一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は、ASEAN+3マクロ経済研究所(AMRO)によるフィリピンの経済成長の見通しと、IMFによるAI活用についてのフィリピンへの提言についてレポートしていきます。

2024年も「フィリピン」は高成長が期待されるが…

ASEAN+3マクロ経済研究所(AMRO)によれば、フィリピンは強靭な国内需要に支えられ、今年地域内で最も高い成長する経済として予測されています。

その最新の地域経済見通しによれば、フィリピンの国内総生産(GDP)成長率は、2024年は6.3%であり、これは11月の年次調査レポートと変わらないものです。この成長率は、ASEAN諸国の中で最も速く、カンボジア(6.2%)、ベトナム(6.0%)、インドネシア(5.2%)などを抑えています。また、ASEAN+3地域全体でも、フィリピンは中国(5.3%)、香港(3.5%)、韓国(2.3%)、日本(1.1%)よりも成長が見込まれています。

一方で、AMROは、今年の成長にはいくつかのリスク要因があると指摘しています。それは、世界的な商品価格の急上昇、中国の経済成長の鈍化、米国の金融引き締め継続、米欧での景気後退の可能性、米中の地政学的緊張などです。また、エルニーニョ現象による穀物価格の上昇も懸念されています。

AMROは、ASEAN+3地域全体で2024年の成長率を4.5%と予測。これは2023年の4.4%よりもわずかに高い数値です。一方でフィリピンの2023年の成長率着地を5.6%と予測しています。これも地域内で最も高い成長率です。ただし、政府の6~7%の目標は下回りました。

さらにインフレ率については、フィリピンの2024年の予測を3.6%としており、これはフィリピン中央銀行(BSP)の予測3.7%よりもやや低い数値です。世界的な商品価格の正常化に伴い、2024年のヘッドラインインフレは緩和傾向を維持すると見ています。

一方で、BSPインフレが目標範囲内に収まるまで金利を締め続ける必要があると指摘しています。BSPは2022年5月から2023年10月までに政策金利を累積で450ベーシスポイント、16年ぶりの6.5%に引き上げました。

世界の雇用の4割に影響を与えるAI…フィリピンでは?

国際通貨基金(IMF)は研究を通して、人工知能が世界の雇用の約40%に影響を与える可能性があると見ています。人間の仕事を補完するとされつつも、ある分野の仕事に取って代わり、経済的な不平等を悪化させる可能性があるとも指摘しています。

先進国では、雇用の約60%が人工知能の影響を受けると予想され、その半分は人工知能によって労働生産性が向上し、他の半分は人間が行っているタスクを実行できるため、労働需要が低下し賃金が減少する可能性があるとしています。また技術によって自動化可能な仕事にはリスクがあり、人々にこれらの技術を活用して競争力を高める方法を教育する必要があるとしています。さらに、企業や組織は影響を受ける従業員をサポートするために新しいスキルを身につける手助けをするべきだとしています。

IMFは、フィリピンは、先進国と同様にサービスセクターへの依存の大きい経済構造となっているものの、インフラストラクチャーと知的労働力の不足という点で、先進国に大きく後れを取っていると指摘しています。人工知能(AI)技術への移行はフィリピンのサービスセクターにおいて労働生産性を向上させる可能性があり、またフィリピン経済が早期にサービスベースの経済に構造変革したことから、デジタルスキル通じてサービスセクターの労働生産性を向上させることが不可欠であるとしました。これには労働力のスキル向上が含まれ、人工知能ツールをフル活用して付加価値の高い分野に進むこと、都市圏外でのデジタルインフラの充実が必要としています。

Oxford Insightsの2023年の政府AI準備指数では、フィリピンは193ヵ国中65位の51.98のスコアを記録しています。これは44.94のグローバル平均よりは高いですが、IMFは、フィリピン政府がもっと積極的にAIの採用を主導するべきだと主張しています。安定したエネルギー供給やインターネット接続など、AIを受け入れるためのインフラ整備が必要であり、ビジネスや政府機関が生産性向上を図るためのツールの採用を奨励するための努力も必要だとしています。

写真:PIXTA