今国会(2024年1月26日6月23日までの150日間)で「離婚後共同親権を定める民法改正法案」が可決される見込みだ。日本は片方の親だけが親権を持つ、単独親権だ。単独親権の国は、他にも、インドトルコがあるが、その他の多くの国では単独親権だけでなく共同親権も認められている。

単独親権は、片親が実子を連れ去る親権確保のために精神疾患やDV加害者にでっち上げるなど、多くの問題も指摘されている。子の連れ去りやDVのでっち上げは、妻・夫のどちらにも起こる。片方で共同親権にも、DVをされた側の親が、恐怖に怯えながら子どもの面会交流を続けなければならないなど課題がある。今回の改正案はどんなものなのか。離婚後の親権問題に詳しい、東京都豊島区南大塚にある東京あかつき法律事務所の岩本拓也弁護士(55歳)に聞いた。

法務省から出されている改正案では現状と変わらない

「共同親権が今国会で審議されますが、法務省から出ている法務省案が去年公開されました。その内容が法務省の法制審議会で議論されたのですが、共同親権と言いつつ“離婚する夫婦は、自分たちで任意に話し合って、共同親権も選択できる”程度の内容にとどまっています」

 共同親権にするか単独親権にするか、夫婦で揉めた場合は、家庭裁判所で争うことになる。そうすると家庭裁判所は、恐らくは現状と同じ判断を下すことになるだろうと岩本氏は予想する。

 監護権とは、子どもと共に生活をして、日常の世話や教育を行う権利のことを指し、親権の一部とされる。日本の家庭裁判所実務においては、親権者の判断も監護権の判断と同様であり、普段子どもと過ごす時間が長い母親を親権者とすることが圧倒的に多い

「“監護継続性の原則(子どもの養育状況に問題がない場合は、それまで養育していた人が引き続き養育することが望ましいという考え方)”や“主たる監護者(その子の子育てを中心に行ってきた人のことを指す)の理論”で、同居親を親権者にし、別居親は、親権者から外すんではないのでしょうか?法務省案では原則として共同親権としつつ、DVの場合は例外として扱うとされています。ですが、この“DVの存否”を丁寧に判断しなければ、原則と例外が逆転し、共同親権が空文化するおそれがあります。特に、精神的DV概念の拡大解釈によって、些細な口論までもがDVとされ、単独親権とされることが危惧されます」

◆DVをしたという妻の言い分だけでDV加害者になる夫

「例えば、夫婦の間で子供の養育について折り合いがつかないとします。DVを主張するのは数的に妻が多いので妻といいますが、妻が夫からモラハラを受けました。それで役所や警察に相談に行きます。シェルターに一時保護されたりして、別居します。その上で、住民基本台帳事務における支援措置(DV被害者を保護するため、加害者が住所を探る目的として住民票の写しや戸籍の附票の写しを取得することを制限する制度)を受けるんです。シェルターでの保護を受けずに住所を秘匿するだけの場合もあります」

 妻側が裁判所に調停や審判を申し立てると、証拠として出てくるのは、警察や役所が発行した妻からのDVの相談票や相談履歴だ。

「いわゆるDV防止法は被害申告をした者を保護することを目的としており、被害申告されたことで生じる重大な不利益に対する手当はありません。そのため、役所は一方的な申告だけで、支援措置を取ってしまいます。加害者とされた夫には、一切弁解の機会も与えられない。多くの場合、子を連れ去られるのは夫なので、夫というけれども、夫が警察に行って捜索願を受理してくださいというと、“できません”“理由は言えません”と言われるわけです。あるいは、“多分奥さんが離婚を考えているでしょうから、弁護士からの連絡を待ってください”と言って帰されるわけです」

◆DVがあったかのような雰囲気で進んでいく裁判手続き

 場合によっては、ひと月ふた月と、何の音沙汰もない場合もある。そして、ほとぼりが冷めた頃に弁護士から通知が届く。

「“この度は、私が誰々誰子さんの代理人になりました。つきましては、私が窓口になりますので、今後一切あなたから誰子さんへの連絡をお控えください。子どもへの面会も当分認められませんのでご理解ください”ってくるわけですよ。やられた側は、自分も弁護士を立てて対応することになり、裁判所に行きます。裁判所は公平中立なところだから、一方の話だけを聞いて終わらないところだと思って、期待していくんです。ところが、そこでみんながっかりするんです

 妻が行政や警察にDVを受けたと相談して、行政が作った文書が資料として出てくると、DVがあったかのような雰囲気で手続きが進行していく。

◆家庭裁判所の調査官ですらDVのありなしを認定できない

「数年前に、ABEMA TVで、子どもの連れ去り問題特集をやっていました。家庭裁判所の元調査官が出てきて、“DVがあったかなかったかなんて、正直、私達には認定できません”と言うんです。だったら、ないものとして扱えと言いたい。だけど、形として区役所が作った資料などが出てくると、被害者の言い分だけが載っている資料が証拠として使われていっちゃうんです」

 妻へのDVがあって、子どもの面前でもDVがあったと言われると、裁判所は面会交流(子どもと離れて暮らしている父母の一方が子どもと定期的、継続的に、会って話をしたり、一緒に遊んだり、電話や手紙などの方法で交流すること)することに対して否定的な方向で考える。

「私が受け持った夫の案件では、妻側が、ある区が作ったDV相談処理表と、警察に相談したという証拠を出してきました。こちらから子への面会交流の調停(後に調停は不成立になり審判に移行)を起こしました。家庭裁判所の調査官が調査をするのですが(調査官調査)、こちらサイドの面談調査を全くやらずに、連れ去った奥さんと子どものインタビューだけをする。ほとんどは区が作ったDV相談履歴に沿って、さもDVがあったかのような調査報告書が出来上がってしまいました」

 裁判官は、当然、その調査報告書に重きを置く。直接の面会交流をすることは難しいと判断し、3ヶ月に1度、写真を1枚送りなさいという、面会と言えないような判断を下して終わったという。

◆寝る間も惜しんで働く夫ほどお金だけ取られ子に会えない

「結局、離婚調停でも、その話が独り歩きします。裁判所も‟DVがあったんでしょう”までは言えないけども、先入観から、別居している夫には、親権は難しいとなる。裁判所が従来から持っている、“物理的に子どもと関わってきた時間の長さはどっちが長いか”という基準を使われちゃうと、ほぼ親権者は母親に決まっちゃうわけですよ。寝る間も惜しんで働く、海外出張も多いような旦那さんほど、お金だけ取られて、全く子どもの養育に参加できない状況ができてしまうんです」

「先に自分が子供を連れて家を出た夫の弁護をしました。妻には、メールで事情を説明し、ここで子どもと暮らすと告げていました。奥さんから子の監護者指定や子の引き渡し審判を申し立てられたんです。そのときに出廷したら、裁判官が開口一番、そのお父さんに“あなたが子供を引き取って何ができるんだ”というんです。まだ何も書面も出していないのに。ここは“公平な裁判所なのか”と思いました。そのケースでは、奥さんはDVをしたとは言ってなかったんだけど、それでも裁判所がそういう先入観を持っているっていうのが恐ろしい」

◆DVはどう認定されるのか

 岩本氏が担当したケースではこんなものもあった。

「その案件では、身体的暴力は認定できなかったんです。ただ子供を連れ去った奥さんは、5~6年前に2回ぐらい突き飛ばされたことがあると言う。だけど、主たる訴えはそうではない。奥さんが、金銭管理が苦手で、旦那さんがしている家庭でした。ある日、突然、その奥さんが、旦那に内緒でお金を継続的にいくらか使っていることが発覚したんです」

 そのときに、当然、夫婦で1時間ほど口論になった。夫が「夫婦でした約束を、黙って破るなんて信用問題じゃないか」「家族に対する背信行為じゃないか」と妻を責めた。妻は妻で「自分の母親に対しての小遣いを送金していたし、自分にも正当性があるんだ」と言い返した。夫が一方的に責めたわけではない、言い合いだった。

「それをなぜか録音されていた。というのは、その数ヶ月前に、奥さんはDV相談窓口に行っていたらしいんです。そこで、何とか旦那さんとの会話を録音しろとアドバイスを受けたのでしょう。録音があったのは、その1時間半の口論のみ。聞いていると、ただの言い合いでした。奥さんはそれがモラハラだと言い出し、警察を呼んで子どもを連れてシェルターに入ってしまいました。当然、旦那さんは子どもがどこに行ったかを知ることが出来なくなりました」

 結局、その夫は、妻に監護権を取られてしまい、現在も係争中だ。そういった妻の一方的なDV申告によって、子ども(親権、監護権、面会交流権)金(婚姻費用、養育費、財産分与、慰謝料)を取られている男性は、年間約15万人に上ると岩本氏は推計する。

「配偶者暴力相談支援センター(市町村設置)の相談件数と内閣府設置の相談窓口(DVプラス)の相談件数を合わせると、15万件以上になりますね。もちろん15万件のなかには、本当に保護と金銭的な支援が必要な母子も含まれていますが、ここに相談にいけば、相手方の言い分を聞くこともなく、住所の秘匿やシェルター保護が実施されます」

 逆に、地方裁判所でやっているDV保護命令申立の制度を利用する人は少ない。なぜなら、その制度を利用すると、加害者とされた側は、法廷に出て反論の機会が与えられるからだ。証拠がなければ却下される。

「役所にある配偶者暴力相談支援センターの相談件数の推移は、平成28年度で12万件です。一方で、地方裁判所の”配偶者暴力等に関する法務事件の処理状況等”は、同年で2,632件しかありません。このデータは神奈川県だけの件数です」

◆多くのDVシェルター都道府県や自治体からの委託事業

「区のDV相談窓口が、逃げるときは子も連れてきなさいと指示したケースもあります」

 そういったシェルターは、自治体や都道府県から委託されたNPO法人等が運営していることが多い。夫側が都道府県や自治体を訴えるケースもある。妻は子の連れ去りに関して、DV相談窓口からの指示があったと証言したが、区は否定した。

 そして、シェルターもまた、行政からの補助金を得ながら運営されている。母子でシェルターに入所すると、一人一泊大人数千円程度、子どもはその半額程度の補助金がシェルター運営者に支払われるという。

「元々、シェルターは公が持っている施設で運営するという話でした。そこに民間の施設も参入できるようになりました。要するに、お金になる構図が出来上がっているんですよ。そこに利権があるとは言い切れませんが、そう勘ぐってしまいます」

 岩本氏の依頼人は8割が夫だ。

「弁護士の立場からすると妻側の弁護をした方が儲かります。自分の依頼人である妻側が子を引き取ることによって、婚姻費用、養育費まで、全部入ってくるじゃないですか。成功報酬は高い弁護士事務所で、18~20%です。養育費が月10万円だとすれば、成功報酬が20%ならば、2万円もらえるでしょう。1年間で24万円ですよね。10年間で240万円でしょう。特に養育費は子が成人するまで支払われます。その1件だけじゃないわけですから儲かりますよね」

 仮にDVと認定されれば、妻側は慰謝料まで取れることになる。夫側につく弁護士が少なく見えるのには、そういう弁護士の金銭面のメリットがありそうだ。面会交流をしないことに成功した場合の成功報酬を取る事務所もある。弁護士費用は事務所のホームページを見れば分かるが、子どもと片親を会わせないことで報酬を取るのは、親子を引き裂く行為にしか見えない。

「夫側の弁護をするときは、支払う側なので、報酬の請求をするのさえ申し訳ない気持ちになります。基本的には妻側につくよりも部が悪いですよね」

◆自殺を考えるDV冤罪被害者男性たち

 冤罪をかけられた夫たちの中には自殺を考える人も多い。

「全てを持っていかれる感じがする人が多いんじゃないかと思います。仕事を辞めたいっていう人はいっぱいいます。だって、子どものために、仕事を頑張れてきたのに、子どもには会えないわ、税金は取られるわ。‟何のために、俺、生きているの”ってなっちゃうでしょう。そうするとみんな希死念慮が生まれちゃうんです。実際に自殺した人もいるし、自殺未遂を図った人もいますよ」

 養育費の未払いが問題になる中、養育費を支払い続け、自殺まで考える男性は、責任感が強い性格に違いない。全てを奪われれば死を考えてもおかしくない。

「冒頭の問題意識に戻れば、共同親権の法制化も大切でだが、DV冤罪で子を失う親(親を失う子)をなくすことと、真のDV被害者を保護していくことを両立させる制度設計が必要です。前者が全く見落とされている、現在のいわゆるDV防止法の見直しも急務だと思う」

 現状の単独親権にも問題があるが、共同親権を採用している国でも課題がある。だが、今の、親子関係を引き裂くような仕組みの一番の犠牲者は子どもだ。どちらがいいのかは慎重に議論していかなければならない問題だろう。今国会でどんな結論が出るのか見守りたい。
<取材・文/田口ゆう>

【田口ゆう】
ライター。webサイト「あいである広場」の編集長でもあり、社会的マイノリティ(障がい者、ひきこもり、性的マイノリティ、少数民族など)とその支援者や家族たちの生の声を取材し、お役立ち情報を発信している。著書に『認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実』(原作、吉田美紀子・漫画、バンブーコミックス エッセイセレクション)がある。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1

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