飲食業や清掃業、警備分野などで自律走行ロボットの導入が進んでいます。これらの業種は共通してスタッフ不足に悩まれており、テクノロジーを活用した自動化・省人化が喫緊の課題となっています。本稿では、配膳や清掃といった領域で活躍するロボットやICT機器の導入事例を紹介しつつ、その効果について考えます。

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

「ガスト」や「バーミヤン」など全国約2,100店舗に3,000台のロボットを導入

ガストやしゃぶ葉、バーミヤンジョナサンなどの外食チェーンを展開するすかいらーくホールディングス(HD)では、「顧客期満足度の向上」と「働きやすい職場環境」を掲げ、19年5月からキャッシュレス決済を推進し、また20年2月には客席にデジタルメニューを設置、テーブルからタブレットで料理が注文できるようにしました。

そして、中長期にわたる成長をめざし、21年10月には配膳ロボット(フロアサービスロボット)を店舗に順次導入していくことを発表。22年12月時点で全国約2,100店舗に3,000台の導入を完了しました。

配膳ロボットは、AIに予めルートを学習させ、ロボットは自動運転で走行します。厨房から指定されたテーブルまで料理を運び、顧客が食事を終えて退店した後は、スタッフがロボットに食器類を乗せ、ロボットが厨房まで運ぶ下げ膳の支援も行います。

同社が発表したガストでのアンケートの結果によれば、約9割の顧客が配膳ロボットに対して「満足」と好意的な評価をし、店舗側の効果としては「片付け時間」は導入前の35%削減、「スタッフの歩行数」は42%減、「ランチピークの回転数」は+2%向上した、としています。

また、22年5月のPudu Roboticsが発表したリリースで、しゃぶ葉のスタッフは「ロボット導入後、従業員が料理を運ぶ時間が削減し、その時間を食材の補充や料理コーナーの清掃の時間に費やせるようになり、お客様との会話の時間も増えサービス強化につながりました」と述べています。

最近では、すかいらーくHDに限らず、焼肉店や地方の食事処などでも導入が進んでおり、いろいろな店舗で配膳ロボットをみかけるようになっています。

10台の配膳ロボットが同時フル稼働する食事処も

たとえば千葉の食事処、漁師料理 かなやでは、同型のロボットを10台導入し、23年3月には同時フル稼働する様子を報道関係者に公開しました。漁師料理 かなやは海鮮料理を中心に振る舞う、75卓450席の大規模な食事処です。

取材日は平日にも関わらず、店内は来店客で大賑わい。10台の配膳ロボットがひっきりなしに動き回っていました。次々に厨房を出発して、テーブルに料理や飲み物を運び、再び厨房に戻って次の料理を乗せる列に並びます。

もちろんロボット同士がぶつかることはなく、譲り合って移動し、人が近付くと停止したり徐行したりしてすれ違います。厨房から海を望む席に移動する際に多少の段差(坂)がありますが、そこは徐行するなど、環境を考慮しながら速度を調整してスムーズに移動していました。 実はこの漁師料理 かなや、10台の配膳ロボットを導入するにあたって、人と配膳ロボットがともに動きやすく効率的に作業できるよう、厨房とロボットの待機場を中心に店内を大幅に改装しています。

店内の改装には大きなコストがかかり、数日間の休業も余儀なくされました。また作業の流れや手順の変更はスタッフからの反発も予想され、たやすいことではなかったといいます。しかし、ロボットを導入するだけでなく、人とロボットが協働するのに適した環境を整備し、仕事の手順さえも変化させていく柔軟な対応はとったことで、ロボットを効果的に活用できるようになったのです。

報道陣の質問に対して漁師料理 かなやは「配膳ロボットは1週間で3,319食の配膳を担当し、人による配膳を5割以上削減できました(一部の汁物や崩れやすい料理など、一部のメニューは念のためスタッフが運んでいます)。ロボットはホールスタッフの代わりに1日平均16kmを走行し、スタッフの労働負荷の軽減効果も確認できています。いまはスタッフを募集しても思ったように応募が来ないのが実状。スタッフの年齢層も40歳代以上が多く、配膳ロボットが動いてくれてとても助かっています」と語りました。

アイリスオーヤマが自社開発の清掃ロボットを投入

飲食業と同様に清掃業においても人材不足が課題となっており、解決策として業務用の清掃ロボットの導入が急速に進んでいます。

20年からソフトバンクロボティクスと連携して、業務用の乾式清掃ロボット(除塵清掃ロボット:業務用ロボット掃除機)の販売に本格参入したアイリスオーヤマは、23年11月に「水拭き清掃」と「乾いた床の除塵清掃」に両対応したDX清掃ロボットを自社開発し、24年半ばに発売すると発表。3年間で最低1万台(国内市場)の販売を見込んでいます。

乾式清掃ロボットについては、23年10月時点ですでに累計5,000台を販売しています。

報道関係者向け発表会で、アイリスオーヤマの代表取締役社長 大山晃弘氏は「日本では人手不足が顕著となり、日本の総人口に対して労働人口は約5,000万人といわれています。我々は、そのなかでロボット化が可能な業種は約1,800万人くらいだと考えています。もちろん1,800万人の業務がすべてロボットで代替できるとは限りませんが、おそらくは約700万人程度の労働人口の業務をロボットで代替でき、その市場規模は国内だけで25.5兆円に達するでしょう。海外向けは432兆円を見込んでいます」と語りました。

清掃ロボットについては、さまざまなメーカーやSIerが参入していますが、配膳ロボットと同様、ロボットができること、できないことを考え、ロボットができないことを人が補う、人が担うといったように、協働と役割分担を考えて柔軟に働き方を変えていくことが重要です。

たとえばある清掃会社からは、「清掃ロボットは床清掃しかできない。テーブルや手すり、階段、ガラス清掃などを含めてフロアごとに清掃担当チームを割り当てている当社では床清掃ロボットを導入できない」という意見も聞かれますが、考え方を変えれば、各フロアの床の清掃はロボットに任せ、そのほかの部分をスタッフが担当するというような役割分担ができるはずです。

従来のやり方に固執せず、ロボットと協働できる環境を柔軟に設計することで、少しずつ自動化/効率化に向けた変革を進めていけるのではないでしょうか。

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<著者> 神崎洋治

TRISEC International代表取締役 ロボット、AI、IoT、自動運転、モバイル通信、ドローン、ビッグデータ等に詳しいITジャーナリスト。WEBニュース「ロボスタ」編集部責任者。イベント講師(講演)、WEBニュースやコラム、雑誌、書籍、テレビ、オンライン講座、テレビのコメンテイターなどで活動中。 1996年から3年間、アスキー特派員として米国シリコンバレーに住み、インターネット黎明期の米ベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材した頃からライター業に浸る。 「ロボカップ2018 名古屋世界大会」公式ページのライターや、経産省主催の「World Robot Summit」(WRS)プレ大会決勝の審査員等もつとめる。著書多数。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)