高度成長期、都市部の環境が悪くなっていく一方で、人口もぐんと増え全国で住宅が不足。そこで郊外に造られたのがニュータウン、夢を抱いて引っ越してきた多くの家族がいました。それから半世紀。そこには取り残された多くの高齢者がいます。なかには、生活苦に陥る人も。みていきましょう。

寂れたニュータウンに移り住んで半世紀…そして高齢者だけが残った

――昔は活気があったんだけどね

地方都市の市営団地が立ち並ぶ、いわゆるニュータウンに、50年近く前、亡き夫と共に夢を抱いて引っ越してきたという80代女性。まだ活気があったころの街の様子を振り返り、寂しそうに話します。

ニュータウンには、複数の小学校と中学校があり、街の中心にある大きなショッピングセンターは、平日でも地域住民で混んでいたといいます。住民同士のコミュニケーションも活発で、夏に行われる地域の祭りには多くの出店が出て盛り上がったとか。最寄りの駅からは徒歩で行くには遠い場所にありましたが、その分、バス便が充実。不自由なことは、何一つなかったといいます。

全国的にニュータウンの造成が始まったのは高度成長期。急激に人口が増えていくなか、住宅不足の解決を目指し、造成が進められました。

ニュータウン。そのまま直訳すると「新しい街」ですが、決まった定義はありません。国土交通省では独自に条件を定義したものを一覧として公表しています。それによると、日本には2,000を超えるニュータウンがあり、すべて合わせると広さは大阪府に匹敵するほどになるといいます。

80代女性が住むニュータウンも、そんな街のひとつ。最盛期を迎えた1980年代には3万人近くの人口を抱えていた市内でも大きな街でしたが、いまはその半分くらいにまで減少したといいます。

ニュータウンが郊外に造られたのは、全国共通。しかし東京の「多摩ニュータウン」や大阪の「千里ニュータウン」などと、地方のニュータウンでは、少々事情が異なります。都心へのアクセスは、東京や大阪のニュータウンであれば鉄道。一方、地方のニュータウンの場合は、バスや車。この人口減少期、鉄道駅に近ければ若年層に選ばれる可能性がありますが、そうでなければ、なかなか若年層の入居は難しくなります。女性の住むニュータウンでも、子どもの数がどんどん減少し、廃校となった小学校・中学校も。2024年問題もあり、バス便は半分くらいになり、都心へのアクセスも悪くなったといいます。

――いまはご近所さん、みんな年寄りばかり。昔は子どもの声があちらこちらから聞こえてきたんだけどね

ニュータウンにおける高齢化は、程度の差はあれどこちらも全国共通。たとえば東京都多摩ニュータウン」の場合。令和5年10月1日現在、多摩市域では高齢化率32.3%。八王子市域では24.2%、稲城市域では23.9%、町田市域では13.9%。ニュータウン全体では27.1%となっています。東京都全体の高齢化率は22%程度とされているので、それよりも5ポイント程度高くなっています。

女性の住むニュータウン高齢化率は40%を超え、市内でも「限界集落」と揶揄されているといいます。

団地の建て替えで家賃1万円アップに悲鳴

そんな女性のもとに団地の取り壊しの連絡。

――周りの団地も建て替えが進んでいたから、いつか順番が来ることは分かっていたけど

いま住んでいる市営団地は、築50年ほどで、家賃は1万2,000円。年金が月5万円程度だという女性には、とてもありがたい金額だといいます。ただ団地にエレベーターはなく、女性が住む3階までは階段でのぼらなければなりません。ほかの設備も築50年近くなると、古いというよりも時代に取り残された感じがします。

アクセスの悪さに加えて、団地の老朽化。そのため若年層に避けられる……そのため全国のニュータウンでは再生計画が進められ、団地の建て替えが進められています。

女性の場合、建て替えられた真新しい団地に優先的に入居できる、ということですが、ひとつ問題が……

――家賃が1万円ほど増えるといわれました

優先的に入居できるという団地にはエレベーター付き、設備もイマドキで、確かに住み心地は良さそう。しかし、年金月5万円と、わずかな貯蓄を取り崩してなんとか暮らしているという女性。いま以上に出費が増えるのは、かなり痛いことです。そもそも余裕があれば「とっくの昔に子の街から出ていっている。バスも減り、お店も減って、不便ですから」と女性。

生活が成り立たない場合は、生活保護という選択肢もあります。年金への依存度が高い高齢者は生活苦に陥りやすく、2023年10月時点、生活保護を受ける160万ほどの世帯のうち、高齢者世帯が半分以上を占めています。

女性が住む市の場合、80代単身者の生活扶助基準額は6万8,820円、住宅扶助基準額は3万6,000円、合計となる生活保護費は10万4,820円。収入が生活保護費を下回っている場合、その差額が支給されます。ただし生活保護を申請する場合、貯蓄は国の定める最低生活費を下回っていないといけません。わずかとはいえ、生活費を充当する貯蓄がある女性が支援を受けられるのは難しいと考えられます。

――もう先が見えてますから、私。せめて最期までここにいたい

そんなことを願うも受け入れてもらえるはずはなく、結局、優先的に入ることのできた団地に引っ越したとか。家賃アップに、そして昨今の物価高。「生きていくのが、本当にツライ」という女性。同様の声は、収入が限られ、実質目減りが続く年金世代のあちらこちらから聞こえてきます。

[参考資料]

東京都整備局『多摩ニュータウンの統計指標』

厚生労働省『生活保護制度』

厚生労働省『被保護者調査』