「すべては南朝鮮傀儡一味の仕業だ」

北朝鮮で何らかの事件が迷宮入りしたり、問題が解決しなかったりした場合に、罪をなすりつけられるのはたいてい、南朝鮮(韓国)だ。

反韓感情を煽って内部結束を高めたり、不満を外部に逸らせるのが目的だが、それだけではない。大々的な捜査やキャンペーンを行っても解決しなければ、担当者やその上司のクビが飛ぶことになる。それを避けるために韓国がやったことにする。手の届かない相手だけあって、「じゃあしょうがないか」ということになるようだ。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、社会安全省(警察庁)が最近、咸鏡南道安全局(県警本部)に下達した資料の中身について言及した。

一般国民向けのこの教育資料には次のような一節がある。

「今年に入って増加している麻薬(および覚せい剤)生産と密売犯罪行為は、わが共和国(北朝鮮)を孤立、圧殺しようとする米帝とその走狗である南朝鮮(韓国)の策略に歩みを合わせた内部雇用スパイどもの策動だ」

平安南道(ピョンアンナムド)の内部情報筋も、現地の安全員(警察官)がこの資料を用いて、ピンドゥ(覚せい剤)生産・密売に手を染めた犯罪者について、「米帝と南朝鮮の反共和国圧殺策動がかつてないほど酷くなっている今、敵の指示と謀略に歩調を合わせ、わが国社会を病ませようとする策動の先頭に立っている者ども」と批判したと伝えた。

このような学習が行われている背景には、上述の通り、新年早々に咸鏡南道と平安南道で違法薬物のの製造・流通・密売・乱用といった犯罪が前年同期比で倍増したことがある。

20日には咸興(ハムン)で、21日には平城(ピョンソン)で麻薬事犯に対する公開闘争(公開裁判)が行われた。

麻薬、覚せい剤の問題を韓国のせいにして、「麻薬犯罪との闘いは、共和国の息の根を止めようとする敵どもとの対決で死ぬか生きるかの階級闘争」と思想教育を行っているわけだ。

しかし、国民の反応は冷淡なものだ。

「(1990年代後半の)苦難の行軍の時代、国が人民を飢えるがままにしたせいで、麻薬で金儲けをする人が現れたのに、敵の謀略のせいにしている」

そもそも、北朝鮮の薬物汚染は身から出た錆だ。

深刻な外貨不足を解決するために、故金正日総書記は、アヘンを栽培して国外に密輸出するプロジェクトの実行を命じた。また、覚せい剤の密造、密輸も行われた。それらが横流しされて国内で流通するようになり、中毒者が激増した。

不足する医薬品の代用品としてアヘン覚せい剤が使われたことも、蔓延を煽った。2013年に刑法を改正し、「不法アヘン栽培・麻薬製造罪」を新設、取り締まりに乗り出したが、時すでに遅く、今に至るまで根絶には至っていない。

情報筋は、「ますます生活が苦しくなり、人々は一攫千金を狙って麻薬でも何でもやろうとするが、公開闘争で解決されるだろうか」と当局のやり方に疑念を示した。

金正恩総書記は、北朝鮮経済を、対中貿易に極度に依存した市場経済から、1980年代以前の社会主義計画経済に戻そうとしている。それにより現金収入の手段を失う人が相次いでいる。

それに伴う不満を、もはや平和統一の対象ではなくなった韓国に向けて乗り切ろうという目論見があると見られる。

故金日成氏が描かれた紙幣でパイプをつくって覚醒剤を吸引する様子/撮影:デイリーNK