静かに熱く、青さがいとおしい青春群像劇BLがある。2023年に10年間の連載に一旦幕をおろした『ギヴン』(キヅナツキ新書館『シェリプラス』)だ。音楽・バンドに打ち込む若者たちの友情や信頼関係、そして恋が描かれる物語は、マンガを飛び出し、TV・劇場アニメ、舞台、実写ドラマと様々な展開を見せ、多くのファンを虜にしている。そして2024年1月27日、TVアニメ続編となる劇場版『映画 ギヴン 柊mix』が公開された。本記事では、過去TVアニメを振り返りながら、今回の劇場版のキーワードや魅力をとことん紹介したい。(以下、『映画 ギヴン 柊mix』およびTVアニメ『ギヴン』のネタバレを含みます)

【写真】鹿島柊と八木玄純を中心に描く、劇場版『映画 ギヴン 柊mix』より場面カット(17枚)

■TVアニメ『ギヴン』が描いてきたもの

これまでのTVアニメ『ギヴン』では、主人公の佐藤真冬(CV.⽮野奨吾)と上ノ山立夏(CV.内⽥雄⾺)らで結成された4ピースバンド「ギヴン」メンバーたちの恋と青春が描かれてきた。TVアニメでは、音楽をきっかけにかつての恋人・由紀(CV.新祐樹)とあまりにも辛い別れを経験した真冬が、彼の残したギターを片手にギヴンに加入。ギターの技術だけでなく、音楽を通して自分の気持ちを言葉にする喜びを得るまでの物語が描かれている。そんな真冬を、音楽で導いたのが立夏だ。音楽を通して惹かれあっていく高校生ふたりの恋模様が、TVアニメの軸だった。

TVアニメの続編となる劇場版『映画 ギヴン』は、打って変わってほんのりビターな大人の雰囲気を纏う。描かれたのは、真冬と立夏とバンドを組むベーシスト・中山春樹(CV.中澤まさとも)とドラマー・梶秋彦(CV.江口拓也)、そして秋彦と現在もずるずると同居関係が続いている元恋人で天才ヴァイリニスト・村田雨月(CV.浅沼晋太郎)の三角関係だ。音楽が大好きだという気持ちを曇らせてしまうほどの恋を引きずり、互いと自分自身を傷つけてしまっている3人の姿が、なんとももどかしい展開だった。

そして今回の劇場版『映画 ギヴン 柊mix』だ。主役は真冬と由紀の幼馴染みであり、「ギヴン」のライバル的バンド「syh」のメンバーでもある、鹿島柊(CV.今井文也)と八木玄純(CV.坂泰斗)だ。高校生にしてメジャーデビューを決めた柊と玄純の恋を通して描かれたのは、“愛する人と生きる覚悟”だった。

■「音楽が好き」が「人生」と重なる…その先の選択を描く

今回の劇場版がこれまでのTVアニメや前作『映画 ギヴン』と異なるのは、「音楽が好き」という気持ちが「音楽で飯を食っていく」という選択、覚悟となって描かれている点にある。

これまでのシリーズでキャラクターたちは、音楽と恋の天秤に悩まされてきた。特にバンド内恋愛は、万が一別れてしまった場合にバンド活動への支障となりかねないリスクとして描かれてきている。

ただ今回の主役である柊と玄純は、互いに恋愛感情を持ちながらも、高校卒業前にメジャーデビューを決意。しかも、柊は「バンドを続けることで玄純の人生を縛っておける」と自覚し、玄純は「柊のとなりにいられるのなら人生くらい捨てられる」と言うくらい、ふたりは互いがとなりにいる未来に迷いがない。

一方「ギヴン」は、メンバー全員が高校、大学、大学院の卒業年を迎えている。しかも実は大手レコード会社からのスカウトもきているのだ。しかし真冬が、人生どうなっても音楽に捧げなければならないかもしれないことに迷いを持っており、かつ他のメンバーもそんな不安を抱く彼に理解を示しているため、メジャーデビューするかどうか決めかねている。

人生の岐路に立った若者たちが、自身の「音楽が好き」という気持ちを「人生」と重ねられるかどうか。この選択に迷いのない「syh」と、まだ悩んでいる「ギヴン」の対称的な姿勢を描くことで、大好きな人と生きていく選択を取ることの重みを伝えていた。

とはいえ、柊と玄純の揺るぎないと思われていた覚悟にも、まだ隙があったという展開が今回の劇場版だ。互いに持っていた恋愛感情の温度差を、ふたりは目の当たりにする。柊と玄純の歩幅が揃っていくのかどうか、青さと執着が混ざった激情の行方に、今作のキャッチコピー“これは淋しかったこどもたちが大人になる途中の話”の答えが詰まっているように感じた。

■本作で描かれなかったものと再起への期待

TV、劇場版それぞれで、ラブストーリーの主人公が異なる『ギヴン』シリーズ。ただシリーズを通して描かれ続けている変化もある。それは真冬の成長だ。

TVアニメの真冬は、元恋人の由紀を失ったさみしさを“言葉にする”ことにためらいを覚えていた。しかし立夏との間で育まれる新しい恋と音楽の楽しさを得たことで、自分の気持ちを出す一歩を踏み出している。そして前作の劇場版では、兄貴分のような春樹と秋彦、そしてバンドメンバーとは違う視点で音楽だけでなく恋の痛みや喜びを分かち合い、導いてくれた雨月が前に進むきっかけとなるような曲を作りたいと、大切な人たちに“共鳴させる”ための曲づくりに挑戦。真冬の想いを“言葉にする”力は、自分の内から外へと広がり続けてきた。

さて今作で、この成長はどう描かれているだろうか。結論をいうと、停滞だ。

かつて「syh」のメンバーだった由紀が真冬のために作りかけていた曲を完成させることを、ひとつの目標にしている今作。柊はこの曲を受け継げないとこれまで続きを作曲してこなかったが、現恋人の立夏にその完成を託すことで、由紀が真冬に伝えようとしたことを形にしようとしている。ただサポートとはいえ立夏が「syh」での曲作りに熱中し、柊と玄純と過ごす時間が増えてから、真冬はさみしさ、疎外感を募らせていった。

そしてこの感情は、真冬と由紀のあまりにも辛い別れの引き金と重なるのだ。置いていかれるさみしさは、真冬に音楽と歌い方を忘れさせた。今作で真冬の歌は一度も聴けない。

ギヴン』シリーズの続編映画は、今作含め2部作で制作が決定している。広がり続けていた真冬の“言葉にする”力、音楽を好きだと思う気持ちが再起するのかどうか見届けたい。

■文/クリス菜緒

『映画 ギヴン 柊mix』が1月27日より全国公開中/(C)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会