西島秀俊主演の日曜劇場さよならエストロ~父と私のアパッシオナート~」(毎週日曜夜9:00-9:54、TBS系)の第3話「田園コンサートの奇跡」が1月28日に放送された。同作は、“ある事件”で家族も音楽も失った父・夏目俊平(西島)と、そんな父を拒絶し音楽を嫌う娘・響(芦田愛菜)が、地方オーケストラを通して失った情熱を取り戻し親子の絆と人生を再生させていく完全オリジナルのヒューマンドラマ。コンサートを開催するために新メンバーを募集し、チェロフルート、そして指揮者見習いが加わり、一歩前進したはずだったが、いろいろと問題が発生し先行きがあやしくなってきた。(以下、ネタバレを含みます)

【写真】志帆(石田ゆり子)は変装のつもりだが余計目立ってしまっている

■愛と魂の物語を彩る個性豊かなキャスト陣

西島、芦田の他、響の同僚のポジティブ思考で明るいトランペッター・森大輝役に宮沢氷魚、魔性のフルート奏者・倉科瑠李役に新木優子クラシックに恋する高校生・谷崎天音役に當真あみ、クラシックを諦めたチェリスト・羽野蓮役に佐藤緋美、プレッシャーに弱いティンパニ奏者・内村菜々役に久間田琳加を配役。

また、俊平の息子・海を大西利空、響と海の母親・志帆を石田ゆり子、晴見市の市長・白石一生を淵上泰史、コンサートマスター・近藤益夫を津田寛治、うたカフェの店主・小村二朗を西田敏行、物語の鍵を握る謎の男・鏑木晃一を満島真之介、市民オーケストラの団長・古谷悟史を玉山鉄二が演じている。

脚本は、「凪のお暇」(2019年、TBS系)、「妻、小学生になる。」(2022年、TBS系)などを手掛けた大島里美。劇伴は「テセウスの船」(2020年、TBS系)、「日本沈没―希望のひと―」(2021年、TBS系)をはじめ、多くの作品を手掛けている菅野祐悟が担当。さらに、東京音楽大学教授であり、日本クラシック界をけん引している世界的指揮者の広上淳一が同作のオーケストラを全面監修。また、オーケストラの演奏部分は東京音楽大学が全面バックアップしている。

■団員間に起こったトラブルで雰囲気も悪く...

廃団することが決まった市民オーケストラ“晴見フィルハーモニー”だが、俊平は短い期間の中でもやれることをやりたいと考え、コンサートを行うことを団員に提案した。演奏する曲として俊平が選んだのはベートヴェンの交響曲第6番「田園」。会場は大ホールではなく、いつも練習をしている中ホールでアットホームな雰囲気でのコンサートを目指すという。

オーケストラの音を間近で楽しんでもらいましょう」という俊平の考えに、団員たちも賛同し、それに向けての練習がスタートした。しかし、ここで思わぬ不協和音が響いてしまう。その不協和音というのは単に楽器同士の音ということではなく、団員間に起こったことで、オケの雰囲気もアットホームとはかけ離れたものに。

プロレベルの腕前を持つチェロの蓮が、トランペットの大輝やティンパ二の菜々に対して「ピッチ気持ち悪い」「入りが遅れてる」と演奏ミスに対して厳しく指摘し、場の雰囲気は最悪。

このままでは廃団する前に晴見フィル自身が空中分解してしまいそう。しかし、俊平はそのオケ内の不協和音に対して「それもまた面白い音です」と楽観的。

■コンサート開催予定日に中ホールが使えないことを響が伝えにきた

次の練習でも蓮は厳しい指摘をやめず、他の団員たちは萎縮してしまい、それが音にも影響が出てしまっている。そういうやり取りを見て、フルートの瑠李が蓮に「熱心ね」と声をかけた。責められたと思った蓮は「何か間違ってますか?」と聞き返すが、瑠李は「私もストレスが溜まる演奏は嫌い。猛者と切磋琢磨したいならプロオケに行きなさいよ。なんで瀕死の晴見フィルに来たわけ? 理由は一つでしょ。何かが起こりそうだから」と、蓮の気持ちも理解しつつ、大切なのは演奏技術だけじゃないということを彼女なりの表現で伝えた。

コンサートのチラシを作り、古谷や大輝たちがいろんなところに貼っていくが、そのチラシを市長の白石が見たことで新たな問題が発生。団員が練習している時に響がやってきて、コンサートを行う予定の2月4日はホール閉館に伴う施設点検のため、中ホールが使えなくなったことを伝えた。

帰宅後、俊平は「正直、すっごく腹が立ってる」と珍しく怒りの感情を込めて響に伝えた。しかし、それは響に対しての怒りではなく、「伝えにくいことを君に伝えさせる君の上司に」と、市のやり方に対しての憤りだった。

■険悪な雰囲気の蓮と大輝に「ちょっとした実験」を提案

コンサートが出来る場所を探すために自転車でいろんなところを走ってみた俊平は、晴見市の”道の駅”にやってきた。そこで毎月一回、第一日曜日に朝市が開催され、人でにぎわうと聞き、朝市が開催される日に演奏をすることを思いついた。

中ホールが使えなくなってしまったが、なんとかコンサートは開催できそうな感じになり、俊平はもう一つの問題も解決しようと大輝と蓮それぞれに会いに行った。「ちょっとした実験です」と言って大輝に手書きの楽譜を渡した。そして蓮にも同じ提案をした。

そして当日、多くの人でにぎわう朝市の会場に椅子を並べ、「田園」の演奏が始まった。のどかな朝の雰囲気に「田園」はぴったりの曲。第一楽章が終わったところで、俊平は朝市のお客さんに向かって話を始めた。この曲がベートーベン交響曲「田園」であること、第一楽章のテーマ、そして次に演奏する第二楽章のテーマも。

■歌うトランペットには誰も敵いません

この第二楽章が俊平の考えた「ちょっとした実験」だった。「本来ならオーケストラによる美しい演奏なんですが、今、うちのオケは緊急事態でして、2人の有望な若者がケンカ中なんです」と赤裸々に伝えた。その2人とはもちろん蓮と大輝のこと。「今日はベートーベン先生のお力を借りて、仲直りか、大いなる破綻か、第二楽章を2人きりで演奏していただこうと思います」と見ている人たちに伝えた。

本来なら第二楽章にトランペットは入ってないが、俊平がアレンジしてトランペットのパートにした。蓮に提案した時、ピッチが悪いトランペットとは演奏できないと拒否されたが、「ピッチオーケストラでの共通言語だけど、2人きりなら君がトランペットに合わせるという選択肢もある」と、蓮の高い演奏力を見込んでのお願いをした。

「これは出来ない」「あれは出来ない」と言うのではなく、「こうすればやれるんじゃないか」というのを提案できるところが、マエストロと呼ばれるゆえんだと言える。第3話の中だけでも、俊平の言葉によって団員たちの気持ちが変わったり、雰囲気が変わったりする場面を多く見ることができた。

「一番大事なのは心から歌うことです。君のトランペットには優しい歌心がある。歌うトランペットには誰もかないません」

これは俊平が大輝にかけた言葉。「ピッチが悪い」とは言わず、長所を伝えて、伸び伸びと演奏をしてもらい、その魅力を発揮させる。

第二楽章は大成功。その後、雨で演奏は中断されてしまうが、ゲリラコンサートは成功となり、オケ内の不協和音問題も見事解決してみせた。廃団になることは決定事項だが、俊平によってまだまだ変化しそうな部分も多そうだ。

◆文=ザテレビジョンドラマ部

「さよならマエストロ 〜父と私のアパッシオナート〜」第3話より/(C)TBS