「年金の受け取りは65歳から」が基本ですが、手続きをすれば受け取り開始時期をずらすこともできます。ただし、ずらすことにはメリット・デメリットの両方があり、きちんと理解したうえで受け取りかたを選ばないと損をしてしまう可能性も。本記事では、講演、執筆、個人マネー相談等で幅広く活躍するお金のプロ、頼藤太希氏・高山一恵氏による著書『1日1分読むだけで身につく 老後のお金大全100』(自由国民社)から、年金の「繰り上げ受給」「繰り下げ受給」のポイントを解説します。

年金を「繰り上げ受給」することによるデメリットの数々

年金の繰り上げ受給のメリットは、年金という安定収入を早いうちから手に入れられることにあります。早期退職で収入が少なかったり、健康面に不安があったりする場合は、繰り上げ受給のほうがいいかもしれません。

しかし、年金の繰り上げ受給にはデメリットがいくつかあります。

繰り上げ受給をすると、本来より少ない年金額を生涯受け取り続けることになります。一度申請すると、取り消せません。

繰り上げ受給は、国民年金厚生年金同時に行います。なお、次に紹介する繰り下げ受給は国民年金だけ、厚生年金だけを選べます。

繰り上げ受給すると、国民年金の任意加入ができなくなります。任意加入ができないと、国民年金の未納期間を減らして年金を増やすことができません。国民年金保険料の追納もできなくなります。

また、繰り上げ受給したあとに所定の障害状態になっても、障害基礎年金が受け取れません。夫が老齢年金をもらう前に亡くなったときに妻がもらえる「寡婦年金」ももらえなくなります。さらに、iDeCoに加入できる条件を満たしていても、iDeCoに加入できなくなります。

「繰り下げ受給」でお得になる条件は“長生きすること”

年金の繰り下げ受給のメリットは、なんといっても年金額が最大で84%も増えることです。繰り上げ受給と同じく、一度繰り下げ受給で年金をもらい始めたら、以後は増額した年金が生涯にわたってずっと続きます。

しかし、せっかく年金を繰り下げても、長生きできなければ損です。75歳から年金をもらおうと思っていたのに、74歳で亡くなってしまったら、本人は年金を1円ももらえなくなってしまいます。

年金を繰り下げると年金額は最大84%増えますが、年金額が増えると税金・社会保険料も増えるため、手取りが84%増えるわけではありません。

加給年金や振替加算は、年金を繰り下げている間はもらえません。特に「自身の老齢厚生年金の繰り下げ」「加給年金の受給」どちらが得かはよく考える必要があります。

なお、年金の繰り下げ中に亡くなった場合に、遺族がもらえる遺族年金の金額は、65歳時点の金額で計算されます。仮に74歳で亡くなったとしても、遺族は繰り下げ受給の恩恵が受けられません。

「繰り下げ受給」をしても思ったより手取りが少ない理由

仮に75歳まで年金の繰り下げ受給をして、年金額が84%増えても、手取りが84%増えるわけではありません。なぜなら、老後の年金にも税金や社会保険料がかかるからです。

老後の年金には、①国民健康保険料(75歳未満)または後期高齢者医療保険料(75歳以上)、②介護保険料、③所得税、④住民税の4つの税金・社会保険料がかかります。年金額が年18万円以上の場合、税金や社会保険料が天引きされて銀行に振り込まれます。税金や社会保険料の金額は、ねんきん定期便などには書かれていません。そのため、いざ年金が振り込まれてみると「思ったより少ない」と思われる方も多くいます。

年金から天引きされる税金・社会保険料は、年金額や家族構成、住んでいる自治体などによって異なりますが、おおよそ10%〜15%程度と覚えておきましょう。

例えば、「東京都文京区在住、65歳以上、独身、扶養親族なし/ 年金の受給額:年間240万円(額面)/ 年金以外の収入なし/ 所得控除は基礎控除、社会保険料控除のみ」という条件の場合、年金の額面は240万円でも、手取りは208万円程度になってしまいます。

年金が多いほど、税金や社会保険料も増えます。したがって、老後のお金の計画を立てる際には、手取りの年金額を考える必要があることを押さえておきましょう。

「繰り上げ受給」・「繰り下げ受給」の損益分岐点は?

年金を繰り上げ受給・繰り下げ受給した場合の受給率は生涯続きます。そのため、何歳まで生きるかで年金の「損益分岐点」が変わります。

65歳から年金を受給した場合と、年金を繰り上げ受給・繰り下げ受給した場合で比べた「損益分岐点」は下図の通りです。

額面ベースでの損益分岐点は年金額がいくらであっても同じ。繰り上げ受給の場合はおよそ21年で65歳受給の年金総額が繰り上げ受給の年金総額を追い抜きます。また、繰り下げ受給の場合はおよそ12年で繰り下げ受給の年金総額が65歳受給の年金総額を追い抜きます

ただ、年金からは税金や社会保険料が天引きされます。それを加味した手取りベースの損益分岐点は、額面ベースの損益分岐点より2年程度遅くなります。実際、銀行に振り込まれる年金額は手取りの金額なので、年金の損益分岐点も、手取りベースで考えましょう。

年金の繰り下げ受給のひとつの目安は68歳です。寿命が84歳〜86歳のときに、手取りの総額がもっとも多くなります。ただし、68歳を過ぎても長く働けるなら、働いている間は繰り下げ待機して、仕事を辞めた年齢から年金を受け取るようにすれば、その後の年金額を増やせます。

頼藤 太希 株式会社Money&You 代表取締役

高山 一恵 株式会社Money&You 取締役

※本記事は『1日1分読むだけで身につく 老後のお金大全100』(自由国民社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。