変貌する中国市場における新たなビジネスチャンスとは? 本連載は、年平均4.7%の成長率を維持し、さらなる成長の機会を獲得しようとする中国が描く「新発展」戦略や新たに生まれる巨大市場について、気鋭の研究者が徹底解説した2030年中国ビジネスの未来地図』(チョウ イーリン著/東洋経済新報社)から、内容の一部を抜粋・再編集。

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 第1回は、中国市場の新しい主役となる「エリア」と「世代」の特徴について解説する。

<連載ラインアップ>
■第1回 「下沈市場」「国潮・国貨」、2030年代の中国市場を見通す注目ワードとは?(本稿)
第2回 9.3億人超、全人口の66%を占める「下沈市場」に注目すべき3つの理由
第3回 なぜ日系コンビニの弁当が伸び悩んだのか?「下沈市場」の特徴とは?
第4回 ファーウェイも実践、下沈市場を開拓するための「農村包囲都市」戦略とは?

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はじめに

2030年の中国と発展計画の大転換

 中国語には「三十年河東、三十年河西」ということわざがあります。元々川の東側だったところが30年もたつと西側に変わっていたりするという意味で、世の中の盛衰は常に移ろいやすいことを表しています。

 中国経済は今世紀に入ってから2001年のWTO加盟を契機に急速な発展を成し遂げました。WTO加盟から30年が経過する2030年頃には、中国はどのような姿になり、さらに次の30年に向けて何を目指そうとしているでしょうか?

 中国では、2021年3月に「国民経済・社会発展第14次5カ年計画(2021-2025年)と2035年までの長期目標綱要」(以下「第14次5カ年計画・2035年長期目標」)が公布されました。その中では、2035年までに一人当たりGDPを3万~4万ドルという中程度の先進国水準に引き上げ、さらに建国100周年の2049年までに「社会主義現代国家」になるとの目標が掲げられています。

 この目標の実現には、「日増しに増大する素晴らしい生活への需要とアンバランス、不十分な発展」という主要課題が挙げられています。この課題を解決するために、重要なキーワードとなっているのが「新発展」です。中国経済は2007年までの二桁成長時代の後しばらく一桁台後半の「新常態(ニューノーマル)」に入ったのですが、そこから脱皮し、「新発展」戦略で年平均4・7%の成長率を維持し、さらなる成長の機会を獲得しようとしているのです。

「新発展」戦略の方向性を示す重要なキーワードは「双循環(国際・国内市場)」、「数字中国(デジタルチャイナ)」、「緑色成長(脱炭素・グリーン成長)」の3つです。これらのキーワードを軸に中国は発展の大転換を迎えようとしています。

■「下沈市場」が中国市場の主役

 14億人の巨大市場と言われている中国ですが、地域間の格差が存在し、購買力も嗜好も異なります。これまで、外資企業をはじめとする多くの企業は経済発展が進んだ沿海部の地域の住民たちをメインの顧客層にしていましたが、状況は大きく変わっています。

 これまで後れを取っていた「下沈(シャアチェン)市場(3級都市以下の地方都市・農村地域)」の変貌ぶりに注目すべきです。

 デジタルインフラの整備にともない、各種デジタルサービスが浸透し、当該地域に住む人々のライフスタイルも購買力も変化しています。消費者市場も各種アプリの新規ユーザー数が飽和状態を迎えた沿海地域と比べると、9億人超を抱えている「下沈市場」は新たな消費市場となるのに違いありません。

 この中国の中の新興市場にいち早く飛び込む企業が間違いなく新たな勝者になりますが、そのために日本企業は「下沈市場」の顧客層に接近するためのマーケティング戦略を練り直さなければなりません。

■デジタル世代がけん引する新消費と新興ブランド

 中国は現在、物不足の時代の生存のための消費から、モノが豊富な時代の享受型消費、さらに個性的な消費へと変化しています。そのため、中国ではあらゆる分野で新興ブランドの創出が可能になることが共通認識とされています。

 また、ここ数年、中国人との会話の中で、「国運」という言葉が頻繁に出てきます。近代の多難と衰退から中国が再び強くなるとの考え方ですが、その信念には「中華民族の復興」というナラティブ(物語)があり、普段の消費行動にも影響を及ぼすようになっています。

 例を挙げると、中国では「国潮(中国の伝統的文化やデザインを製品およびサービスに取り入れる潮流)」ブームが起きています。また、「華為(ファーウェイ)」に対する米国の制裁が始まってから、中国人はファーウェイの製品を以前より買うようになったように、中国企業を応援したいとの気持ちから「国貨(国産品)」を買う「愛国消費」の気運が高まっています。

 個性のある消費や「国潮・国貨」ブームをけん引しているのが、いわゆる「Z世代」をはじめとするデジタル世代です。比較的豊かな環境で育てられ、中国の経済発展に自信をもち、中国への誇りや中国文化の価値を強く自覚している中間所得層や若い人たちのことです。日本企業は彼ら彼女らに対しての発信力を強化し、ブランド認知度を高めることが、中国市場で成功するカギになると言っても過言ではありません。

■一歩先の中国ビジネス

「世界の工場」から「世界の市場」へと変貌した中国ですが、「常に変化し、唯一、変化していないのが変化していること」と感じる読者の方が多くいると思います。

 想定外の出来事が次々と起きており、予測不可能な時代だと言われていますが、その中から確実性を見つけ、一歩先の中国ビジネスを考察するのが本書の役割です。

 読者の皆様にとって2030年代への扉となり、これからの中国ビジネスを知るためのヒントが得られる一助になることを願っています。

<連載ラインアップ>
■第1回 「下沈市場」「国潮・国貨」、2030年代の中国市場を見通す注目ワードとは?(本稿)
第2回 9.3億人超、全人口の66%を占める「下沈市場」に注目すべき3つの理由
第3回 なぜ日系コンビニの弁当が伸び悩んだのか?「下沈市場」の特徴とは?
第4回 ファーウェイも実践、下沈市場を開拓するための「農村包囲都市」戦略とは?

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