年金は原則、年6回、偶数月の15日、15日が土日や祝日だった場合は、その直前の平日に支払われます。そして原則、その前月までの2ヵ月分の年金が支払われます。初めての年金支給日、どこかウキウキした気分。しかしそこで怒りを覚える人も多いようです。みていきましょう。

知らない人が意外と多い「年金も課税対象」という事実

――なんで年金に税金かかるんだよ!

初めて年金を手にしたという65歳の男性の怒りの投稿。年金の振り込まれた通帳をみて、ついついカーッとなったといいます。このように、事前に把握していた年金受給額と実際の振込額が違うと騒ぎ立てる人は後を絶ちません。

それに対して、日本年金機構の回答。

Q. 年金から税金が差し引かれています。どうしてですか。

A.お答えします

老齢の年金は、所得税法の雑所得として扱われ、所得税がかかることになっています。

65歳未満の方でその年の支払額が108万円以上の方や、65歳以上の方で158万円以上の方の場合は、原則として所得税がかかります。

年金に課税される所得税は、源泉徴収することとなっていますので、日本年金機構では年金を支払う都度所得税を差し引いています。

そう、年金は雑所得で課税対象。65歳以上であれば非課税ラインとなる158万円を上回る所得があった場合には税金が天引きされます。「そんな初歩的なこと、知らないほうが悪い」と主張する人もいますが、意外とその事実を知らない人が多いのです。

日本の公的年金は、大きく自営業や専業主婦・主夫、学生などが対象となる国民年金(老齢基礎年金)と、会社員や公務員が対象となる厚生年金(老齢厚生年金)の2つ。令和6年度の受給額は、国民年金が満額で6万8,000円、厚生年金はモデル夫婦(平均的な収入を40年間就業した夫と、40年間専業主婦だった妻という夫婦)で、月23万0,483円です。

また厚生労働省令和4年厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、国民年金受給者の平均年金月額は5万6,428円、厚生年金受給者の平均年金月額は併給の国民年金と合わせて14万4,982円。また65歳以上の受給権者の平均年金月額は、男性が16万7,388円、女性が10万9,165円でした。

*裁定手続きにより年金もしくは一時金を受ける権利(受給権)が確定した人を受給権者、受給権が確定し実際に給付を受けている人を受給者という

年金月16万円の65歳男性…実際の手取り額はいくら?

年金から引かれるものには、所得税、住民税、国民健康保険料(後期高齢者医療保険料)、介護保険料などがあります。

所得税

65歳以上で年金受給額が158万円以上の場合、年金より天引きされる

●住民税

4月1日時点で65歳以上の公的年金受給者で、年金受給額が18万円以上、かつ前年の年金所得に対して個人住民税がかかる人が対象。前年の年金所得にかかる税金が天引きされる。所得額に応じて課される所得割と、所得額に関係なく一律に課される均等割りの2種類があり、所得割は年金収入から公的年金等控除額や所得控除額を引いて課税所得金額を求め税率(市町村民税が6%、道府県民税が4%)を適用して計算。均等割の標準税額は市町村民税3,500円、道府県民税1,500円で、自治体によって金額が異なる

●国民健康保険料

65歳以上75歳未満で国民健康保険に加入している人のうち、年金受給額が18万円以上が対象。国民健康保険料と介護保険料の合計額が年金受給額の2分の1を超える場合、国民健康保険料は特別徴収の対象にならない

介護保険

65歳以上の人のうち年金受給額が18万円以上が対象。保険料は本人の所得状況等に応じて決まり、居住する自治体によって異なる。65歳以上の介護保険料の平均月額は6,000円程度

●後期高齢者医療保険料

75歳以上、65歳以上75歳未満で後期高齢者医療保険制度に加入している人のうち、年金受給額が18万円以上が対象。後期高齢者医療保険料と介護保険料の合計額が年金受給額の2分の1を超える場合は、特別徴収の対象外

仮に冒頭の男性が65歳・元サラリーマンだとして、平均的な年金額を手にしているとしましょう。年金受取額は年200万8,656円。簡易的な計算ではありますが、所得税は1万2,400円、住民税は3万4,800円、社会保険料が18万円ほどとなり、手取りは178万円程度になると考えられます。

このように年金の実際の受取額は、額面の85%~90%程度になります。

「年金も課税対象」への怒りの根底にある「高齢者の生活苦」

「これまで、あれやこれやと税金を払ってきたのに……まだ搾取する気か!」と、年金に税金がかかることに対して不満をもつ人は多いようです。

しかしながら、少子高齢化が進む日本。2023年の高齢化率は29.1%に達しました。今後、2025年には30.0%、2040年には35.3%、2060年には38.1%に達すると予測されています。

そして高齢者1人を現役世代の何人で支えるかといえば、現在は現役世代1.9人で1人の高齢者。それが2040年には現役世代1.5人で1人の高齢者を、2060年には現役世代1.4人で1人の高齢者を支えなければいけない時代がやってきます。とても現役世代だけで高齢者の生活を支えることはできない……高齢者にも税金を払ってもらわないと、とても社会が成り立たないのです。

しかしながら、高齢者の生活は厳しい状況。厚生労働省令和4年 国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯1世帯あたりの平均所得は318.3万円。その構成割合をみていくと、「公的年金・恩給」が62.8%、「稼働所得」が25.2%、「仕送り等」が6.0%、「財産所得」が5.4%、「年金以外の社会保障給付金」が0.6%。圧倒的に年金への依存度が高いことが分かります。それにも関わらず、年金受給額は物価上昇率を上回ることなく実質減額。2040年代の年金支給額は現状の2割以上減は既定路線といわれています。また高齢者に生活意識を尋ねたところ、48.3%が「生活が苦しい」と回答し、「生活が大変苦しい」は全体の18.1%と、5世帯に1世帯にも達しています。

冒頭の男性は非課税ラインを上回る年金額を手にしていたことから、税金が天引きされていました。高齢者のなかでは比較的年金をもらっているほうかもしれません。しかしそれで老後も安泰かといえば、そうとはいえない程度の年金額であることは確か。思わず「年金から税金をひくなぁ!」というのも、仕方がないことかもしれません。

[参考資料]

日本年金機構『年金から税金が差し引かれています。どうしてですか。』

厚生労働省『令和6年度の年金額改定について』

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』