生活がますます苦しい「年金生活者」の元に1通のチラシが…

厚生労働省から令和6年度の年金額について発表があり、国民年金(老齢基礎年金)が満額支給の場合は、「令和5年度」月6万6,250円から「令和6年度」月6万8,000円と、1,750円アップ。高齢モデル夫婦(平均的な収入で40年間就業した場合の夫と、40年間専業主婦だった妻、国民年金は満額支給)が手にする厚生年金は、「令和5年度」月22万4,482円から「令和6年度」月23万0,483円と、6,001円アップとなりました。

マクロ経済スライドによる調整により年金改定率は2.7%のプラス。しかし物価変動率は3.2%プラスなので、年金額は実質目減りとなります。収入のすべてが年金だけという高齢者世帯が半数近くを占めるなか、年金生活者の家計はますます厳しくなるばかり。

厚生労働省令和4年厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、国民年の平均月額受給額は月5万6,428円、厚生年金受給者の平均月額受給額は、併給の国民年金と合わせて14万4,982円です。これは額面なので、厚生年金の平均は額面の85~90%、12.3万~13万円ほどになると考えられます。

東京都23区、65~69歳の生活保護費(生活扶助基準額7万6,880円、住宅扶助基準額5万3,700円)は、13万0,580円。収入は年金だけ、貯蓄も心許ない程度……そんな、65歳の元サラリーマンであれば、生活は生活保護水準スレスレ、またはそれを下回ります。毎日生きるだけで精一杯、といった状況にあるといえるでしょう。

そんな生活苦の高齢者の自宅に入れられる1通のチラシ。

――年金を担保にお金を貸します

生活が苦しい……と悩んでいる高齢者のなかには「ぜひ、お願いしたい!」と前のめりになる人も。

年金を担保に借入ができる制度として、福祉医療機構が実施していた「年金担保貸付制度」が知られていましたが、こちらは令和4年3月末で申込受付を終了。日本年金機構は、以下のように注意を促しています。

Q.年金を担保にお金を借りることはできますか。

A.お答えします

年金を担保に金銭の借入申込を受けることは、例外なく全て法律で禁止されています。

違法な年金担保融資にくれぐれもご注意ください。

そう、年金を担保にお金を貸す行為は法律違反。前出のチラシは生活苦の高齢者を狙った「詐欺」の可能性が高く、誘い文句にひかれて電話した先には、思わぬ事件に巻き込まれる可能性が……年金を担保とした事件としては、悪徳業者が高金利で貸付を行うもの、担保価値のない物品を質に取り実際には年金などを担保として高金利で貸付を行う「偽装質屋」などが報告されています。現在、「年金を担保にお金は借りられない」という事実を、まずは知っておくべきです。

生活に困窮する年金生活者「お金を借りて」生活を立て直す方法

――誘い文句に釣られて……愚かでした。でも生活が苦しくて、どうしたらいいのか

止まらない物価高に、悲鳴をあげる年金生活者。「年金を担保にお金を貸す」といわれたら、ついついという人もいるでしょう。ただ前出の通り、年金を担保にお金を貸す行為は法律違反。生活資金等で困っているなら、まずは地域の相談窓口に相談するのが正攻法。どのような支援制度やサービスが必要か、支援員が問題解決に向けた計画を作成してくれます。

また一定の審査要件を満たす場合は、社会福祉協議会が実施する「生活福祉資金貸与制度」を利用し、生活再建を考える手も。

これは、都道府県の社会福祉協議会が資金の貸付けと必要な相談や支援を行う制度で、対象となるのは、必要な資金を他から借りることが困難な「低所得者世帯」、障害者手帳などの交付を受けた人が属する「障害者世帯」、65歳以上の高齢者が属する「高齢者世帯」。

生活福祉資金」には、「総合支援資金」「福祉資金」「教育支援金」「不動産担保型生活資金」の4種類がありますが、「総合支援資金」は、生活を立て直し、経済的な自立を図ることができるようにするために、生活支援費や住宅入居費、一時生活再建費などの貸付けを受けられる制度です。

生活支援費は、生活を再建するまでの間に必要な生活費として、原則3ヵ月間(最大12ヵ月間まで延長可能)、月20万円(単身者は月15万円以内)までの貸付けを行うもの。住宅入居費は、住宅の賃貸契約を結ぶための資金として、40万円までの貸付けを行います。連帯保証人なしでも貸付けを受けることができ、連帯保証人がいる場合は無利子、連帯保証人がいない場合は年1.5%での貸付となります。

貸付要件は、「市町村民税非課税程度で、生活に困窮する低所得者世帯であること」「公的な書類などで本人確認が可能であること」など6項目があります。

生活福祉資金貸与制度」は、あくまでも「お金を借りて、生活を立て直すこと」が目的の制度。「お金に困っている、お金をくれ」という声に応える制度ではないので、利用の際に注意が必要です。

[参考資料]

厚生労働省『令和6年度の年金額改定について』

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』

日本年金機構『年金を担保にお金を借りることはできますか。』

全国社会福祉協議会『生活福祉資金貸与制度』