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 地球最強生物と言われている小さな緩歩動物「クマムシ」は、ありとあらゆる環境に生息することが可能で、危機的状況に陥ると、代謝をほぼ止めて乾眠状態(無代謝の休眠状態)に入る。

 これにより極度の乾燥や低温・高温、真空から高気圧、放射線にも耐えられる。銃で射出されて砂に叩きつけられても死なないのだ。

 そんなクマムシの能力の秘密がまた1つ解き明かされた。極限環境に晒されたとき、乾眠モードに切り替える分子スイッチが特定されたそうだ。

 最強の生物らしく、乾眠モードの発動には人体に有害なはずの「活性酸素」が使われるという。

【画像】 クマムシが最強な理由は乾眠にある

 地球最強生物と称されるクマムシの伝説は枚挙にいとまがない。

 普通の生物には耐えられないような極端な暑さや寒さ、乾燥状態に耐えることができるし、銃で射出されても死なない。宇宙の放射線にも耐えるし、なんなら月への墜落すら生き延びた可能性がある。

 その防御力の秘密は、ストレスを受けると発動される「乾眠」にある。彼らが乾眠状態に入ると、代謝が極端なほどに遅くなり休眠した状態となり、周囲の環境に対して圧倒的な防御力を発揮するようになる。

 クマムシがこの乾眠モードに入る生物学的プロセスについてはすでに明らかになってるが、それが何によって発動するのかは、これまで不明のままだった。

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 今回ノースカロライナ大学チャペルヒル校などの研究チームはその謎に挑み、「システイン」というアミノ酸にある分子センサーが、休眠モードを発動させる分子スイッチとして機能していることを明らかにした。

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CC-BY 4.0

極限状態になると活性酸素がたまり乾眠モードが発動

 クマムシはおよそ1000種以上(海産のものは約170種)が知られているが、今回の研究では、ドゥジャルダンヤマクマムシ(Hypsibius exemplaris)を「マイナス80℃の低温」「高濃度の過酸化水素」「高濃度の塩・砂糖の溶液」など、数々の過酷な環境にさらし、乾眠モードにしながら、その体内で起きていることを観察した。

 このような極限状態になると、クマムシの細胞内には「活性酸素種(ROS)」がたまり出す。

 活性酸素とは非常に反応しやすい酸素のことで、強い酸化作用がある。

 私たちの体では免疫や細胞伝達物質に関係しているが、あまりに増えすぎると体を老化させたり病気の引き金になったりする。

 だがクマムシにとっては乾眠に切り替わるためのサインとなる。強いストレスにさらされたクマムシの体内に活性酸素がたまると、それがアミノ酸の一種「システイン」の分子スイッチを酸化させ、これをきっかけに乾眠状態に突入するのだ。

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 実際、クマムシのシステインが機能しないようにしてしまうと、休眠モードが発動しなくなるという。

 人体には有害な活性酸素も、クマムシにとっては生存のためのツールに過ぎないようだ。だがクマムシが最強である理由は完全に解明されたわけではない。

 今後はどんな発見があるのか?月にちゃっかり住みついちゃってるかもしれないクマムシに思いを馳せながら、その報告を待つことにしよう。

 この研究は『PLOS ONE』(2024年1月17日付)に掲載された。

References:Molecular sensor enables water bear hardiness | EurekAlert! / We finally know just how tardigrades are all but invincible under stress / written by hiroching / edited by / parumo

 
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地球最強生物「クマムシ」の秘密が明らかに。防御モードを発動させる分子スイッチが判明