チャウシェスク独裁政権下にあったルーマニアは、重工業化を目指して西欧から数多くの設備を輸入した。その債務返済のために、国民の生活そっちのけで食糧を輸出し続けた。その一方でチャウシェスク夫妻は贅沢三昧な生活を送り、国の経済規模に見合わないハコモノを作り続けた。

妊娠中絶や避妊が禁じられていたため、苦しい生活から子どもを捨てる親が続出し、1980年代に入ってから孤児院はキャパオーバーと予算不足に苦しんだ。孤児たちは暴力、性的虐待、栄養失調、滅菌していない器具を通じたHIV感染に晒され、チャウシェスク政権が倒された後には、街にストリートチルドレンが溢れた。

今の北朝鮮は、当時のルーマニアの前轍を踏んでいると言っても過言ではないだろう。国民の飢えをよそに豪華なタワマンが雨後の筍のように次々と建てられ、少子化対策として妊娠中絶や避妊が禁止され、生活苦から子どもを捨てる親が後を絶たない。

金正恩総書記が育児院、愛育院、初等学院、中等学院と呼ばれる孤児院に力を入れているところがルーマニアとの違いだが、それで守られる孤児は一部だけで、中等学院卒業した後の孤児の一生は惨めなものだ。

誰も行きたがらない炭鉱などに送り込まれ、労災事故で死亡しても補償する必要のない「都合のいい労働力」として酷使されている。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、順川(スンチョン)にある直洞(チクトン)炭鉱で今月11日、崩落事故が起きて、6人の労働者が閉じ込められた。

朝鮮労働党の直洞炭鉱委員会は、今年の生産計画(ノルマ)が高めに設定されたことを受け、年初から成果を出すべく、廃坑での石炭採掘を再開することにした。労働者たちが危険だとして行きたがらなかったため、中等学院の卒業生10人からなる「院児小組」を作って送り込んだ。

それも、「お前たちには親もいなければ、外にコネもなく、まだ若くて経験もない。この坑道で成果を出せることを見せつければ、未来への道が拓けるだろう」と甘い言葉で誘い出し、彼らを無理やり廃坑に押し込んでしまった。

この炭鉱には経験を積んだ機能工や除隊軍人が多く、彼らが大手を振って歩いている。一方で新人、中でも孤児ばかりが労働環境の悪いところに送り込まれるのだ。配属されて1年足らずで削孔、発破、掘進などの技術にも慣れていない労働者が、機能工の付き添いもなく早朝から廃坑に送り込まれた。事故は起こるべくして起きたのだ。

現場の状況や技術に疎い朝鮮労働党委員会がトップにいることから、現場の反対をよそに無理な計画を進めて、事故に繋がるのは毎度のことだ。そして、責任は現場に押し付ける。今回も、中等学院出身者ばかり送り込んだのが間違いだったとして、生存者を他の坑道に転属させた。

坑道に閉じ込められた6人を救助する作業は行われたが、炭鉱当局は「1週間も過ぎたのだからどうせ死んでいるだろう」と、人命救助から遺体の収容に切り替えた。

今回の事故を見た中等学院出身の労働者は、「自分たちもあの坑道に入っていたら同じ目に遭っていたはず」だと、天涯孤独の身の上を嘆きつつ涙をこぼしたとのことだ。コネとカネが物を言う北朝鮮社会で、孤児は圧倒的に不利な立場に置かれるのだ。

そんな冷遇に耐えられず、密かにヤマを去る人たちも出ている。通報を受けた炭鉱の安全部(警察署)は、彼らを「不良児ども」となじり、行方を追っている。「育ててくださった元帥様(金正恩氏)に恩返しもせず、逃亡した反革命的存在」といったところだろう。

逃げ出した人々は、孤児だからと差別されず、仕事ができるところを探してさまようのか、コチェビ(ストリートチルドレン)に戻って半グレになるのか。いずれにしても、幸せな未来は訪れないだろう。

直洞炭鉱の内部(画像:朝鮮中央通信キャプチャ)