新型コロナ禍で、我々は多くのものを失った。ある人は仕事を、ある人は経営していた店を、全ての国民が大切な人と過ごす時間と思い出を。だが唯一、医者だけは得るものの方がはるかに大きかったようだ。

 自民党の最大支持団体、日本医師会の政治団体「日本医師連盟(日医連)」は、2025年の参院選に日医常任理事の釜萢(かまやち)敏氏を組織内候補として擁立する方向であると、釜萢氏が開業する北関東の地方メディアが報じた。釜萢氏は新型コロナウイルス対策の政府分科会委員を務めた人物だ。日医連は1月30日の執行委員会で正式決定し、自民党に比例代表候補として公認申請する方針だという。

 2020年春、未知の新型コロナウイルスが日本に上陸した当時、新聞やテレビで解説していた釜萢氏をご記憶の方は多いかもしれない。だが医療業界では別の意味で、有名人である。政治通の都内開業医によると、

「釜萢さんが自民党の派閥に政治献金しているのは、この業界では有名な話です。ただ、名義は日本医師会の関連政治団体『国民医療を考える会』(東京・駒込、日本医師会と同住所)で、その代表が釜萢さんです。この会の政治資金収支報告書によると、2021年9月27日麻生派『志公会』に4000万円を献金しています。2021年9月当時、地方自治体厚労省は2022年度の新型コロナ対策について、予算や診療治療体制の見直しにあたっていた。さらに2022年度の診療報酬改定で、『志公会』の派閥の長で当時は財務大臣だった麻生太郎氏は、医師が手にする診療報酬の引き上げに猛反対する立場でした」

 資産家の麻生氏が日本医師会の「実弾攻撃」で忖度するはずもなく、むしろ麻生氏は当時の日本医師会長の中川俊男会長を「アレはいかん」と名指しで批判していたほどだ。

 最終的に2022年度の診療報酬改定は財務省の要求から大幅に軌道修正された、マイナス改定に落ち着き、4000万円の献金で麻生氏の政策方針が覆ることはなかったように見える。だが、あまりに露骨な「政治的圧力」をかけていた釜萢氏が、自民党の裏金問題の真っ只中に次期参院選候補に挙がったことに、身内の日本医師会会員ですら呆れているという。政治部デスクも言う。

自民党の裏金問題を突き詰めて考えると、派閥解消や連座制の適用にとどまらない。たとえそれが合法的であっても、自公政権に多額の政治献金をした業界団体に利益供与をもたらす政策決定が問題なんです」

 釜萢氏の名前で麻生派4000万円の政治献金が送られた2021年9月当時、欧米諸国ではすでに新型コロナ前の日常生活に戻っていた。ところが釜萢氏はまる1年後の2022年9月になっても「新型コロナ患者のために病院のベッド確保が必要」「新型コロナの第9波が来ている」「急に体制を戻したら混乱が生じる」と意味不明の主張を続けた。

 結果として2021年9月から、新型コロナが感染5類感染症になる2023年5月までの1年半余り、全国の病院はタダで入院する老人で満床になり、日本国内の子供や大学生は学校行事の機会を奪われ、多くの有権者の仕事が奪われた。

 そんな人物が参院議員になり、国民に健康保険料値上げと増税を強いるのであれば、参議院の議員定数など直ちに半減させるべきだろう。

(那須優子/医療ジャーナリスト)

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