「福利厚生」と聞くと、「社員側にメリットが大きい」というイメージが強いかもしれませんが、税理士法人グランサーズの共同代表で税理士公認会計士の黒瀧泰介氏は「福利厚生を充実させると、経営者・社員双方にとって“win-win”になる」といいます。その理由と、節税になる「5つの福利厚生」について、詳しくみていきましょう。

「福利厚生」の活用は経営者・従業員双方にとって“win-win”

――社員のことを考えると、「福利厚生」を充実させたいと思っている経営者は多そうですよね。

黒瀧氏(以下、黒)「そうですね。福利厚生は採用時のアピールポイントにもなりますから、積極的に導入していきたいところです。ものによっては節税になって、結果的に社員の手取りも増えますし」

――え? 福利厚生が節税になるんですか? ちょっとその話、詳しく聞きたいです。

黒「わかりました。今回は福利厚生費を使った節税方法と、おすすめの福利厚生について紹介していきますね」

福利厚生で「節税しながら手取りが増やせる」しくみとは?

――「節税しながら手取りが増やせる」と言っていましたが、それってどういう仕組みなんでしょうか。

黒「通常は、金銭以外で従業員に現物支給されたものも、原則的には所得税と住民税が課税されて(=給料扱いとなり)、源泉所得税の対象となります。ただし、特定の物は課税されず、福利厚生費として会社の経費に計上することができます」

――へえ! 節税できるんですね。

黒「はい。しかも、支給された役員や従業員の側も課税されません。つまり、会社が支払う額は同じでも、給与ではなく福利厚生費として計上できれば、恩恵を受ける役員や従業員側は手取りを増やすことに繋がります」

――ということは、福利厚生費は、会社も、役員や従業員も得をする、いわゆる“win-win”の節税なんですね。

黒「そのとおりです。経営者であれば、会社と役員、両方の立場でメリットがあります」

「福利厚生費」として認められるための「3つ」の要件

――社員に支給したものが、福利厚生費として認められるための要件を教えてください。

黒「必要な要件は下記の3つです。

1.社内規定を整備しておくこと

2.社員全員を対象としていること

3.社会通念上で適当と思われる金額であること

一部の社員のみを対象としている場合、『該当する社員への給与』と判断されてしまい、所得税の対象となってしまう場合があるのでご注意ください」

――3つ目の「社会通念上適当と思われる金額」という要件についてですが、この金額に基準はあるんですか?

黒「『常識の範囲内であるか』というところで難しい話ではあるんですが、税務調査があった際、調査官に『こういった根拠があってこの金額である』ということを、自信をもって説明できるかどうかというのがポイントだと思います。帳簿を作る際には、福利厚生費の項目ごとに、しっかりと金額を明示するようにしましょう。

また、福利厚生費で節税する際には、目的を間違えないように注意してください」

――目的? これはどういうことでしょうか?

黒「福利厚生は『社員の満足度を向上させつつ、費用を経費に計上できる』というものですので、うまく使えば会社と社員の両方にメリットがあります。

しかし、『節税したいから』などといってむやみに福利厚生費を増やしても、それが従業員に恩恵がなければ意味がなく、ただの無駄遣いになってしまう可能性があります。

あくまで会社として土台をしっかりさせたうえで、キャッシュフローを増やすことを目的とし、事業の業績向上に繋がるかどうかを考えて、福利厚生を導入するか検討していただきたいです」

――なるほど。「社員が満足できるか」「ビジネスに繋がるか」の両面から福利厚生を考える必要があるということですね。

福利厚生費を使った「5つ」の節税方法

――では、ここからは、福利厚生費を使った節税方法を具体的に5つ教えていただきたいと思います。

1.社宅制度

黒「役員が賃貸物件に住んでいるのであれば、会社がその物件を借りて社員や役員に『社宅』として転貸すれば、節税が可能です。

会社が家主に家賃を全額支払い、実際に住んでいる社員から50%受け取った残り、つまり、家賃の50%を経費にすることができます。

たとえば、家賃20万円のマンションを会社が借り上げたとしましょう。まず会社から大家に20万円家賃を払い、社員が会社に10万円の家賃を納めます。このとき、差額の10万円を経費に計上することができるということです」

――経費に計上できる以外にも、メリットはありますか?

黒「はい。社員の手取りが増え、会社の社会保険料負担が減ります。

たとえば、

・額面給与50万円

・家賃20万円の賃貸マンション

という条件で役員社宅制度を導入し、会社が10万円家賃負担する場合、その分の給与を減らすことで税金や社会保険料が減るので、月の手取りは2万円増える計算になります。また社会保険料は折半ですので、額面給与が減ることから会社の社会保険料負担も減らせます」

――会社側、役員側双方にとってメリットがある方法なんですね。ちなみに社宅の家賃の上限や下限はありますか?

黒「社宅の家賃について、明確な上限や下限は設定されていません。ただし、あまりに豪勢な社宅だと、税務署に突っ込まれる可能性はあります」

「残業時の食事代」も福利厚生費になる!

2.残業時の食事代

黒「残業時の食事代を会社が負担したのであれば、給与として課税されません」

――残業の途中ではなく、終わってから食べるのはダメですか?

黒「そうですね。食事は残業が終わったあとでもかまいません。ただし、残業後に居酒屋などで飲食をした場合には、『適正な額でない』と否認されることがあるので注意してください。また、勤務時間“外”であることが条件です。通常の勤務形態の時間内の食事代には、適用できません」

――昼食を社員食堂で提供して、その費用を福利厚生費にすることはできませんか?

黒「昼食代の一部を会社が負担して、福利厚生費に計上することは可能です」

――「一部」というと、具体的にいくらぐらいでしょうか。

黒「まず、勤務時間内の食事支給を福利厚生費として認めるには、『給与から従業員負担分を天引きする』という要件を満たす必要があります。

そして、会社側が負担できる金額は、1人当たり1ヵ月3,500円、 年間4万2,000円までとなっています。仮に従業員が20人いれば、年間で84万円経費として使うことが可能です。

反対に、役員や従業員の立場からもみてみましょう。たとえば社員食堂での昼食代が500円だったとして、1ヵ月のうち20日間利用して3,500円分を会社が負担したら、1食あたり325円です」

――いつもお昼に外食している場合、社食のほうがだいぶ安上がりですね。では、勤務時間内に社外の人を含めて会議を行って、そこでお弁当を出した場合やランチ・ミーティングを行った場合は、福利厚生費にできないんでしょうか?

黒「その場合、福利厚生費ではなく、『会議費』として経費にできます。理想としては、議事録をしっかりと残しておくことをおすすめします。もし会議が頻繁で、毎回議事録を作るのが難しい場合は、参加したメンバーの名前なんのための会議だったかがわかる記録を残しておきましょう」

3.健康診断

黒「健康診断にかかる費用は、本来は、本人が負担するべきであり、会社経費とはなりません。しかし、役員と社員の全員を対象に健康診断の費用を負担した場合には、経費となります」

――これはうちも毎年やってますね。全員対象が原則なんですね。

黒「はい。経営者としては、重要メンバーである“役員のみ”や“幹部のみ”にしたくなるかもしれませんが、福利厚生は『平等性』が求められるため、全社員を対象としてください。ただし、“一定の年齢以上の人”などという制限の仕方であれば、経費として認められます」

――年齢で絞るのはありなんですね。対象者それぞれに費用を渡して、各自で診断機関に払ってもらえばいいですか?

黒「福利厚生費にするには、会社が診断機関へ直接費用を支払わなければなりません。従業員が立て替えてしまうと福利厚生費としては認められません」

ぜひ整備を!節税効果が大きい「出張手当」

4.出張手当

黒「営業などのため宿泊を伴う出張が多い会社の場合、『出張旅費規定』を作成し、出張手当の制度を整えることで節税につながります。これは、会社にとっても従業員にとってもメリットが大きいので、ぜひ整備することをおすすめします」

――そうなんですね! どういった点が節税になるんでしょうか。

黒「『出張旅費規程』に基づいて決まった額を『出張手当』として支給した場合、全額を会社の業務上必要な経費として計上できます。

従業員の側でも、旅費の実費ではなく決まった額が出張旅費規程に則って支給されるため、旅費を節約すれば実質的に手取り額が増えます。しかも、その分は給与所得として扱われないため、所得税がかかりません」

――給与でないということは、社会保険料もかからないんですね。

黒「はい。出張手当の制度を整えることは、会社にとっても従業員にとってもプラスになります。『出張旅費規程』については、ネット上に多くのひな形が出回っているので、そちらを活用してみてください。

ただし、出張手当の金額は、『社会通念上相当な範囲内』に設定する必要があるためお気をつけください」

――上記[図表2]中では日当1万円に設定してありますが、実際にはいくらぐらいの日当が多いですか。

黒「そうですね。実際社長であれば5,000円~1万円、従業員は3,000円~5,000円くらいが多いです」

――この制度を利用するうえでの注意点はありますか?

黒「税務調査では、出張の記録を求められることが多いです。そのため、調査が入った場合に備えて、出張の都度、記録をきちんと残すようにしてください」

5.社員旅行・研修旅行

黒「コロナが落ち着いてきたということもあり、最近は検討する会社が増えてきましたね。社員旅行は、次の4つを満たした場合に、かかった費用を経費にすることができます。

1.旅行の期間が4泊5日以内であること

2.旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上であること

3.欠席者に現金支給を行わないこと

4.少額であること

――4つ目の「少額」というのは、具体的にはいくらくらいですか?

黒「一般的には、1人あたり10万円ぐらいまでといわれています」

――10万円というと、けっこういい旅行ができますね! 研修旅行にも適用できますか?

黒「はい。業務のために必要な研修であれば、給与課税されることはありません。

ただし、税務調査の際に『私的な旅行ではないか』などと探られることがあります。疑われないよう、研修資料や日程表などの資料を整備して、あくまでも研修の実態があることを示せるようにしておいてください」

――なるほど。これはたとえば、「1日目を研修で、2日目は自由解散」というスケジュールでも問題ないですか?

黒「それは可能だと思います」

――以上、福利厚生で節税できる5項目を解説していただきました。いやあ、結構たくさんあるんですね。

黒「はい、最近は会社によって本当にさまざまな福利厚生があるので、ぜひ他の会社の福利厚生を調べてみてほしいと思います。今回紹介した項目は、結果的に手取りが増えることに繋がりますので、うまく活用してほしいです」

黒瀧 泰介

税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士税理士

(※写真はイメージです/PIXTA)