NTTインターコミュニケーション・センター(以下・ICC)では2023年12月16日から2024年3月10日にわたり、『坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア』が開催されている。同展覧会では2023年3月に逝去した音楽家坂本龍一の遺した演奏データをもとにした作品や坂本氏と関わりのある作品などが展示され、氏の活動を継承・展開することに加え、「未来に向けた坂本龍一像を提示すること」を試みる。

【画像】坂本龍一とライゾマティクス・真鍋大度による2014年の共作をアップデートした展示作品

 展覧会を企画するICCは、NTT東日本が運営するメディア・アートの展示を中心とした文化施設である。施設の開館は1997年だが、ICCの基本構想は1990年より検討されており、91年には初のオンライン企画展「電話網の中の見えないミュージアム」を開催、ICCと坂本の関わりはこの企画展から始まったという。その後も節目の展覧会ではいくたびも坂本との交流があったほか、過去にはICCで委嘱制作した坂本と高谷史郎による作品が海外で展示されたこともあり、メディア・アーティストとしての彼の活動にICCは深く関わってきた。

 進化する技術に眼差し、自身の表現にそれを活用する方法を考え続けていたという点で、坂本は日本を代表するメディア・アーティストであると言えるだろう。楽器や音楽メディアのデジタル化にも早くから取り組み、95年からインターネット・ライブを主催、ただライブをするだけにとどまらず、インターネット越しに観客の拍手を可視化する仕組みや、体の動きを音楽に変える楽器(YAMAHAMiburi』)を導入するなど、後年のインターネット・カルチャーの姿を見通しているような活動も多い。

 また坂本は映像と音楽の関わりを探求した作家でもあり、氏の代表的な仕事である『ラストエンペラー』『戦場のメリークリスマス』などの映画音楽バルセロナ五輪の開会式の音楽なども「表現のための音楽」として作られたものである。2000年代以降のいずれの経歴を振り返っても、彼が自身の活動のフィールドを音楽のみに限定せず、多様な表現とその保存・伝達を実現するデジタル・メディアの可能性について常に考え、実践してきた作家だということがわかる。

 今回の展覧会は坂本の逝去を受け、ICCの主任学芸員である畠中実とライゾマティクスの真鍋大度が共同でキュレーションを努め、開催に至った。真鍋は、坂本と高谷史郎(ダムタイプ)が2007年に共同で制作したインスタレーション『LIFE – fluid, invisible, inaudible …』のビジュアル・プログラミングを担当したことをきっかけに坂本との親交を深め、電磁波を可視化するインスタレーション『Sensing Streams2014)』を共作するに至った。また、2020年にはオンライン・ピアノコンサート『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020』の演出をライゾマティクスがつとめている。今回のトリビュート展では2014年に制作したもののアップデート版となる『センシング・ストリームズ 2023-不可視、不可聴』(ICCヴァージョン)も展示されるほか、2020年のピアノ・コンサートに際して収集した坂本のアーカイヴデータをもとにした新作『Generative MV』も展示されている。

 展覧会の開催に当たり、昨年12月15日には畠中氏・真鍋氏が登壇する記者発表会がおこなわれた。開催の経緯について、畠中氏はICCと坂本の深い関わりを振り返りつつ、展覧会のテーマを「音楽家としてだけではない、アーティストとしての坂本さんの活動にクローズアップし、それを継承していくこと」と語り、坂本との縁も深い真鍋氏と共同でこの企画をスタートしたという。

 作品の制作にも深く関わった真鍋氏は、2020年のピアノコンサートで行ったデータの収集に触れ、「まだ活用されていない坂本さんの生データがたくさんあった」とし、こうしたデータが今回展示した『Generative MV』の制作に活かされたという。くわえて、AIを活用した本作品の制作に当たっては「過渡期である今しかできない表現を意識した」と語る。

「今回使っている技術というのはおそらく今後、どんなアーティストにも関係してくる技術ですし、そこで新しい表現も生まれてくるだろうと予想しています。坂本さんも新しいテクノロジーと向き合い続けた人で、ただツールとして使うだけではなく、そこに問題提起をしていたりという活動をされてきた方ですし、彼が実際にAIを使って制作をするならデータを残すだけではなく、それを使って新たな表現をどう生み出すのかということに向き合ったのかなと思うので、そういった意思に思いを馳せながら制作しました」(真鍋)

 展示会は3月まで行われ、坂本と生前親交の深かったアーティストらが出品している。興味があればぜひ訪れてみてほしい。

■開催概要
坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア』
日時:2023年12月16日(土)~2024年3月10日(日)
場所:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]
出品作家:坂本龍一、ストレンジループ・スタジオ、高谷史郎、ダムタイプ、カールステン・ニコライ、カールステン・ゲープハルト、404.zero、カイル・マクドナルド、毛利悠子、ライゾマティクス、李禹煥ほか

〈サムネイルクレジット:Photo by Neo Sora ©2022 Kab Inc.〉

(取材・文=白石倖介)

Photo by Neo Sora ©2022 Kab Inc.