母が有毒植物の実によって急死――本書はそんな衝撃的な展開から幕を開けます。

女は、旦那様に一生愛されるのがしあわせなのよ――。そう語っていた専業主婦の母は、仕事に精を出す珠美子とは何もかも異なる存在だった。困惑のなか遺品整理に出向いた珠美子は、実家を訪ねてきた端正な顔立ちの若い男性・雪仁と出くわします。園枝の死を知った雪仁は震えて嗚咽するばかり。良妻賢母の見本のような園枝と雪仁の関係は一体……。そして母の死は事故なのか、自殺なのか、それとも。スリリングな展開のなかに、すれ違いながらぶつかりあう母と娘を活写した連作集です。

著者の森美樹さんは2013年に「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、受賞作を収録した『主婦病』が女性読者を中心に大きな話題を呼びました。本作は『主婦病』同様、「母」に無言のうちに課された重荷やそこからの解放を描いた作品です。文庫解説を寄稿いただいた三宅香帆さんは「母と娘の葛藤を描いた物語や、あるいは母が家事や育児に追い詰められる話は世の中にたくさんある。しかし本作くらい、母の欲望を抉り出した物語はないのではないだろうか」と高く評価されました。

自分もまた「母」や「妻」、そして「女性」という役割に捕われているのではないか――。ほんの少しでもそう感じたことのある方に、ぜひ読んでいただきたい作品です。

■著者略歴

1970(昭和45)年、埼玉県生れ。1995(平成7)年、少女小説家としてデビュー。その後5年間の休筆期間を経て、2013年、「朝凪」(「まばたきがスイッチ」と改題)で、R-18文学賞読者賞を受賞。おもな著書に受賞作を収録した『主婦病』、『私の裸』『神様たち』『わたしのいけない世界』などがある。

■書誌情報

【書名】母親病(新潮文庫刊)

【著者名】森美樹

【発売日】2024年1月29日、電子書籍も同日配信開始

【定価】693円(税込)

【ISBN】978-4-10-121193-0

配信元企業:株式会社新潮社

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