女だと思われるかも

――最初に脚本を読んだときの印象を聞かせてください。

浜辺:ト書きばかりでセリフが少なくて、実際に体験してみないと自分の感情とリンクするのかもわからず、不思議な台本だなと思いました。これが映画になったときにどうなるのかもわからなかったですし、久石さんが音楽を担当されることもイメージできず、興味がそそられました。それに、主人公の蒼はダメな部分もあるのですが、演じるのが山田さんというキラキラしたイメージのある方なので想像がつかず、そこも未知でした。

――作品を見てどうでしたか。

浜辺:久石さんの劇伴が入って、印象がかなり変わりました。ただ歩いているシーンとか、いろいろなシーンが無言で撮影されて、「これって使われるのかな」、「見ていられるのかな」という疑問や不安がありましたが、久石さんの音楽が流れることによって2人(蒼と美夏)の世界に引き込まれていく感覚がありました。それと、自分の出演シーン以外の部分のダークさは驚きでした。脚本を読んでいるはずなのに忘れていたのか、脚本以上のことになっていたからなのかわからないのですが、自分の知っている内容とは違う衝撃的なものが出来上がっていました(笑)。

――声を発することがない蒼と目が不自由になった美夏との間では、セリフの掛け合いがなく、手の甲を人差し指で触れるコミュニケーションが行われています。通常とは違う難しさはありましたか。

浜辺:そうですね。セリフがない分、自分の感情や表情に集中できるという意味ではすごく良かったのですが、どれぐらいの距離だと相手方の体温がわかるのかとか、人差し指の感触だけでどれぐらい信頼感を築けるんだろうというところは、現場に行ってからでないとわからない部分が大きいなと思っていました。でも、実際に現場に入ると、台本で読んだ以上の安心感が山田さんから得られたので、セリフがなくても伝わるんだなと思いました。

――視覚ではなく、指先の触覚のコミュニケーションで伝わるものがあるんですね。

浜辺:スピリチュアルのことは全くわからないですが、手は人によって全く違いました。手を握り返されたときの感覚も違うし、横にいるときの体温や身長、対応とかも違うので。そこに感情を役として乗せることによって、さらに温かさが増すのがすごいなと思いました。

――浜辺さんが演じた美夏はどんな女性だと思いましたか。

浜辺:もともとピアニストになるという確固たる意思を持って、そこに向かって自分のやるべきことをやる。気が強くてしっかりとした女性だと思うんです。でも、事故で後天的に目が見えなくなることによって、気の強さが裏目に出てしまうというか、取り繕う余裕がなくなり、人に見せたくない部分も見せてしまう。観客の皆さんには嫌な女だと思われるところもたぶんあると思います。でも、全力で何かに集中する力があるからこそ、いろいろと苦労をしても、最終的には幸せを手にすることができるんじゃないかと。うらやましいなと思う部分もあれば、不器用でかわいらしいと思う部分もありました。

――内田監督とは、どんな話をされましたか。

浜辺:普段は撮影前に本読みがありますが、この作品はセリフがないこともあって、本読みがなく、衣装合わせを1回やってそのまま現場に入ったんです。だから、現場に入ってから初めて、監督からセリフは淡々とリズムをつけないで言ってほしいというお話があり、“事故から何日も経った後の目が見えない状態”の調整がありました。先天的に目が見えない方と違って、白杖を使うときも、道に対して、道路の音に対しての恐怖感や体の硬直はあるだろうということで、監督と細かく話し合いをしながら撮影を行いました。

――目線の動かし方の指導もありましたか。

浜辺:はい。立ったり座ったり、体勢が変わるごとの客観的な見え方を確認しました。カメラを通して見ると、自然と目線が合っているように見えたりするらしいんです。なので、想像よりも大きく目線をずらしてほしいと言われました。

――ピアノを弾くシーンの準備も大変だったのでは?

浜辺:ピアノは苦戦しました。吹奏楽部でフルートをずっとやってきましたが、ピアノには触れてこなかったので、脳みその使い方に慣れなくて。フルートは両手で1つの音を作るのに対し、ピアノは全部の指が独立していて、足まで独立して動き出すというのがあまりに未知で脳疲労がすごかったです。目が見えづらい役なので、楽譜も見られないし、鍵盤を目で追ってもいけない。斜め下に目線を落として弾くのも難しかったです。

山田涼介の印象は? 「嫌われていたわけじゃなかったんだとホッとしました(笑)」

――蒼を演じた山田さんの印象を教えてください。

浜辺:ドラマでもバラエティ番組でもすごくキラキラしているイメージで、決めるところをきっちり決める“ザ・アイドル”みたいな印象が強かったんです。なので、内面もキラキラしている方なのかなと想像していたのですが、お会いしてみると、とても静かな方で。俺についてこいというタイプよりは、みんなで現場を作り上げて、それを外から見守ってくれているような印象があって意外でした。どんなときも相談に乗ってくれますし、気にかけてくださって、繊細な方なんだろうなと思いました。

――浜辺さんも山田さんもご自身を“人見知り”とおっしゃっていますが、似た空気もありましたか。

浜辺:山田さんは人見知りというよりも、ただ静かで人と喋りたくない人なんだろうなと当時は思っていました。役に集中しているときなど、険しい顔で考え事をしていることが多かったので、話しかけられたくないタイプの人なのかな、と。私の場合、話したいけれど、おどおどしていたり、話しかけられても会話が続かなかったりするタイプなので、後でお互い人見知りだと知ってから「あれは嫌われていたわけじゃなかったんだ」とホッとしました(笑)。

――映画も静かで、人見知りのお二人がメインキャストとなると、現場はやはり静かでしたか。

浜辺:会話は少なかったと思います。倒れるんじゃないかと思うぐらい暑かったこともありますが、会話はなくて、ぼーっと同じ方向を見ていたり、待機時間も隣の椅子に座っていても喋ることはなく…。でも、野村(周平)さんがいると、すごく明るくて話が面白くて「最近笑っていなかったな」と思うぐらいたくさん笑わせてもらいました。

――野村さんが現場のムードメーカーだったんですね。

浜辺:そうですね。でも、山田さんと野村さんは高校の同級生で距離感が出来上がっているというか、仲が良いからこそお互いを尊重しているので、そんなに会話をしないんです。野村さんが気を遣って私に喋りかけてくれる感じでした。

■故郷、石川への思い

――本作では、夢も希望も持たない蒼と、突然夢が途絶えた美夏が描かれますが、浜辺さん自身は11歳の頃から芸能のお仕事をしてきた中で、夢を失いそうになったことはありましたか。

浜辺:小さい頃は挫折が多かった気がします。人見知りで自己主張が少ないタイプはオーディションに通るわけもなく、ずっと落ち続けていましたし、同期や同世代の子が売れてくると沈んでしまうこともあって。いつか仕事が無くなってしまうのではないかということばかり考えてしまう時期もありました。

――落ち込んだときの気持ちの切り替え方はどうしていましたか。

浜辺:当時はメモ帳やノートに悔しい思いとともに「こうなりたい」という思いを書いて自分を奮い立たせていました。もともと負けず嫌いという部分だけで、第7回「東宝シンデレラオーディション」でニュージェネレーション賞をいただいたようなものなので。オーディションに落ちたときに悔しいと思わなくなってしまったら終わりだと言われていたので、その思いを大切に、外ではそれを出さないよう、泣かないで自分の中に保っていこうという思いでした。そこから年齢を重ねて、自分で目標を見つけていく、モチベーションを高めていくことが大切だと思うようになりました。ありがたいことに、かなった夢もあるので、今は次の夢をどうやって見つけていくのかが課題です。

――かなえた夢の一つに『らんまん』のヒロイン・寿恵子役があると思います。多数の作品に出演されてきた中でも、やはり「寿恵ちゃん」と呼ばれることは多いのでは?

浜辺:そうですね。でも、自分が頑張ったからではなく、作品の力と主演の神木(隆之介)さんのおかげとしか思えないので、そこに感謝を持ち続けています。自分としては、せっかく良い役をいただいたので、その役を汚さないようにという思いだけでした。悪いこともしないようにと日々思っています(笑)。寿恵子という役が良すぎて、基準値が上がっているのではないかな、逆に少しだけ悪いことしておいた方がいいのかなとか、すごく悩んでいます(笑)。

――普段だったら何気なくやってしまいそうなことに、ストップをかけたことはありますか。

浜辺:汚い服で外へ出るのはやめました(笑)。たまに出てしまう時もあるのですが、気をつけようと思うようになりました。

――『NHK紅白歌合戦』の司会を拝見しても、人に対する接し方の丁寧さや、度胸の良さ、生放送中の吸収力など、寿恵子と重なって見えました。

浜辺:私自身は、大きく何かをやらかすか、何事もなく楽しめるかのどちらかだと思っていました。それまで新人記者の役をやっていたので(映画『もしも徳川家康総理大臣になったら』2024年7月26日公開)、毎年見ていた『紅白』で、全国で放送されるということはいったん置いておいて、その(記者)役の延長線上として自分を取り込むような感覚でやりました。そうしたら、皆さんの雰囲気作りのおかげもあって、すごく楽しめたんです。大きな失敗もなかったことに、自分でもびっくりしました。

――大舞台で緊張しないコツはありますか。

浜辺:事前準備をちゃんとすること、頭に段取りなどをしっかり入れておくことで、不安はあまりなかったと思います。あとはちょくちょくふざけてみることですかね? 変に踊ってみるとか、意識的にやっていました。気づかないうちにだんだん体が固くなり、口や顔の筋肉も硬くなってしまうと、相手に緊張が伝わってしまうと思うので、体を動かすとかストレッチするとかもやっていました。

――かなった夢もたくさんある中、今年の目標や挑戦してみたいことを教えてください。

浜辺:年始に私の実家(石川県)が震災に遭った中で、何ができるかを考えました。親孝行や地元に対してできることを考えつつ、今決まっている新しいお仕事に注力し、自分の中のモチベーションを高めていかなければと思っています。お仕事を始めて10年以上経ち、慣れてきたことで「寝ていたいな」と思うときもありますが、お仕事があるありがたさを感じながら、仕事を楽しむ気持ちを忘れないようにしていきたいです。いろいろな刺激を楽しんで受け入れていきたいなと思います。

(取材・文:田幸和歌子 写真:上野留加)

 映画『サイレントラブ』は全国公開中。

浜辺美波  クランクイン! 写真:上野留加