東京メトロが2024年度に株式上場となる見込みです。株式会社の設立から20年。早くから上場の話はありましたが、なぜ今までしなかったのでしょうか。また、今後どうなるのでしょうか。

株式会社なのに長らく「国と都がほぼ独占」

日本経済新聞は2024年1月27日、政府と東京都東京メトロの株式を2024年度にも上場させ、保有株の売却を始める方針を固めたと報じました。

東京都小池百合子知事は26日の記者会見で、都が2024年度予算案に東京メトロ株式の売却費用を計上したことに関連し「具体的には今後、関係者と協議しながら進めていくことになる」と言及。売却時期に関しては「市場が関係することなので公正な方法で決定することも必要だ」と述べました。

そもそも東京メトロが未上場なのを知らなかったという人もいるかもしれません。東京メトロの発足からはや20周年を迎えますが、民営化イコール上場ではありません。前身の営団地下鉄が国と東京都の出資で設立されたため、東京メトロ株式の主な保有割合は今も「53.4%が政府、46.6%が都」となっています。

帝都高速度交通営団営団地下鉄)の民営化は、国鉄や電電公社の民営化と同じく、1980年代の「臨時行政調査会(臨調)」の答申に基づく特殊法人改革の一環として決定されました。政府は1987(昭和62)年、「地下鉄ネットワークがほぼ概成し、路線運営が主たる業務となる時点における完全民営化を目標とする」と閣議決定し、国と都の株式を全て売却して完全民営化を目指す方針を示しました。半蔵門線水天宮前~押上間が開業し、副都心線の開業に目途が付いた2004(平成16)年に東京メトロが誕生しました。

根拠法である「東京地下鉄株式会社法」や前述の閣議決定が“できる限り速やかな株式売却”を定めていたように、筆者が東京メトロに入社した2006(平成18)年頃、社内は「上場は秒読み」という雰囲気だったことを覚えています。

上場を先延ばしにした張本人は…

とはいえ株式上場は株主、つまり国と都の同意がなければ実現しません。政府は会社法に基づき早期の株式売却を求めましたが、都が売却に消極的な姿勢を貫いたため、「できる限り速やか」とされた上場は延期されます。

その後、東日本大震災を受け、2011(平成23)年に成立した「復興財源確保法」は東京メトロ株式売却益を東日本大震災の復興財源に充てると決定しましたが、当時の猪瀬直樹東京都知事が東京メトロ都営地下鉄の経営一元化を主張し、株式の売却に反対したことで売却は頓挫します。

しばらく膠着状態が続きますが、ようやく2021年になって国土交通大臣の諮問機関である交通政策審議会が、政府と東京都が保有する株式のそれぞれ半分を売却して上場する答申をまとめました。

審議会はあわせて「首都・東京の国際競争力を更に強化する観点に加え、観光客の目的地への円滑なアクセスや流動分散など快適な移動手段の確保の観点」から、かねて東京都が整備を求めていた東京8号線(有楽町線)豊洲~住吉間を早期に事業化すべきと答申します。

東京メトロはそれまで、8号線延伸の整備主体となることは極めて困難と表明していましたが、答申は「運賃水準や乗換利便性など利用者サービスの観点や整備段階での技術的な観点からも、東京メトロに対して事業主体としての役割を求めることが適切」と結論付けました。

答申は「これまでの閣議決定や法律において完全民営化の方針が規定されていることを踏まえ」、8号線延伸の「事業主体となることと一体不可分のものとして東京メトロ株式の確実な売却が必要」として、事実上、東京メトロが8号線の建設を受け入れる見返りに、都は株式の売却に同意することとなりました。

で、株式上場でこれから何が変わっていくの?

売却同意の背景として、今年に入って日経平均株価が3万6000円を超えるなど、株式市場が空前の活況を迎えています。株式売却を引き延ばす理由はなく、早いうちに株を売却したい国の意向が反映されたと思われます。

ただ前述の審議会は、新線建設を確実なものにするため「国と東京都が当面株式の1/2を保有することが適切」とも答申しており、相変わらず完全民営化の見通しは立っていません。

では東京メトロが上場すると何が変化するのでしょうか。多くの国、都市の地下鉄は公営または半官半民で運営されており、株式上場を果たした地下鉄事業者は香港MRTを運営する「香港鉄路」くらいでしょう。

同社は2000(平成12)年に香港証券取引所に上場しましたが、現在も香港政府が株式の過半数を保有しており、完全民営化はしていません。ただ民営企業として不動産など関連事業の推進、ロンドンやストックホルム、北京といった他都市の鉄道運営参入など、「積極的な事業拡大」が目につきます。

東京メトロも近年、ハノイホーチミン、マニラの地下鉄建設に協力するなど海外事業の展開に注力していますが、実際は「国際協力」の範疇を越えていません。また民営化以降、拡大してきたはずの関連事業も十分な存在感を発揮できていません。東京も遠からず人口減少社会が到来する中、国内需要の開拓は限界があります。上場を迎える東京メトロは今後、どのような事業戦略を取っていくのか問われることになるでしょう。

東京メトロ発足後初の新路線となった副都心線(画像:写真AC)。