紅海を航行する艦船に対してイエメンからミサイル攻撃を行っていた武装勢力「フーシ派」に対して、米英が拠点攻撃を開始しました。この攻撃は国際法上、認められる行為なのでしょうか。また自衛隊はそれに加わることは可能なのでしょうか。

米英が徹底的な反撃をスタート

2024年1月12日インド洋と地中海とを結ぶ重要航路である紅海に面したイエメンの領域内で、同国の反政府勢力「フーシ派」に対するアメリカ軍イギリス軍による共同の航空攻撃が実施されました。

それまでは、フーシ派による民間船舶への攻撃に対して、両国の軍艦や戦闘機が飛来する対艦ミサイルなどを撃墜することに徹してきましたが、この航空攻撃により中東情勢は新たな展開を迎えたといえるでしょう。

これ以降もフーシ派に対する攻撃はアメリカ軍戦闘機巡航ミサイルなどにより継続的に実施されており、1月23日には再びイギリス軍も加えた共同での攻撃作戦が行われています。

こうした攻撃を実施するからには、しっかりした法的根拠が必要になります。この点に関するアメリカおよびイギリスの主張は、一貫して「自衛権の行使」です。

現在の国際秩序の基本的なルールである国際連合憲章、いわゆる「国連憲章」において、国家による武力の行使(軍事力の行使)は原則、禁じられています。しかし、例外的に武力行使が許されるのが、自国に対して加えられた攻撃から国を守るための権利、すなわち自衛権を行使する場合です。

今回のケースでは、紅海において民間船舶の防護にあたっていた両国の軍艦に対して、フーシ派がミサイル攻撃を実施してきたことを受けて、自衛権を行使する形でミサイルの発射拠点などを攻撃したという整理(法的解釈)がなされています。

国際法上、軍艦はその所属国を代表する存在として扱われます。そのため、当該軍艦に対して意図的な攻撃が行われた場合、それはその国に対する攻撃とみなされ、今回のような自衛権の行使も正当化される、こういう流れです。

日本は何らかの措置とれるのか?

ただし、攻撃を受けたからといって、自衛権に基づく無制限な攻撃が認められるわけではありません。自衛権の行使に際しては、それ以外に事態に対処する適当な手段がないと考えられる「必要性」と、攻撃を止めさせるという目的と実際に相手に与える被害とのバランスを求める「均衡性」という、2つの要件を満たす必要があります。今後の攻撃に関しては、とくに均衡性の観点からどのような目標選定が行われるのかが注目されます。

また、もう1つ注意が必要なのは、この攻撃はあくまでも軍艦への攻撃に対応するためのものであり、現在、紅海において実施されている、民間船舶の保護を目的とした国際的な取り組みである「繁栄の守護者作戦」とは区別しなければならない、という点です。

「フーシ派のミサイル攻撃能力を削ぐ」という意味では、両者は関連しているといえるものの、法的には区別されるということになります。

それでは、こうしたアメリカやイギリスの軍事行動に関連して、日本も何らかの軍事的な措置をとることはできるのでしょうか。

結論からいえば、現状では不可能です。まず、法的な側面から見てみると、たとえば紅海を航行する日本船籍の民間船舶や海上自衛隊の艦艇に対して、意図的かつ継続的な攻撃が行われたとなれば、これに対して武力を行使することや、あるいは海上における警察活動の一環としてミサイルの撃墜などを行うことは可能です。しかし現時点では、いずれの事態も発生していないため、直接、軍事的な措置を日本政府がとることは法的に不可能です。

また、軍事的な能力に着目しても、現在、紅海に派遣されている海上自衛隊護衛艦が備えているのは自艦に向かってくるミサイルを撃ち落とす能力のみで、敵のミサイル発射装置を直接破壊できるような能力はありません。そのため、現状では法的にも能力的にも日本が何らかの措置をとることはできないといえるでしょう。

いずれにせよ、紅海は世界経済にとって重要な海域であり、その航行の安全が脅かされるとは事実です。そのような事態が一刻も早く終結することを、切に願うばかりです。

誘導爆弾を搭載して出撃準備中のイギリス空軍「タイフーン」戦闘機(画像:イギリス空軍)。