累計発行部数2700万部万部を突破する野田サトルの大人気コミックを実写化した『ゴールデンカムイ』が先日公開されると、初週の週末動員ランキングで第1位を奪取!「キングダム」、Netflixの「今際の国のアリス」シリーズも大ヒットに導いた主演の山崎賢人は、いままさに日本のエンタメ界を牽引する押しも押されもしない最重要俳優へと成長した。なかでも最新作の『ゴールデンカムイ』は、これまで多くの作品で多彩なスキルを磨いてきた彼のポンテシャルが最高のレベルで昇華されていて見逃せない。そこで本コラムでは、漫画原作を中心とした山崎の過去の出演作を振り返りながら、本作で覚醒した彼のスゴさと魅力を見つめていきたい。

【写真を見る】“不死身の杉元”を体現する山崎賢人の体を張ったアクションは必見!

■ラブストーリーにアクション、ギャグも!様々なジャンルの漫画原作映画で活躍

2011年公開の『管制塔』で映画初出演にして初主演を飾った山崎は、渡辺あゆ原作の『L・DK』(14)、幸田もも子原作の『ヒロイン失格』(15)、高野苺原作の『orange-オレンジ-』(15)など人気少女コミックを原作とした、いわゆる“キラキラ映画”でヒロインの相手役を好演。

甘いマスクとそれぞれの作品と真摯に向き合う素直なスタンスで注目を集めると、その後も八田鮎子原作の『オオカミ少女と黒王子』(16)で二階堂ふみ、新川直司原作の『四月は君の嘘』(16)では広瀬すず葉月抹茶原作の『一週間フレンズ。(17)では川口春奈と共演し、このジャンルには欠かせない存在になっていった。

しかも、返す刀で少年誌掲載コミックの人気キャラも次々と自分のものに。大場つぐみ小畑健による人気コミックをドラマ化した2015年放送の「デスノート」では、不思議な存在感を放つ世界一の名探偵L(エル)を、2006年に公開された同コミックの映画化作品でLに扮した松山ケンイチとは違うアプローチで体現。荒木飛呂彦の世界的人気コミックが原作の『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(17)では、触れるだけで他人の怪我や壊れた物を直す特殊能力「スタンド」を持つ主人公、東方仗助をコミックそっくりのリーゼントとド派手なコスチュームでまんまと成立させてみせた。さらに、麻生周一の人気コミックを「銀魂」シリーズの福田雄一監督が実写化した『斉木楠雄のΨ難(17)ではコメディに初挑戦!普段の山崎からは想像できない変顔を次々に炸裂させる大暴走で、観る者を驚かせたのも記憶に新しい。

■身体能力の高さと研鑽を積んだ演技力が結実した『キングダム

山崎が命を吹き込んだそれらのキャラが輝きを放つのは、もちろん彼のルックスや前のめりのスタンスだけによるものではない。それを現実のものとする、確かな演技力が長年のキャリアのなかで培われていたからだ。

2017年のドラマ「陸王」で役所広司演じる主人公の息子役という重責を担うと、翌年の「グッド・ドクター」では驚異的な記憶力を持つサヴァン症候群の小児外科研修医という難役に命を吹き込み、中国・北京で開催された「IQIYI(アイチーイー)Screaming Night」でアジアベスト俳優賞を日本人で初めて受賞。又吉直樹の同名小説を『リバーズ・エッジ』(18)などの行定勲監督が映画化した2020年の『劇場』では、理想と現実の間で苦悩する演劇青年を無精ひげとボサボサの髪で生々しく演じ、同年代の共感を呼んだ。

そんな山崎のコミックキャラに愛される資質とハイレベルの芝居、中学時代に熱中したサッカーを通して育まれた持ち前の身体能力が絶妙なバランスで一つになり、爆発したのが、『キングダム』(19)で演じた戦災孤児の主人公、信だったのは言うまでもない。

彼がこれまでの活動で見せてきた姿勢が信のまっすぐな生き様とピッタリ重なり、『キングダム2 遥かなる大地へ』(22)、『キングダム 運命の炎』(23)で爆発させたキレッキレのアクションが天下の大将軍になることを夢見る彼の戦いに説得力をもたらした。その成功は、多くのファンが熱狂&興奮し、シリーズが大ヒットし続けていることが証明している。

■心と体に多くの傷を抱えながらも、心根の優しさを見せる杉元佐一を全身で体現!

そして、次なる高みを目指す山崎が、満を持して挑んだのが『ゴールデンカムイ』だった。明治末期の北海道を舞台にアイヌの莫大な埋蔵金争奪戦をスリリングに描く本作で彼が扮したのは、日露戦争の激戦地、二百三高地での鬼神のような戦いぶりから“不死身”の異名をとる元軍人、杉元佐一。金塊の行方を探す彼は、ヒグマに襲われたところをアイヌの少女アシリパ(山田杏奈)に助けられ、彼女と行動を共にすることになる。

本作の完成報告会見では、松橋真三プロデューサーが「(原作者の)野田先生が『山崎さんは杉元と本質的に似ているところがあると思う』と仰っていました」とコメント。「私が思うに、カッコよくて強いだけではなく、心根の優しさや器の大きさ、多くを語らずに行動で示すところを見て直感的にそう感じられたんだと思います」と補足したが、劇中の山崎はその言葉通り、杉元佐一そのものだ。

山崎も「戦争に行く前の、彼の心優しい部分から丁寧に作っていくことができたのはよかったですね」と語っていたが、強さを印象づけるために体重を10kg増量したこともあり、これまで以上にたくましさを感じられる。大衆浴場のシーンでは、そのひと回りデカくなった美しい肉体に目が釘づけになるに違いない。

それこそ、二百三高地での激戦のシーンでは敵兵を次々に倒していく杉元をワンカットで撮った壮絶なアクションに圧倒されるが、山崎は「あの長回しは、“不死身の杉元”を表すうえでとても意味のあるものだったと思います」と述懐。「“やられる前にやる”、杉元の鬼神のような部分も出せたらいいなと思っていましたからね」。

山崎はほかにも、雪山でヒグマと攻防戦を繰り広げたり、ハンパなく寒い北海道で馬に引きずられたソリの上で雪を浴びながら闘ったりする決死のアクションにも果敢にチャレンジ。「北海道まで行って撮影した意味が間違いなくありました」と胸を張るが、大自然の本物の寒さと脅威が彼のアクションをよりスリリングなものにし、「不死身の杉元だー!」という決めゼリフも血の通ったリアルなものにしていた。

■人間性を取り戻す杉元を表現した山崎の新境地

ゴールデンカムイ』ではそれだけでなく、新境地を拓いた山崎を目撃することになる。一人の青年の成長を描いたこれまでの出演作と違い、「戦争で傷ついた杉元が、アシリパさんと出会い、忘れてしまっていた人間として大切なものを取り戻していくところを表現したかった」と山崎が語る杉元佐一のキャラクターには深い人物造形が見て取れる。しかも、アシリパや天才脱獄犯の白石由竹(矢本悠馬)と一緒に食事をするシーンでは、ポーカーフェイスを装う杉元にどこかとぼけた山崎の天性のキャラが見え隠れして、緊張感が連続する映画に微笑ましい笑いと温もりをもたらしていた。

これぞ、現時点での山崎賢人の究極の姿!もちろん彼の挑戦と内なる能力がさらに覚醒する日々はこれからもまだまだ続くし、安倍晴明に扮した『陰陽師0』(4月19日公開)、『キングダム 大将軍の帰還』(7月12日公開)がすでに待機中。『ゴールデンカムイ』の続編も今回の大ヒットを受けて製作されるのは間違いないだろう。強く、美しく、しなやかに進化する山崎が、この先も日本の映画シーンのトップを走り続ける。

文/イソガイマサト

山崎賢人の「崎」は「たつさき」、アシリパの「リ」は小文字が正式表記

『ゴールデンカムイ』で覚醒した俳優、山崎賢人のスゴさと魅力を再確認!/[c]野田サトル/集英社 [c]2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会